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読書感想文的な物語 27000冊ガーデン 大崎梢

フィクションを読んでいて、違和感がある時があります。それは固有名詞の登場です。もちろん日本や東京のような地名や、山手線のような公共の交通機関、織田信長のような歴史上の人物などは全く気になりません。ですが、実在の人物や作品名が出てくると「おや?」と思うことがあります。今作はその「おや?」が多い、いや多すぎるくらい実在の、それも現役の作家や今まさに書店で目にするような本が数多出てきます。そしてその全てがちゃんと本編に関係しているという所。これは相当好きでなければなしえないものと思います。
なんというか、小説を読んでいたら「あ、こういう物語の題材に使えそうだ」と言わんばかりの展開。学校の図書室という舞台設定は高校生の豊かな発想や素直な考えがトリックに用いられるなどスッキリする。まるで読書感想文を小説にしたような滑らかさを感じました。おそらく筆者の大崎梢さんは相当に本が好きなのでしょう。タイトルだけの安直な考えにはどこか個人的なこだわりを持って怒りのような感情が伝わり、タイトルだけで「この本の内容は関係ある/ない」が瞬時に出てくるような、まるでご自身を投影したかのような登場人物たち。

タイトルがヒントとなるような推理物は多いです。それは広く浅く広まることが求められているからでしょう。読者(ものによっては視聴者)が全員が深く読むことはないからです。ですが、この作品は「ぜひこの本を読んでみてください」というメッセージが前提として物語が組まれているように思います。出てくる作品も、作家名やタイトルだけは見たことあるけど読んだことないという小説が個人的には多く、ほんの少しでも接点があると興味がだいぶ違います。少なくとも、各話のキーとなる小説を読むだけでも受け取り方は大きく異なりそうな予感がします。

書店員であり、図書館司書でもある。そんな一冊とも言えるでしょう。表紙の通り、とても柔らかい作品なので普段読書習慣のない人でも十分読めるでしょう。

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