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就職して、移住して、デザイナーになった

アクティブなホームレスニート(仮)を謳歌していた2年間。

家を手放し、バックパックひとつで全国を駆け巡る生活が本当に楽しくて、自分の生きやすい生活スタイルはこれだったんだと思った。

毎日同じ時間に起きて、同じ場所に通い、同じルーティンで何かをすることが学生時代から苦手で「みんな嫌でも我慢してやっている」「そんなんじゃ社会に出てからやっていけない」とよく言われた。

でもそうじゃない生き方があることを、この2年間で知った。

2022年の夏、九州のITベンチャーにデザイナーとして入社した。

「今のすずなにぴったりな環境がある。」と誘ってもらい、なんか面白そうと思いふらっと大分に行ったら、入社が決まってしまった。

「この家好きに使っていいよ」と大分に着いた日にアパートの鍵を渡され、「必要なものある?」と聞かれ「洗濯機とか、冷蔵庫とか、電子レンジとか、、、?」と言うと数日後には全て届いた。

恵まれすぎて怖かったけど、「すずながこれから成長して、一緒に仕事がしたいと思って投資しているだけだから、申し訳ないとか思わなくていいし、違うと思ったらすぐに辞めていい」と言われた。

さらっと、縁のない地域へ移住し、一生無理だと思っていた一般企業への就職を果たし、「普通の社会人」になった。

職種はデザイナー。器用貧乏タイプでバナーデザインやLPデザインを少しかじっていたものの、専門的にやっていたわけではない。入ってみて気づいたけど、ベテランばかりが在籍するこの会社で、デザイナーの求人も経験者を前面に出していて、私のようなデザイナー経験はおろか社会人経験もろくにないような人間はなかなか採用されていなかった。

16インチのでかいMacBook Proが支給され、iPad Proも渡され、入社が決まる前からお試し案件!とデザイン案件を渡され、気合い十分で会社員生活をスタートした。


軽いうつ状態ですと診断された入社1ヶ月半

入社2週間ほどで、「何のために毎日出社しているんだろう?」と疑問に思った。たいしてやる仕事もなく(これまでの激務が当たり前になっていた)、誰とも話さず帰る日だってあるのに、フルリモートがダメな理由ってなんだ?と思った。

会社にいる人たちはそれが当たり前で、家にいたらだれてしまうから会社の方がいいよねというスタンスで、私には理解できなかった。

仕事のレベルも高くて、ただデザインカンプを作れば良いだけではなくて、ミーティングで話している内容が全然分からなくて、「まだこの環境は自分には早かった」と率直に感じた。これまではできないことがあると何としてでも自分で解決して、その経験を糧に前進していた。会社では、上の人の判断ですぐに仕事を巻き取られてしまう。なんの経験も結果も残らない。ただ「自分には何もできなかった」という事実のみが残った。

入社当初は上司もどこまで任せて良いのか探り探りだったんだと思う。

毎日同じ職場に通い、同じ家に帰る。私にはかなりのストレスだった。

その上家族も友達もいない、知らない環境に一人。気を許して話せる相手もいない。友達からの誘いも今までならどこへでも行けたのに、会社員になったことでたくさんの制約ができた。断る回数が増えるごとに、これまで関わってきた人と少しずつ疎遠になっていくのを感じた。

入社1ヶ月半が経った頃、体調を崩すことが増え、病院に行くと心療内科に通された。軽いうつ状態で、このままいくとうつ病になりますと言われた。

自分の社会不適合さに拍子抜けした。何か特別嫌なことがあるわけでもないのに「毎日同じ場所に通い、同じ家に帰る」をするだけで体を壊す。どれくらい異常かというと、私は普段滅多に風邪をひかない。落ち込むことがあっても立ち直りが早い。でもそれは自分が何にストレスを感じやすいかを把握して避ける手段を知っていたからで、ストレスのかかることをするとちゃんと正面からダメージをくらうことを知った。

とりあえず2週間ほどリモートワークをさせてもらい大阪へ帰った。


ストレスコントロール力を身につけようと決心する

家族からは「体を壊してまで本当にやりたいことなの?」と言われた。答えはもちろんNOだけど、今すぐ辞めると言う選択肢はなかった。

思考がどんどんネガティブになっていくし、自分のことはどんどん嫌いになったし、1日10錠以上の薬を飲まないとまともに生活できない体にはなっていたけど、俯瞰してみる余裕が少しだけあった。

ストレス源が「自分の力ではどうにもならないこと」であれば落ちる一方だったと思う。でも「自分で選べること」ならこれ以上落ちることも、ましてやうつ病になることなんて絶対にない自信があった。

会社をやめれば、このストレスはなくなる。でも会社で学べることはまだまだ山ほどある気がするし、困ったら手を差し伸べてくれる人が身近にいるし、まだ出会って数ヶ月の上司がとても親身になってくれる。

「いつでも会社を辞めて自分の好きな生活をすることもできるけど、それでも自分は苦手なこと(=会社員生活)を克服する」と決心した。

ストレスフリーな環境に身を置くことは簡単だけど、ストレスと闘う体力のある今だから、失敗しても周りが助けてくれる若さがある今だからこそできることなんじゃないかと考え、大分に帰った。


