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もう趣味のバイクに進化を求めていない人は多いと思う


バイク業界では新車が売れないと言われています。それには様々な原因が考えられますが、私なりの考えを述べたいと思います。

・新車価格の高騰

環境や安全の観点から、様々な補器類の装着が義務付けられ、開発費も含め価格に反映されているのではないかと推測します。

若者のバイク離れは、バイクに興味がないのに加え、収入の少なさから購入と維持の負担が大きいのも原因と考えられます。バイク乗りの平均的な世代が50代なのは、バイクブームに加え収入も関連していると思います。

・新車販売台数の推移

まず、新車が売れていない現状を検証しましょう。

JAMAの公表している二輪車販売台数を見ると、ブーム当時と比較して原付クラスは一割に激減しました。

いっぽう、軽二輪、小型二輪は共に全盛期と比べると、ざっくり三割くらいの販売台数に落ち込んでいます。

このことから、バイク全体の販売台数がブームのときの一割しか売れなくなったという話は、市場の多くを占める原付クラスが足を引っ張っているのがわかります。

ちなみに、レーサーはナンバー登録をしないので販売台数にカウントされていません。ロードレーサーやレースベース車、モトクロッサーなどが該当します。

原付クラスは、モンキー等にみられる趣味性の高いラインナップもありますが、一般的なのは足としてのスクーターです。購入層にはバイクに興味がない人も多く、「実用性」が重視される傾向があると考えられます。

数年は整備しながら乗り、痛んできたら乗り換える前提で購入するユーザーが多い傾向を感じます。おもに50~125ccスクーターが該当します。

販売台数は2008年頃に30万台を割ります。駐車場所の規制が高まり、路上駐車ができなくなった影響かもしれません。

・趣味性の高いバイクは軽二輪や小型二輪

126cc以上、とくに400ccを超えるものは、趣味性が高いバイクと考えられます。なぜなら、原付クラスと比較して購入価格も高額ですし、燃費も不経済です。実用性だけで選ぶ理由があまりないジャンルなのです。メーカーもこのクラスになると高スペックや豪華さをアピールし、購買意欲を掻き立てます。

メーカーにはブランド力があります。たとえば、カワサキなら「男カワサキ」という硬派なイメージがあり、一定のファンがいます。

しかし、ここ数年はブランドイメージが最強と言えるハーレーも新車販売不振です。ブランド力だけで売れる時代は終わったのです。

そこでメーカーは、ブランドにヒストリーとレジェンドという「付加価値」を与え、「意味」のある名機の進化版を売り出しました。

近年では、アフリカツインが秀逸でした。ヒストリーだけではなく、性能や開発陣の本気度がガチだったので、商品として受け入れられたのだと思います。

・新車のラインナップは魅力的か

新車の売れない要素はいろいろと考えられますが、「欲しいバイクがない」という意見の人は多いのではないでしょうか。新車が欲しいのなら、メーカーのラインナップから選ぶしかありません。

しかし、新車のラインナップに気に入ったバイクがない場合はどうするのかという問題があります。これはもっとも難しい問題です。なぜなら、ユーザーの望みが最新スペックである必要もないですし、道具として便利である必要もないからです。

不便益という言葉があります。キックスタートしかないヤマハSRがラインナップに残り続けているのには理由があります。ただ単にレトロチック(懐古主義的)な意味や、「あの頃は良かった」的な美化ではなく、一種の面倒くささや、扱いにくさに価値が見出されている。これが趣味の世界です。つまり、性能より「乗って楽しいか」が問われているのです。

生活を豊かにしてくれる意味では同じですが、家電とはまた違う購買基準があるわけです。

・新車は魅力的か

新車には最新技術が搭載されます。ですから、新しモノ好きは気になる存在でしょう。環境に配慮し、安全性も高まっています。製品としてのクオリティは年々高まっているわけです。

反面、バイクいじりを趣味にする人には物足りなさを感じます。手を入れる余地が少ないからです。気軽に整備する気にはなりません。

新車を買う理由は「新車」だからです。メーカーの保証がつき、過去に誰も所有していない。当然、事故歴もありません。すべてが新品なので、しばらくは部品を交換しなくても調子良く乗れます。「新車じゃないとだめだ」と、いう人もいます。そのような理由で、新車を「消極的」に購入している層もいるのではないかと推測します。

