カメレオンの眼*44

首を鳴らす癖がある。彼には嫌がられてしまうが、小さい頃からの癖である。

父親が鳴らすのを見て、いつしか自分も鳴らすことに少しの安らぎを感じるようになってしまった。
首を鳴らすと楽になる。

電車で端の席を確保すると、衝立に体を預けることができる。今日も少し、右にそうしていたが、すると左の首が苦しくなったので、首を鳴らそうとした。

仰ぎ見たところに棚があって、そこには忘れられた折り畳み傘があった。今は綺麗に晴れているから午前中にでも雨が降ったのか、街行く人にも傘を持つ人が見える。
夕方になって外に出た私にはわからない。

首を鳴らすのをやめた。また傘を目にしてしまう。

手の指は鳴らせない。むしろ、指を鳴らすのが癖だという人を見ていると痛々しい。実際、痛みはないのだろうし、かえってそこには安らぎがあるのだろう。

職場の同期との食事会へ向かっている。私服をあまりに飛ばしすぎたのではないかと不安に思う。
杞憂だと願う。

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