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○「酒のアテに最高」ってなんだ


「ひとりで気軽にふらっとお酒を飲みに行こう」という特集の記事を執筆することになった。
それまでも、「ちょい飲み」とか「ひとり呑み」「サクッと飲み」とかいう言葉は聞いたことがあったものの、その内容を改めてきちんと考えたことはなかった。…なんかサラリーマンが仕事終わりに一人でお酒飲んで帰るみたいなことかしら?
上司に「まあとりあえず今までの記事見ながら何本か書いてみてよ」と言われたので、まずはそういった記事を読みまくることから始めた。

すると、あることが引っかかった。
今まで気にも留めなかった「○○は酒のアテに最高だ」「駅チカなので終電の心配もなく飲める」「ひとりで気軽にサク飲みができる」などのフレーズが無性に気になったのである。

まず驚いたのは、「飲むことにこんなに情熱を傾けている人たちがいるのか!」ということだ。終電を気にしてまでも、サクッと短い時間を割いてでも、飲むことを優先する人たち。みんなこんなにも飲むのが好きなのか...!
そして次に衝撃だったのは、「アテ(おかず)という存在をかなり重要視しているらしい」ということだ。濃い味付けとか、塩辛ければいいとかそういうことでもないらしい。日本酒にはうまい刺身だとか、ワインには肉汁溢れる肉だとか、色々こだわりがあるらしい。食えればいいってもんじゃない。かといって飲めればいいってもんでもない。両方のマリアージュが成り立ってこその「飲み」の醍醐味なのだという。

よく考えてみると、私はそもそも「お酒」と「つまみ・アテ」の関係性をよく理解していないようだった。「アテでちびちび飲む」みたいな感覚もよくわからない。「ちょっとずつつまむ」ってなに?がっつり食べないの?なぜ??
どうやら、お酒を理解するには「お酒とアテ」つまりは「飲むと食べる」の相互関係を理解した方がよさそうだ。

そう思い、私は呑兵衛の友人に聞いてみた。
「飲んでるときって、お酒が主なの?それともおかず(アテ)が目的なの?」
友人は「は?」みたいな顔をした後こう言った。
「お酒に決まってんじゃん。すべては酒のためにあるんだよ」。
答えの予想はしていたものの予想外の剣幕に一瞬たじろぐ。
「えっ、アテは?手間かけて作ってるのに?料理はサブなの?」
するとその人はきっぱりと言い放った。
「いや、お酒の方が手間かかってるから!」
へーっ!と思った。そうか、そういう考え方もあるのか。
言われてみると、確かに日本酒なんかはものすごく手間がかかっている飲み物だ。仕込んで、一定期間寝かせて、逐一温度管理をしながら発酵して…。
「そういう一つひとつを乗り越えてこうして一杯になるわけだから…そりゃ、お酒の味を最大限味わえるアテで飲まなきゃって思うでしょ」
そうか。「酒のアテに最高」っていうのは、「(最高のお酒に合わせるアテとして)最高」ってことだったのか。そう考えると、「アテで飲む」というのは、そういう風にお酒の背景に思いをはせ、大切にする人たちのためにある言葉なのかもしれない。ただの食事とは違うのだ。

え、でも待てよ。
そう考えるなら、アテにする食材だってそもそもを辿ればめちゃくちゃ手間かかってるんじゃ...?だって「塩だれキャベツ」だって、一見手抜きメニューのようだけど、キャベツ育てるところから考えるとすごい手間なわけだし...

ふとそう考えて口を開こうとしたものの、でもまあいいかと思い直した。
そう言いながらお酒を飲む友人の姿が、本当に幸せそうだったからだ。

結局お酒とつまみの関係はハッキリとはしなかったけれど、こういう「呑み」のひとり時間を大切にしている人たちのために書こう、と私はこっそり決心したのだった。

(食欲をさがして③)