Re:「精神現象学」を読む、その6。

精神現象学(著:G.W.F.ヘーゲル・訳:長谷川宏)の読書記録。
今回から「はじめに」にはいります。
はいりますといいましたが、今回の記事で「はじめに」は終わらせてしまいます。端折って超訳している部分も多いですが、悪しからず。
以下本文開始。


はじめに(p.51 -  p.63)

 哲学は、絶対的な真理を求める学問です。では、その真理を知るためには、どうする必要があるでしょうか?

 まずは、通俗的な認識論を一瞥していきましょう。
 真理に限らず、何かを知るには、その何かを「認識する」必要があるでしょう。何か対象があり、それを認識する主体が存在する。至極当たり前に感じるこの認識構造に対して、ヘーゲルは疑義を呈します。
 認識という道具を使って、真理という対象を捉える。これでは、真理という対象の外部から道具による介入が生じるため、対象を変化させてしまいます。温度計で水の温度を測ろうとしても、その温度計の温度のせいで、温度計を入れる前の水の温度が決してわからないのと類比的です。

 ここでヘーゲルは、通俗的な認識論を棄却するべきだと提案します。「主体と切り離された向こう側に絶対的な真理があり、主体がそれを捉えるために認識という道具をつかう」という考え方を改める必要があるのです。

 では、ヘーゲルはどのようにして真理を捉えようというのでしょうか。精神現象学の取り組みを端的に表した部分を引用しましょう。

魂が、その本性にしたがって設置された宿駅さながら、さまざまな魂の形態を順々にめぐり歩き、精神へと純化を遂げていく道程の形をとる。

 ポイントとしては2点。魂が段階を経ながら進歩していくこと。そして、次が大事です。その進歩において、外部からの介入なく、魂が純化することで進歩すること。このことは、本論において確認していくことになるでしょう。

 魂=知は次第に進歩していくのですから、必然的に自己喪失が伴います。もしすでに満ち足りている状態なら、進歩する必要がないからです。この自己喪失は、そのときは真に絶望的な事態です。ある段階の知は、自身のことを絶対的な真理であると確信しているからです。確信しているからこそ、それが間違っているとわかったとき、自己喪失は深刻になってしまいます。この自己喪失を克服する旅が、精神現象学なのです。
 格言めいた言い方をすれば、こう言えるでしょう。「真理は誤謬を媒介して現れる」と。

 知が段階を経ながら進歩していくということですが、この目的は一体何なのでしょうか。目的がなければ、進歩という言葉も無意味でしょう。
 精神現象学の目的は、「概念と対象の一致」です。これだけでは言葉足らずでしょうが、一旦我慢していただき、精神現象学の方法を概観していきます。そうすることで自ずとこの目的も鮮明なものになるでそう。

 まずは一般的な認識から出発してみましょう。知が存在し、それの対象としての真理がある。先ほどヘーゲルが否定したものの見方です。
 この見方をどう転倒していくのでしょうか。それは、知とその外部にある真理という区別事態、意識内で行われたものだということを喝破することによってです。真理は主体から到達不能な地点にあるのではなく、主体の意識ないに存在しているのです。意識内の、知に属するものが「概念」であり、真理に属するものが「対象」です。最初は素朴な知(概念)と真理(対象)の関係性がスタート地点となりますが、そこには矛盾が生じてしまいます。先ほどの言葉を使えば、自己喪失が起こります。そこでこの自己喪失を克服するため、知(概念)の変更が余儀なくされます。知(概念)が変わると、必然、それに伴う真理(対象)も変わります。真理(対象)は外部にあるのではなく、意識内にある知に対する対立物なのだからです。
 このような運動、つまり弁証法運動を経ることで、やがて「概念と対象の一致」が達成されるということです。

 ここで重複を恐れず付け加えるなら、この弁償運動において対象は変化していきますが、その新たな対象は外部からやってくるのではなく、元々の対象と同じものなのです。「純化して進歩する」という言い方を先ほどしましたが、そのことを再び述べておきます。

 ある段階の知/真理の構図では行き詰まる点があり、その行き詰まりを打破する新たな知が生まれることで対象も変化し、次の段階の知/真理の構造が現れてくる。このような矛盾とその克服の運動は、必然性によって導かれています。ここで最後、ヘーゲルの言葉を引用しましょう。

このような必然の糸に導かれるかぎりで、学問への道程はそれ自体がすでに学問であり、内容を加味していえば、意識の経験の学問である。

 この探究の果てに、絶対知の本当のすがたが見えてくるのです。 


 かなり自由に要約したため、内容をかなり毀損しているかもしれませんが、内容の通りを重視してまとめました。次回から本論へと入っていきます。では、今回はここまで。

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