ブーブークッション テスラの真髄ここにあり

初めに

テスラという謎の企業を知る最も簡単で確実な方法、それは実物を触ることである。自動車としては今までにない発想の塊で触るたび発見がある。その中でも私が特に感銘を受けたブーブークッションを紹介したい。


ブーブークッションとは

テスラ車にはお楽しみ機能の一つとしてブーブークッションがついている。これは、ドライバーが好きな座席の位置から好きなタイミングで、いくつもあるおならの種類から一つを鳴らすことができるというハイテク機能である。

例えば後席に社長をのせてしばらく運転して会話が続かなくなった時に、突然爆音のおならを社長の座席から出すことができる。これを使えば匂いを出すことなく微妙な空気を作ることができるわけだ。


つまりゴミ機能である

お気づきだろうが、つまりはゴミ機能である。使うタイミングがほとんどない。納車して数ヶ月喜びの中でネタに使うことはあるだろう。ただそれも一瞬で、2度と使わないだろう。友人を乗せたときに自慢げに使うこともあるだろうがウケたりウケなかったりその個人差は天地の差があり、ハイリスクローリターンな機能と言える。


実は他社は絶対に真似できない

どう考えても無駄な機能なのだが、私は特に評価している。(ただし普段全く使っていない。)何がどう評価に値するかじっくり解説したい。まず一つとして、この機能、つまりこのアプリの完成度が高いことである。先に述べたようにおならの音もバラエティに富んでいていくもの種類の中から好きなものを選んだり、ランダムで流すこともできる。さらにテスラ車はイマーシブサウンドと呼ばれる高い音響技術を搭載している。これにより各所に配置されたスピーカーそれぞれの音量バランスを調整することで任意の座席から音を出すことが可能なのだ。

実はこの機能、従来の自動車では搭載ができないと私は考える。まずは説明した通り多様なサウンドから好きなものを選択して座席位置に応じて音を出すということには高い技術が求められる。またこの機能を使用するには操作系のスイッチなどが必要になる。果たしてブーブークッションのために音響システムを構築し専用のスイッチを開発する企業があるだろうか。初めに述べたようにこれは言わずもがな無駄機能でありここに開発費、部品をさく意味は全くない。これだけの機能で本体価格が上昇しようものなら間違いなく企画会議で却下だろう。この機能はまず付けようとも思わないのが普通であり、付けようとしてもコストの問題でまず採用されることはあり得ない。そう意味においてどの企業も真似することはできないのである。


テスラの真髄ここにあり

そんなわけのわからない、企業にとってもユーザーにとってもハイリスクローリターンな機能を当然のようにテスラは標準装備しているのである。馬鹿な企業と侮るなかれ。この機能の中には隠されたメッセージがあり、それを読み解くことでテスラという企業の真髄が見えてくるのである。きっとそのはずだ。

ということでまず一つの問い。明らかに無駄な機能をなぜ積んだのか。

そもそもブーブークッションを使う時どのような操作をするか考える。テスラ車には物理的なボタンは最小限であり、センターコンソールと呼ばれるタブレット端末のような中央の大きな画面で操作する。ここでは空調やナビ、車両情報の確認やインターネットブラウザの操作などあらゆる操作が可能である。本題のブーブークッションもこのセンターコンソールに搭載されているアプリの一つとして操作する。そう、これはテスラというデバイスに搭載されたアプリの一つなのだ。これはあなたのスマホにインストールされているアプリのようなものだと思っていただくと良い。テスラはユーザーにこう語りかけているのだ。テスラにはアプリをインストールすることができ、これを使うことでセンターコンソール上で色々な操作が可能であるし、各スピーカーの音量やサウンドを自在に操ることができる機能を搭載していると。これは顧客だけでなく、アプリ開発者へのメッセージでもある。どうかそのアプリを手持ちのスマホだけでなく、我が社の自動車にも搭載してくださいと。つまりブーブークッションはテスラがアプリで機能を拡張できるということを紹介するための一手段に過ぎないということだ。

そしてコストの問題。従来の自動車は一装備に一機能が対応しているため機能を追加するにはコストがその分発生する。だがテスラの場合、センターコンソール上で様々な機能を操作できるため機能を追加してもそれを起動させるための追加設備が必要ない。つまり、ソフトウェア開発のみで様々な機能が追加できるため、無駄な機能だとしてもユーザーは金銭的な負担をすることなくそのサービスを受けることが可能なのである。

一見無駄な機能であるのだが、テスラはブーブークッションを通じて車両の特性をソフト開発費以外かけることなく宣伝しているのである。


サステナビリティから見る二つの観点

そうは言っても、結局ブーブークッションそのものの説明ないじゃんと言われればそれまでなのでこのアプリの持つメッセージを紐解いていきたい。

 私はサステナビリティ(持続可能性)をいうキーワードを用いて考察したい。サステナビリティというのは物事の持続可能性である。人類が今後も安定して生命を繋いでいく重要な要素であり、現在ではSDGs、一昔前はロハスなど言葉は変えつつも社会問題として取り上げられ続けているテーマである。

 そう聞いてまず思いつくのは環境問題だろう。昨今電気自動車は社会的に推進されている。これは単に環境保全、C O2削減のためと言われている。実際の電気自動車の効果のほどは他の人に議論していただくとして、電気自動車の一つのテーマとして環境保全があるということだ。これまで隠していたが、実はブーブークッション正式名称は排ガステストモードという。当然電気自動車はそれ自体に排気はないため、これまでのガソリン車の排ガスをオナラに見立てた痛烈な風刺であることは明らかであろう。テスラは会社として排気のない電気自動車を環境問題の解決の一手段として主張しているのである。

 そしてもう一つのサステナビリティ。これはテスラ社の繁栄、持続を意味する。それこそがオナラである。いったい何を言っているのであろうか。ここで最初の社長の話をちょっと思い出してほしい。生真面目な社長が乗っている時に、好きな女性が乗っている時にオナラの音を出して何かいいことがあるだろうか。5%くらいの確率であるかもしれないが、多分ない。でも子供は?子供は大はしゃぎである。オナラの音、それどころかオナラという言葉だけで大はしゃぎするのが子供である。つまりテスラは子供を大はしゃぎさせたいのである。テスラ車にはブーブークッションだけでなく、お絵かきパッド、サンタが搭乗するモード、アーケードゲームなど大人よりも子供が喜ぶ機能がいっぱいある。自動車は大人の使用する道具であるが、同時に子供も乗る。それも長年にわたって。そして大人になった時今度は自ら選んで買うのである。少年が大人になった時どんな自動車を買うだろうか。子供の時から楽しんできた自動車に愛着があるし、今度は自分の子供を楽しませたいと思うのも想像に難くない。つまりテスラは将来の顧客も囲い込むことを重視しているのである。

 たった一つのゴミ機能から車両性能、経営戦略まで垣間見れるのではないだろうか。

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