・絶版車に乗り続けるのは難しい

新車のラインナップには興味がないから、気に入ったバイクを乗り続けているユーザーは多いと思います。

メーカーは絶版してから10年以上経過するとパーツを作らなくなります。

とくに、不人気の絶版車は部品がなくなるのが早いですから、壊れると直すのが大変です。不人気絶版車のオーナーは、修理できる業者を探し、ネットオークションで部品を入手して乗り続けているのが現実です。ただ、好きなバイクに乗りたいだけなのに、みなさん苦労しているのです。

・作文「ぼくのゆめ」

ここからは、私の願望です。意見ではなく、あくまでも現実になったとしたら良いなという話です。

国内4メーカーが、自社製品の中古車を買い集め、完全にリビルトして販売するプロジェクトが発動。

パーツは型を作り直し、最新の素材を使って壊れにくく製作し、安全性能と強度が高い部品に生まれ変わる。

フレームも新品にする。フレームナンバーは職権打刻し、敢えて中古として売る。だから、規制は車検証の初度登録年に準ずる。エンジンはクランクケース、シリンダーヘッド、シリンダーも含め新品を使用する。

補修部品の供給は可能な限り続ける。

特筆すべきは、メーカーの保証が付き、全国の正規販売店で購入できることだ。

つまり、「過去に欲しかった名車が、メーカーから保証付きの実質新車で買える」ということです。

題して、タイムスリップ・プロジェクト。

もし、仮にスズキGSX1100S刀がメーカー希望小売価格150万円で販売されたら売れると思いませんか。ホンダCB750Fや、ヤマハV-MAX、カワサキGPZ900Rが新車で買えたとしたら。

現存する車体しか復活できないのが、このプロジェクトの致命的な欠陥です。バイクブーム時の驚異的な中古車のタマ数に期待するしかありません。すでに海外に輸出されてしまったか、事故や廃車でジャンクと化した車体も多いでしょうし、買い取る費用もバカになりません。どの車種をラインナップするかの選択も難しいですね。

また、現代の規制に適合していない製品を販売するのは、エコロジーの観点からメーカーとしてどうなの?という社会的責任や、法的な問題もあるかもしれません。実際に検討を始めると、課題が山積みです。

しかしですね。

メーカーさんが、仮にですよ、もし、こんなことを本気で始めたら、中古車専門販売店が迷惑するのではないでしょうか。在庫が売れなくなる可能性が高いです。

普通の中古車より、メーカーが製作した「オリジナル」を欲しくなるのが人情です。やはり、メーカーのブランド力や信用は半端ないのです。

・趣味のバイクに進化を求めていない人は多いと思う

戯言を申しました。ですが、実際にやるやらないの話ではなく、これだけは一人のユーザーの忌憚のない意見として言わせてください。

私は現行のラインナップにはグッとこないのです。

排気ガス規制や騒音規制、様々な制約がある中、ユーザーの心に響く素晴らしい製品を開発されたメーカー技術者には、本当に頭が下がります。決して現行車を否定しているのではないのです。

ですが、趣味で乗るバイクにこれ以上の進化を求めていないのです。昔のままで新車同様がいい。気に入ったバイクを長く乗りたいのです。面倒くさいのも含めて絶版車が好きなのです。

乗り続けたいのに部品が出ない。これは個人商店レベルで解決できる問題ではありません。

この問題の現実的な解決路線は、メーカーさんに頑張っていただいて部品を作り続けてもらうことです。

人気ある絶版車は、専門店がレストアして販売しています。フレームから塗装をやり直し、エンジンもフルオーバーホールし、壊れやすい部品は現代の部品を使い、長く乗れるように製作していると聞きます。

人気のあるCB750フォアや、カワサキZ、Wシリーズは部品が多く乗り続けやすいのですが、仕上がった中古車体価格が非常に高額です。誰もが買える代物ではありません。

外車では最も人気のあるハーレーやトライアンフ、BMW、ベスパなどは、旧くても部品があり、長く乗り続けやすい部類です。

オリジナルが持つ骨董品的価値にこだわらず(それはそれで価値がありますが)、調子よく乗り続けることができるかが大切だと思うのです。

旧い車を「直して乗る」。その一歩先、「長く乗れる工夫」を皆さんも一緒に考えてみませんか。