横隔膜が痛え 明後日のガラパゴス

ご縁あり、実に7年振りの劇団ホチキスさんの公演を観劇しました。明後日のガラパゴス。
まだ観劇ペーペーな頃にたくさん笑った記憶があり、またこうして巡り会えた縁に演劇の面白さが隠れます。

あらすじ

ガラパゴスで戦う脚本家に
明後日は来るか!?
30年以上も続いているTVアニメ「アサッテさん」の脚本チームに抜擢された若き脚本家 礒崎新。ベテラン脚本家たちに揉まれながらも、昔から「アサッテさん」の大ファンだった礒崎は、幸せを噛み締めていた。しかし、昨今は視聴率が右肩下がり。しかも、アニメのスポンサーが降りるという噂もあって・・・。 果たして「アサッテさん」は、進化して生き残れるのか、それとも絶滅してしまうのか!?劇団ホチキスがこの秋お届けする、脚本家革命コメディー「明後日のガラパゴス」にご期待ください!!

https://hotchkiss.jp/galapagos/

This is 演劇。 This is コメディ

ちょいと前は笑えればコメディとしてOKでしょという気持ちがありましたが今作は演劇としての完成度という視点でも非常に高く感じました。

話としてはシンプルなんです。打ち切りの聞きに面した国民的アニメの制作陣の奮闘がメインストーリー。でも肉付けというか、魅せ方に「演劇って面白い」が溢れてる。そんな印象でした。全力疾走のハートフルストーリーながら、誰も憎めずみんな応援したくなる、全力がゆえに出てくる笑いの要素。だいぶ欲張りセットでしたが、そういった面でのおなかいっぱい感はなかったです。シンプルに物語を見ながらコメディの世界観を楽しめました。


場面転換の妙技

演劇のパンチラインのひとつに場面転換があると思います。どうしても生のお芝居では魔法のように物や人を動かせない。それ故にテンポが悪くなることに頭を悩ませている部分はあると思います。観る側でも、どうしようもないテンポの悪さには目を瞑っている部分はあります。
そこを、今作ではアサッテさんのどデカい軒先をコミカルに動かしながら場面転換(場面掃け)をしたり、アサッテさんが喋りで繋ぐことで、その「間」ですらエンタメに変えている所。ストーリーの楽しさだけでなく、こういった所まで楽しさを持ってくるのは、ある種の収納術のようなスッキリ感が得られました。
また、その他の部分も、アサッテさんのアニメシーンとの切り替えでどこか急いで出てくる感じも相まって、なんとなく暗転してなんとなく出てくるというある種慣習となっていた部分が破壊されたような感覚がしました。

また、小道具も転換の速さに一役買っているのかな?冷静に考えたらちゃぶ台が2Dだったし。昨日さんが塀を持ち歩いてるし。それらもアニメの中という劇中劇だからチープな感じはせず、むしろ現実世界との切り替えになるのかなと思いました。

ほぼ全員Wキャスト

Wキャストと聞くと、2班あって全員もしくは一部のキャストが入れ替わるスタイルですが、今作はほぼ全員2人二役。12人が分身して20人以上に感じる。これ、いろんな面で演劇界では考えられないことだと思うのです。
単純に、他のキャスト使ってもおかしくないのに、ほぼ全員が衣装替えして出ていく。下手な舞台の2倍の労力です。おそらく、上記の転換のテキパキした雰囲気でより時間的なプレッシャーもあったことでしょう。それでもちゃんと成り立っていたし、メタ的な感じで着替え途中の要素も出てきたりとミックスしてて面白い。

シンプルに面白い

とにかくこれ。本作はお涙頂戴も殺陣も本格的ミステリもありません。ほんの少しスパイス的な恋愛要素と、アサッテさん大好きな磯崎の熱血真っ直ぐストーリー。でも、笑い要素はほとんど邪魔することもなくしっかりと物語も進んでいく様子もあり、どんな作品だったかという内容も話せる。そのベースがあるからこそ、登場人物たちのコミカルな部分、人間的に共感できる部分が映えて来るのだと思いました。
もちろん、コミカル演技は7年前に観た通りといいますか、ホチキスさん観るならこれを楽しまないと。と言えるものですごく楽しみにしていましたし、どんな人たちも全力で、オーバーなくらいリアクションしてて、気恥しさも何もない。ほぼ全シーンで、頭のてっぺんから指の先までその人であったと思います。小玉久仁子さんなんかはずーっと動き回ってたし。磯崎が褒めてる時は乙女な動きしてたし。
笑いたくなったら、笑って欲しかったら是非観て欲しい女優さんで、エンターテイナーだなと思いました。


演劇界の目指す姿

と思いました。セットをうまく使い、研ぎ澄まされたように楽しさを余すことなく詰め込む。シチューで栄養をもれなく摂取しているような気分でした。
そしてある種狂気に満ちた全員一人二役を実現することにより、とにかく人数を増やせば良い。ではなく限られた人数でやる本来の小演劇的な良さが現れているようでした。特に集客考えればキャストを増やしてチケットノルマを課した方がいいわけです。が、それをやらないということは、それ以外の部分で勝負できているのかな?という推察。
実際物販も、パンフレット、台本、ブロマイド、ランダムブロマイド、DVDと昨今の演劇界ではかなりシンプルな物販。アクスタも応援メッセージもチェキもない。大変シンプルでした。海物語みたいという元パチンカスの印象。ガラパゴスだけに(違う)

だいぶ好意的に解釈しますが、限られた人数で工夫を凝らして演出し、しっかり自分たちのファンを増やしての公演。という印象がしました。
個人的に思う、演劇ってこうだよなーと思う公演でした。もちろん、需要があれば色んなグッズ売ってもいいとは思いますが。(前はTシャツとかあった気がするけども)

面白いのが、普段グッズラインナップが沢山あっても買わないくせにちゃんとパンフ、台本、DVD買ったというね。北風と太陽みたい。

内容も公演全体も含めて大変満足でした。
すごく笑って、お腹ではなく横隔膜が本気で痛くなりました。最近ちゃんと笑えてなかったのかなあ。。。


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