もうMDは聞けない

亡くなったじいちゃんの家を漁って、ようやく目当てのMDを見つけた。
なのに、だのに、もうMDを聞く媒体がない。

じいちゃんは眠る前に大好きなクラシックを聴いていた。
私と兄貴が二人で泊まりに来た時にも欠かさなかった。
ガチャガチャと小気味よい音を立てながらMDやカセットテープをラジカセが吸い込まれていき、明るい音色が暗闇の中に充満する。

流れなければ流れないで別にどうということもない。
でもクラシックギターの明るい音色が満ちた暗闇の中では、いつも恐れていた宇宙人、殺人鬼や、天井の目玉も力を持たないような気がした。

枕に染み付いたじいちゃんの匂いと共によみがえる音色は
澄み切ったビー玉を除いているような恍惚とした思いをもたらしてくれる。

そんなわけでじいちゃんの家から、MDやカセットテープを手に入れてもう一度あの音楽を聴いてみたかった。
黄色く変色したセロハンテープの下にあるラベルから、なんとなく見当がつく。
きっとこれがあのMDだ。

でももう中身を確認することができない。
このままMDを捨てざるを得ないような状況、もどかしい。

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