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2024.1.7「まつぼんぐり」

うるうアドベントカレンダー4日目。
今日は1月7日。うるう年になりました。
4年前の今日は、うるう金沢公演です。


まつぼっくりのいいやつを拾ったんでね、ドングリの木にぶら下げてみたんですよ。
そしたらこれが本当に実っているみたいに見えて、実に不自然。
ないのに、そんな植物。ないのに。
まつぼんぐり。

彼は野菜の組み合わせ栽培に続けて、不思議な遊びのことを話します。


まつぼんぐり

ヨイチは森の中で色々な一人遊びを生み出しています。
木に別の種類の木の実をくくりつけて、「ない植物」を作り出す、というのもその一つです。
ヨイチは生み出した「ない植物」に対して、まつぼんぐり、すぎぼっくり、いちょぼっくり、といったふうに名前を与えていきます。

終盤、「コンパニオンプランツ」の記事で取り上げたトマトとバジルにも、掛け合わせて新しい植物が生み出せないかと考え、名前を与えようとしています。
異なる植物同士を掛け合わせて新しい植物が生み出された例は実際に存在します。こうした植物は「ハイブリッド野菜」と呼ばれています。

たとえばジャガイモとトマトは接ぎ木の手法によって一つの植物として育てる試みが行われており、「ジャガトマ」「トムテト」といった名前が与えられています。


このほかにも大根とキャベツを組み合わせた野菜「キャベコン」などがあります。ただ、こういったハイブリッド野菜は継続して栽培することが非常に難しいようです。

これらのハイブリッド野菜は、主に接ぎ木の手法によって生み出されています。
「まつぼんぐり」「すぎぼっくり」は木の実を別の木にくくりつけてぶら下げているだけですが、実際のハイブリッド野菜を生み出す接ぎ木に近い手法のようにも見えます。
トマトとバジルについては、ヨイチが想像するような新しい植物が、ハイブリッド野菜としていつか生み出されるかもしれません。


植林の森

ヨイチは「まつぼんぐり」や「すぎぼっくり」を作り出して、その不自然さを楽しんでいるようです。(逆に組み合わせても違和感がない植物に対しては、「がっかり」しています。)
木の実が実際になっているように見えるけれど、本来であればこの世に存在しないはずの植物なので、どこか違和感がある。
この遊びは、『うるう』という物語のモチーフに強く結びついているようにも感じられます。

『うるう』初演時から使用されているこのポスター写真の撮影では、実際の森の中にセットを組んで撮影が行われました。
その際、撮影地として原生林ではなく植林の森が選ばれました。ポスターの木々が垂直に伸びる幹であるのはそのためです。
「自然なのにどこか不自然である」植林の森が、ヨイチという存在を表現するのに適していると判断されたそうです。

ヨイチやうるうびとという存在を説明する際に、「ないはずの1」という言葉がたびたび用いられます。
「ないはずの1」は、2月29日という日が本来は存在するはずのないものであり、またヨイチが人間の摂理に反した存在であるという点を表現しています。
ヨイチという存在の不自然さや違和感は、自然でありながら人工的である植林の森と共鳴し合っています。

同じように、ヨイチが作り出す「ない植物」は、彼の存在そのものや、彼がこの森に存在することの違和感を象徴しているようにも感じられます。

異なるものを組み合わせる

「ない植物」遊び以外にも、ヨイチは森の生活の中で異なるものを組み合わせるという行為を行っています。
2日目に取り上げた野菜の組み合わせ栽培もそうですし、後半の影絵遊びに登場する「マカ」も、存在しない動物です。

彼がこのような「複数のものを組み合わせてないものを生み出す」という行為を好むのはなぜなのか。
物語の外側からこの事実を眺めると、前述のように「うるうびと」という存在の象徴として捉えることもできますが、物語の内側に立つと、彼の好みや習慣が見えてくるのではないかと思いました。

中盤の独白パートで、ヨイチはズボンのあまり布をもらってきて、誰とも違うズボンを作ったと話します。
あまりの1である自分には、自分のためのズボンが与えられない。だから仕方なく、布の切れ端を組み合わせて、一つ分のズボンを作っている。
ヨイチにとって、あるものを組み合わせて本来は存在しないものを作るという行為は、日々の習慣であったのかもしれません。
彼のための物は用意されず、与えられることもない。
ヨイチにとっては遊びの中で生まれた「ない植物」も「ない動物」も、彼に寄り添ってくれる唯一の存在だったのかもしれません。


【参考文献】
『デザインノートEXTRA = DESIGN NOTE EXTRA : good design company水野学(SEIBUNDO mook)』誠文堂新光社、2013年

↑うるうのポスター撮影時のエピソードに関してはこの本が詳しいです。小林さんのコメントからは『うるう』への思いも伺えます。


次回は1月11日更新です。

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