[BADUI] あなたなら線の上下のどちらに署名しますか?
研究室運営関係はとりあえず一旦おやすみにして、(自分のサイトはあるのだけどnoteの方が色々手軽に書けるので)こっちに楽しいBADUIの世界の記事を書いていってみる。
一件目は、歴史的な事例から。
事例
大日本帝国がポツダム宣言を受け入れるために調印した降伏文書。
日本にとって、そして世界的にもとても重要な書類ですが、それはそれとしてユーザインタフェースとして味わい深いものとなっています。
何が起こっていた?
こちらアメリカなどでよく見かける署名のフォーマットで、線の下に署名するひとの役割・役職・所属などが書かれており、その線の上にそのひとが署名するものとなっています。
で、よく見ていただくとなんか空いているスペースがありますし、手書きで色々なおされています。
これ、カナダの代表(Dominion of Canada Representative)が、本来署名するべき場所ではなく、フランスの代表のところに書いています。また、フランスの代表もオランダの代表の場所に、オランダの代表もニュージーランドの代表のところに書いています。ニュージーランドの代表にいたっては、書く場所がなくて欄外に書いています。その結果、カナダの代表の部分が空きになり、役職名に訂正が入っています。公式の外交文書なんですけどね。
その時の様子が、Wikipediaの記事にありますので紹介。
なお、9:25の調印式終了とともにアメリカ海軍機の編隊と陸軍航空軍のB-29爆撃機が祝賀飛行を行ったが、そのとき甲板ではカナダ代表が署名する欄を間違えたことによる4ヶ国代表の署名欄にずれが見つかり、正式文書として通用しないとして降伏文書の訂正がなされていた。
具体的には、連合国用と日本用の2通の文書のうち、日本用文書にカナダ代表のエル・コスグレーブ大佐が署名する際、自国の署名欄ではなく1段飛ばしたフランス代表団の欄に署名した。しかし、次の代表であるフランスのフィリップ・ルクレール大将はこれに気づかずオランダ代表の欄に署名、続くオランダのコンラート・ヘルフリッヒ大将は間違いには気づいたものの、マッカーサー元帥の指示に従い渋々ニュージーランド代表の欄に署名した。最後の署名となるニュージーランドのレナード・イシット少将もアメリカ側の指示に従い欄外に署名することとなり、結果的にカナダ代表の欄が空欄となった。
その後、マッカーサー元帥の調印式終了宣言が行われ、各国代表は祝賀会の為に船室に移動したが、オランダ代表のヘルフリッヒ大将はその場に残り、日本側代表団の岡崎勝男に署名の間違いを指摘した。岡崎が困惑する中、マッカーサー元帥の参謀長リチャード・サザーランド中将は日本側に降伏文書をこのまま受け入れるよう説得したが、「不備な文書では枢密院の条約審議を通らない」と重光がこれを拒否したため、岡崎はサザーランド中将に各国代表の署名し直しを求めた。しかし、各国代表はすでに祝賀会の最中だとしてこれを拒否。結局、マッカーサー元帥の代理としてサザーランド中将が間違った4カ国の署名欄を訂正することとなった。日本側代表団はこれを受け入れ、9:30に退艦した。
混乱が目に浮かぶようです。胃が痛くなりますね。
なぜこうなった?
この手のタイプの署名欄は間違えやすいことを知っておけば、対処はいろいろできたと思うのですが、どうやらアメリカ側によりこれは作成されたらしく、アメリカではこのタイプの署名欄が一般的なので気づきにくかったのかもしれません。
また、上下の線の位置と、Dominion of Canada Representativeという文字列が提示されている場所、そしてその間のスペースが絶妙で、閉合の要因からその囲まれたところに署名したくなってしまったのだと思います。
学べること
フォーマットは国や文化によって違うので、様々な国や文化圏のひとが使うユーザインタフェースでは、配慮が必要であることがよくわかります。
日本の結婚式(人前式)でも、たまにこの手のフォーマットを見かけますし、どちらに署名するべきか悩みますが、その場合はだいたいスタッフのひとがこちらに~とか言ってくれます。まぁ、結婚式場は色々と経験があるので、これは人がつかなきゃだめだとなってるんでしょうね。ということで、まぁやはり誰がどこに書くかを指示する人がいなかったのもよくなかったんだと思います。
また、Dominion of Canada Representativeという文字列を、線の左側にそろえるのではなく、右側にそろえるとか、奇数番目と偶数番目のひとで線の左端や文字の配置を大きくずらすようにしておけば、閉合の要因が働かず間違えなかったかもしれません。
どちらにせよ、示唆に富んだ面白い事例でした。
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