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『商品は「感覚的に超感覚的な事物」である(マルクス)』をグラフで表現する

 こちらの対話の続きになります。

テーマは資本論のこの個所。

Es ist sinnenklar, daß der Mensch durch seine Tätigkeit die Formen der Naturstoffe in einer ihm nützliche Weise verändert. Die Form des Holzes z.B. wird verändert, wenn man aus ihm einen Tisch macht. Nichtsdestoweniger bleibt der Tisch Holz, ein ordinäres sinnliches Ding. Aber sobald er als Ware auftritt, verwandelt er sich in ein sinnlich übersinnliches Ding.

資本論 第一部 S. 85

 この部分を訳してみます。

人間が人間の活動によって,自然の素材の形態を人間にとって有用な仕方で変化させるということは,五感によってはっきりわかる。たとえば材木の形態は、人がそれから机をつくれば,変化する。それでも机は木のままで、ありふれた感覚的なものである。ところが,机が商品として登場するやいなや,それは五感を超えた何かに変化している 。

nyunによる試訳

 上の対話では、この ein sinnlich übersinnliches Ding という部分について定番の大月書店版や、現代の佐々木 隆治、ちょっと古い廣松渉による翻訳を槍玉に挙げましたが、それらだけでなく既存の訳はほとんど気に入りません。いちいち引用しないだけ。

 そんな中で熊野純彦(やデリダ)は輝いていると感じたというわけ。

「マルクスはここで商品とは「感覚的であるとともに超感覚的である」ものとも,「感覚的であるにもかからわらず超感覚的である」ものとも語っていない。「感覚的に超感覚的 sensible insensible, sensiblement suprasensible」と語っているのだ。この間の消息にデリダが注目するのは,やはり,それなりの読解であると言うべきだろう(デリダ,二〇〇七年,三一三頁)」

熊野純彦『マルクス資本論の思考』せりか書房,71ページ

翻訳者が常識的なドイツ観念論を押さえているか否か

 問題は、翻訳者が常識的なドイツ観念論、というか当時のドイツの思潮をを押さえているかどうかだと思います。

 「感覚(Sinnen)」や「物(Ding)」という名詞や sinnenklar、sinnlich といったその派生語がこれだけ出てきたときに、普通なら、カントの純粋理性批判に始まる諸議論、ゲーテ、ヘーゲル、シェリングらの議論を思い浮かべないことは難しい。

 「ああ、あの辺の話だな」とわかって読んでいたらば、この個所を「感覚的であると同時に超感覚的であるものになってしまう」と翻訳することはありえないと思うのです。

 読者の知識が足りないときに文章を文字だけで理解しようとするとおかしなことになっているという典型事例になっていると思います。

図で語るということ

 これはわたくし nyun が、MMTや資本論の議論はグラフィックに扱われるべきだと主張する大きな理由の一つです。

 関連して、こちらの対話ではやはり資本論で引用されている、ヘラクレイトスの ώςπερ χρυσού χρήματα , και χρημάτων χρυσός という一節を取り上げました。

 マルクスはこの言葉を見事にこう翻訳しました。

wie aus Gold Güter und aus Gütern Gold.

 ギリシャ語に忠実に、Gold Güter と Gütern Gold を左右対称に翻訳しているのです。前置詞 "aus" を付けているのはマルクス独自のところでしょうけれど、この対称性の維持は極めて重要です。 

 というのは、この個所こそは、あの「資本論と言えばこの話!」と言ってもいいほど有名な G-W-G´ という資本の増殖運動の形式を導くために W-G-W という基本式を提示した箇所なのです。

 本を見てください。

Marx, Das Kapital, Band I, S.120

  見えにくいかもしれませんが、緑の wie aus Gold Güter und aus Gütern Gold という注記65はオレンジの Ware in Geld と Geld in Ware という対称形の話題に関してのものです。

 また重要なのは赤線のところで、ここには売買の一般形式が示されています。

売買の一般形式

Der Austauschprozeß der Ware vollzieht sich also in zwei entgegengesetzten und einander ergänzenden Metamorphosen - Verwandlung der Ware in Geld und ihre Rückverwandlung aus Geld in Ware. Die Momente der Warenmetamorphose sind zugleich Händel des Warenbesitzers - Verkauf, Austausch der Ware mit Geld; Kauf, Austausch des Gelds mit Ware, und Einheit beider Akte: verkaufen, um zu kaufen.

翻訳します。

この商品の交換プロセスで起こっているのは、対立しつつ互いに補い合う二つのメタモルフォーゼ - 商品の貨幣への転化と貨幣の商品の再転化である。 商品のメタモルフォーゼの諸契機(モメント)は、商品所持者たちの次の取引である。「売り」商品の貨幣への交換;「買い」貨幣の商品への交換、そして両行為の統一、「買うために売る」である。

次に図にします。

商品のメタモルフォーゼの三つの契機(モメント)の図

 どうですか?

 いろいろ言いましたがわたくし nyun としては、この図のイメージがちゃんと伝われば翻訳としてはかなり良いし、逆に、これが伝わらないならダメ翻訳だと思います。


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