コロナ禍における自治体職員らのストレスについて

東京や大阪などで緊急事態宣言がまた延長されることになりました。そのほかの地域でも緊張を強いられる不自由な生活が続き、多くの人がストレスを感じていることと思います。

私は、2011年の東日本大震災の直後から、被災地で救援、支援にあたる自治体職員(市役所、町役場、保健所や公設保育所などで働く方々、そして教職員)の心のケアにあたる機会を得ました。それからこの職種の人たち特有のストレスの問題に関心を持ち、いまも細々とかかわらせてもらっています。

東日本大震災のときは、さまざまな立場、職業の人たちが、被災地で救援、支援の活動を、職務としてあるいはボランティアで行っていました。その人たちにそれぞれ心身のケアをする医療従事者やカウンセラーなどが少数ながらいたのですが、あるとき、自衛隊員のケアをしていた精神科医と立ち話をして聞いた話が忘れられませんでした。

「今回の大震災では、自衛隊員はきつい任務が続いたけど、いまのところ意外にメンタルの不調は起きてないんだよね。私見だけど、これ、地元の人だけじゃなく全国の人たちから感謝されてるからじゃないかな…。」

たしかに、自衛隊員の驚異的な被災地での救援活動に対しては、長渕剛さんが慰問に訪れたり、全国の子どもたちから激励の絵が贈られたと報じられたり、被災地を離れるときは住民が「ありがとう」という横断幕を作って見送ってくれたり、とさまざまな形での感謝が伝えられていたのは確かです。

一方、私が受け持っていた自治体職員はどうでしょう。

電話相談や現地の面談で聞くのは、住民からの苦情、不満ときには暴力ざたの話だけではなく、全国から「何やってるんだ。もっと急げ」「税金ドロボウ」という匿名の電話、メールが来るという話ばかり。もちろん住民から感謝される機会もあるようですが、それはわずかのようでした。

そして、そのあと報じられたように、被災地の自治体職員は高い確率でうつ病やパニック障害などを発症したり、中には自ら命を絶つ人までが出たりしたのです。

もちろん、こういった救援者、支援者をケアするためには、何よりまず人手の確保や適切な休養がマストです。ただ、なかなかそれがかなわない場合、住民などから「ありがとう」と感謝され、報われたと感じなら「やってよかった」と達成感を得ることが、そのあとのメンタル不調を少しでも防ぐ効果があるのではないでしょうか。

私はそのことをなんとか実証的に明らかにしたいと考え、実はこの2年間、大学院に所属して調査や研究を進めています。

しかし、その成果をきちんとした形で示せないうちにコロナ禍がやって来てしまいました。

役所の職員、保健所の職員や教職員らは、再び超長時間労働に携わり、やってもやっても終わらない業務に疲弊しきっています。

動悸、立ちくらみ、頭痛、呼吸困難感、消化器症状といったからだの不調だけではなく、「自分は役に立たないと思う」「何のためにやっているかわからない」と自責感、無力感にとらわれたり、「涙が止まらない」「何を見ても感情がわかない」「消えてしまいたい」とすでにうつ病に移行していると思われる人もめずらしくありません。

そういう人に出会うたび、人事担当者などに「なんとか人員を増やせないか」などと話すのですが、返ってくる答えは「手いっぱいです」。

しかも、今回は大震災などの災害のとき以上に、住民の方々から「ありがとう」と言われる機会はありません。先ほども書いたように、乾ききった心に、「ありがとう」「助かりました」といった感謝の声は砂漠に水がしみていくようなうるおいを与え、ゆとりを取り戻させてくれることがあります。

「ありがとう」さえあればいい、ということではありません。これはあくまで応急処置です。しかし、「ありがとう」の声も住民の笑顔もない中で、役所や保健所などの中で月に200時間を超える残業をひたすらこなすのは、あまりに過酷です。

そんな中、港区保健所が貸与して返却されたパルスオキシメーターに添えられた感謝のお手紙についてツイートしてました。

「元気でます」。本当にその通りと思います。こういう動きが少しでも広まることを願わずにはいられません。