自分はデザイナーに向いていない

Webデザインスクール時代に出会った友人含め、周りにデザイナーはたくさんいた。でも10-20年クリエイティブ業界で突き詰めてきた人に出会う機会はなかった。上司がまさしくそれで、これがプロか、、、と、圧倒された。目の前で作り出されるデザインを見ると、できあがる過程を見ると、ワクワクするし自分じゃ到底手の届かないクオリティにぞっとする。

デザイナーは技術職で、専門職で、他のデザイナーを見ていると本当にデザインが好きなんだなと伝わってくる。飽き性な自分には到底向いていないと思った。

なんせ作ることに喜びは感じない。デザインに関係なく、自分が何かすることでお客さんに貢献できることにやりがいを感じる。別にデザインじゃなくていい。もやもやしながら日々業務こなして3ヶ月ほどが経った頃、普段リモートでやりとりしている別オフィスのデザイナーの上司に会いに行った。

オンラインでは毎日連絡をとっているけど、直接ちゃんと話すのは初めてで、深夜まで宮崎のバーで色々な話をしてくれた。上司の人柄に惚れ、こんな人の元でデザインができるならもっとデザインの仕事を頑張ってみたいと思った。

国内外の有名企業のデザインを手掛けてきたその人は、圧倒的なデザインやビジネススキルの高さだけでなく、OJTに力を入れて若手に真剣に向き合ってくれる。業務内容だけでなく、私の人生そのものに向き合ってくれた。

「何をするかより、誰とするかだ」という言葉が頭をよぎった。この出会いがあっただけでも、私が大分に来た意味はおおいにあった。


22歳はデザイナーとして、九州を拠点に挑戦すると決めた

デザイナーとしてやっていくと決めてからは、個人でもデザインの仕事を積極的にやるようになった。ただでさえ何もできないんだから、誰よりも経験を積まなければと思った。手段を選ばず仕事を選ばずなんでもやった。

残業はほぼないとてもホワイトな会社なので、朝と夜は副業に費やしている。「地方にいるから」という理由で選択肢を減らしたくなくて、大阪と東京の会社で業務委託のデザイナーとして仕事を受けている。業務委託中心で回しているような会社は、フルリモートでがっつり関わることだってできるし、OJT体制を整えているところだってある。

高度のスキルがなければフルリモートで働くなんて無理だと言う人もいるけど、少し視野を広げるとそんなことはない。時代は変化し続けている。

仕事はあくまで自己実現の手段の一つであって、私は仕事のために生きているわけではない。会社員、フリーランス、業務委託など名前はあれど、細かく分けると働き方なんて山ほどある。知っているか知らないかの差はとても大きい。

仕事の範囲を広げ、さまざまなことに挑戦できる環境をフルに活かすことで、デザインの仕事にどんどん夢中になっている。

お客さんから「中川さんのこと信頼してるんで、デザイン任せました!」とか「このデザイン完璧です!」とか「理想通りです!ありがとうございました!」と言われるたびに、PCにかじりついて身を削って制作した時間が報われていく気がする。

会社に勤めていようと、地方に住んでいようと、やろうと思えばいくらでも何でもできることを体現する1年間にしようと決めた。

毎日小さな挫折を繰り返し、知識と経験の差をまじまじを見せつけられる。前に進もうとすればするほど壁にぶつかる。それでも挑戦できる環境があって、助けてくれる人や見守ってくれる人がいて、タフに動ける体があって、こんな恵まれた今を無駄にしたら一生後悔すると思う。

入社当初から上司に「自分は時間や場所にとらわれない働き方がしたい」と言い続けている。もちろんのこと、この会社にそんな思考の人はいないし、本当に変わってるよねとよく言われる。

「今は若いから行動力があっていいねと評価されるかもしれないけど、数年後には責任感のない人と思われかねない。中川さんが自分の足で独り立ちできるスキルと経験が詰めるように、この会社にいる限りサポートしたい。」と上司から言われた。

就活をしたわけでもないのに、とても素敵な会社にめぐり会えてしまった。目上の人に恵まれる才能は周囲の人より長けている自信がある。

デザインにすっかり夢中になって、早朝から深夜までフル稼働する毎日になって、やることが明確になったことで体調は完全に回復した。

ご縁を大切に、挑戦できる環境や健康な身体があることに感謝して、未来の自分にわくわくしながらがむしゃらに生きたい。

「入社した頃は全部一人でやろうとするし、周りを寄せ付けないくらい尖っていたけど、ずいぶん考え方も変わって丸くなったね。」と言われた。

振り返りを日頃から大切にしていて、日報や月報を書き続けている。常に悩みは尽きないけど、その悩みは変化し続けていて、過去を振り返ると「こんなことで悩んでいたのか、、」と思う。それだけ日々前進し続けている。

今年はデザイン以外にも挑戦したいことがある。価値観や考え方はいくらでもアップデートしていきたいし、やりたいことなんていくらでも変化していい。ただ、自分の在りたい姿やぶらしたくない軸を磨き続けることだけはやめてはいけない。

もう二度とないかもしれない会社員生活、思う存分満喫しようと思う。

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