『商品は「感覚的に超感覚的な事物」である(マルクス)』をグラフで表現する
こちらの対話の続きになります。
テーマは資本論のこの個所。
この部分を訳してみます。
上の対話では、この ein sinnlich übersinnliches Ding という部分について定番の大月書店版や、現代の佐々木 隆治、ちょっと古い廣松渉による翻訳を槍玉に挙げましたが、それらだけでなく既存の訳はほとんど気に入りません。いちいち引用しないだけ。
そんな中で熊野純彦(やデリダ)は輝いていると感じたというわけ。
翻訳者が常識的なドイツ観念論を押さえているか否か
問題は、翻訳者が常識的なドイツ観念論、というか当時のドイツの思潮をを押さえているかどうかだと思います。
「感覚(Sinnen)」や「物(Ding)」という名詞や sinnenklar、sinnlich といったその派生語がこれだけ出てきたときに、普通なら、カントの純粋理性批判に始まる諸議論、ゲーテ、ヘーゲル、シェリングらの議論を思い浮かべないことは難しい。
「ああ、あの辺の話だな」とわかって読んでいたらば、この個所を「感覚的であると同時に超感覚的であるものになってしまう」と翻訳することはありえないと思うのです。
読者の知識が足りないときに文章を文字だけで理解しようとするとおかしなことになっているという典型事例になっていると思います。
図で語るということ
これはわたくし nyun が、MMTや資本論の議論はグラフィックに扱われるべきだと主張する大きな理由の一つです。
関連して、こちらの対話ではやはり資本論で引用されている、ヘラクレイトスの ώςπερ χρυσού χρήματα , και χρημάτων χρυσός という一節を取り上げました。
マルクスはこの言葉を見事にこう翻訳しました。
wie aus Gold Güter und aus Gütern Gold.
ギリシャ語に忠実に、Gold Güter と Gütern Gold を左右対称に翻訳しているのです。前置詞 "aus" を付けているのはマルクス独自のところでしょうけれど、この対称性の維持は極めて重要です。
というのは、この個所こそは、あの「資本論と言えばこの話!」と言ってもいいほど有名な G-W-G´ という資本の増殖運動の形式を導くために W-G-W という基本式を提示した箇所なのです。
本を見てください。
見えにくいかもしれませんが、緑の wie aus Gold Güter und aus Gütern Gold という注記65はオレンジの Ware in Geld と Geld in Ware という対称形の話題に関してのものです。
また重要なのは赤線のところで、ここには売買の一般形式が示されています。
売買の一般形式
翻訳します。
次に図にします。
どうですか?
いろいろ言いましたがわたくし nyun としては、この図のイメージがちゃんと伝われば翻訳としてはかなり良いし、逆に、これが伝わらないならダメ翻訳だと思います。
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