2024.1.12「やすいたくらみ おとしあな」
うるうアドベントカレンダー6日目。
今日は2024年1月12日。
4年前の今日は、うるう札幌公演2日目です。
舞台上に草が揺れる音と鈴が響き、彼は地面をのぞきこみます。
獲物を捕まえるために穴を掘り、罠を仕掛けているようです。
ウサギを捕まえる
ヨイチは罠を仕掛けて動物を捕まえようとしています。この後のセリフから、狙っているのは主にウサギのようです。
彼が森で罠を仕掛けて捕まえようとしているのは、日本の固有種であるニホンノウサギであると思われます。一般的に「野ウサギ」と呼ばれる種類です。
ウサギは比較的簡単な罠で捕まえられる動物のため、子どもが山に捕まえに行くこともあるようです。戦前・戦後の一部地域では、耐寒訓練の一環としてウサギ狩りを取り入れていた小学校もあったといいます。
現在ではあまり一般的な食肉ではありませんが、日本においてウサギは古くから狩猟対象となる身近な動物でした。
ヨイチも子どもの頃に、遊びでウサギを捕まえたことがあったかもしれません。
私たちの感覚よりも、ウサギを捕まえるという行為は彼の生きていた時代においては身近なものであったのではないかと推測されます。
「うるうびと」
『うるう』の冒頭、タイトルが出る直前に、地面に穴を掘る男の影が映ります。
2012年の初演当時、それは『THE SPOT』が上演された直後でした。
ちょうどDVDが発売され、初めて映像で見た小林さんの舞台作品が『THE SPOT』であった私は、『うるう』冒頭のこの演出で彼のことを思い出しました。
物語全体を通して見ると『うるう』冒頭の男の影は、ウサギを捕まえるための落とし穴を掘っていたヨイチであろう、と想像ができます。
しかし『うるう』というタイトルだけしか知らない状態でこの冒頭を見ると、やはり『THE SPOT』内のコント「うるうびと」が思い出されます。
「うるうびと」はうるうに関する題材を思いついた際に、演劇作品『うるう』に先駆けて作られた作品であるといいます。
どちらもうるう年のうるう日に生まれた、「あまりの1」のような存在を描いている作品ですが、その結末は一見対照的なものに感じられます。
落とし穴に落ちる誰か
落とし穴というモチーフは両作品に共通していますが、ヨイチの場合はあくまでも、森の中で生きていくための手段として用いています。
しかしうるうびとの場合、「誰か一人がいなくなれば、自分は余らなくなる」という考えで、誰かを落とそうと落とし穴を掘り始めます。
しかし結局、穴の底から出られなくなってしまったのはうるうびとの方でした。
ヨイチも中盤の独白の中で、うるうびとと同じような考えに至っていることがわかります。
「誰か一人がいなくなれば」と矢を手にして、誰かに向けて射ようとしますが、すぐにその「誰か」は自分である、と自らの内に閉じこもるようにして、その場面は暗転します。
うるうびとは、他者を落とすために掘った落とし穴に自分で落ちてしまいますが、ヨイチの場合はどうだったのでしょうか。
彼の掘った落とし穴に落ちたのはウサギではなく、マジルでした。同じモチーフではありますが、『うるう』において落とし穴は、「あまりの1」の存在であるヨイチが他者との交わりを持つきっかけとなっています。
ヨイチ自身が罠にかかって穴に落ちる場面でも、彼は一人ではなく、その様子を見て笑っているマジルがそばにいます。
「うるうびと」と『うるう』は、こうした点においても対照な物語であるように感じられます。
【参考文献】
赤田光男『ウサギの日本文化史(Sekaishiso seminar)』世界思想社、1997年
【うるう日記】2020.1.12 札幌公演2日目
4年前の今日、かでるホールに向かう道では雪が降っていたことをよく覚えています。
その年の北海道は雪が少ないと言われていましたが、冬の北海道が初めての自分にとっては十分驚く寒さと雪の量でした。
12月28-30日の東京公演には、再々演の大きな変更点である幕が存在しませんでした。おそらく1月7日の金沢公演以降に追加された演出だと思われます。
この幕の追加による演出の変更があまりにも衝撃で、この公演を観た時はそれに全てを持っていかれてしまいました。最後は呆然としてしばらく拍手できなかったと記録しています。
以下は当時の感想です。
・音が下手スピーカーから聞こえてびっくりした。反響がなく、本多劇場に近い。
・ヨイチがいつもよりゆっくりに感じられる。小さな劇場で客席の反応がわかるからか、様子を見てやっているようにも見える。
・マジルの話を聴くヨイチの姿が愛おしい。
・マジルが穴に落ち、帽子を渡しながら話すマイムがすごい。
・ともだちにはならないのくだり、一回目にマジルが持つススキが棒から落ちてしまったが、拾ってそれをマジルに振り「友達にはならない」と言う流れが、ヨイチのままですごい。
・穴に落ちた時「マジルが笑っている…」
・キャベツを出すヨイチ、本当に楽しそう。
・フクロウおばけ、背景にフクロウの目と羽根が曲に合わせて流れる。黒く荒い筆致(これも東京公演にはなかったはず)
・樹上の咆哮
木から降り、傷を負ったように歩き、痛みに口を開け、羽根を広げて去る。走らず歩き、光の中に立ち、扉が閉まる。
カーテンコール 「小さい小屋はライブ感があり良い」
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