見出し画像

自分なりに、面白がる

「『こんなもんでしょ』と作られたものは、受け手も『こんなもん』と受け取ってしまうんですよね」
この言葉を聞いた瞬間、今回提出した自分の課題が、着地点を見誤っていたと気づいてしまった。

奄美島唄を知って欲しい
企画メシ第2回目、指定された課題は「『伝統芸能』を調べて、あなたが見つけた魅力を説明してください」
当初から、私には取り上げたい題材があった。
それは奄美島唄
母が鹿児島県奄美大島出身で、幼い頃から何度も訪れ、自然に溢れ、本土とも沖縄とも違う文化を持つこの島にルーツを持つことが、ずっと誇りだった。
そんな奄美で脈々と息づく文化を世の中に伝える絶好の機会だと感じ、課題を進め始めた。
奄美島唄の中で私が一番好きなのは、唄い方。息を吸い込みながら出す裏声のような、咽ぶような唄い方が、聞いていてどうにも切なくなる。
https://youtu.be/hYBu9ADGuZw
これを、みんなに聞いて欲しかった。

カッコつけが勝ってしまった
今回の課題のターゲットは、奄美島唄の存在をよく知らない、奄美≒沖縄くらいのイメージを抱いている、世の多くの人。
興味を持ってもらえる糸口になるように、有名な唄者である中孝介と、彼が主題歌「サンサーラ」を唄った番組「ザ・ノンフィクション」を絡めた紹介を考えた。

55中原優


YouTubeで島唄をいくつか聴きながら、母の撮影した奄美の写真を背景に据え、タイトルに「サンサーラ」公式動画へのリンクを貼り付けて、1枚のPDFを作った。
QRを貼れば、よりリンクの存在がを伝えやすかったが、見栄えが悪くなるかもと思い、こっそりタイトル部分に仕込むことにした。
この時の自分に言いたい。
「シュッとすることじゃなくて、読んでくれた人に動画が届くことが一番大事だろ〜〜〜〜!」
読み返してみれば、文面も、どの立ち位置から届けているのかがわからない。奄美が好きなんだから、もっと「私は奄美のここが好き!!奄美島唄の歌い方が好き!!!」と、自分の思い出あることを前のめりに伝えればよかった。
そして提出の報告をメールした後、すぐにご返信をいただく。
「PDF中にお名前の記載がなかったので、もし可能でしたら、追加→再アップをお願いしますー!」
ここにも、私の今回のスタンスのぼんやり感が表れていたように思う。
名前も自己主張の一つ。島唄を自分の愛すべきルーツとして紹介したのならば、それを書いたのが誰かも伝えたくて、名前を書き残したはず。
どうにも、詰めが甘かった。

そして迎えた企画メシ
第2回の講座は、九龍ジョーさんが、ご自身のこれまでのキャリアをなぞってお話しいただくところから始まった。

パロディを書いて友人に共有していた小学生時代、学芸会で自身の脚本の上演を友人らと目論むも、目立たない同級生のカジワラさんが書いた脚本の思いがけない完成度に打ちのめされる。
ドキュメンタリーを撮りたくて、大学卒業後入社したTV制作会社のロケで、築地市場の人々の仕事を楽しむ様に魅力を感じ、2週後には仲卸業者に転職を決める。
その後荒くれた上司のいる広告代理店を経て、ハローワークを通じ、まさかのAVのモザイクレタッチ職へ。
そのスキルが思いがけず武器となり、BUBKA(コアマガジン)に転職。そして太田出版に移られ、編集者・ライターとして様々な書籍を手掛けるようになる。

お話を伺っていて、九龍ジョーさんに強く感じた印象は、面白がることがとても得意な方なんだということ。
キャリアもカルチャーに対しても、様々なジャンルを横断して「面白い」と思うものへ進んでいく。
企画生の課題にも様々な角度から触れて、いいところ、面白く感じたところについてお話ししてくださる、その幅広さがとても魅力的だった。
九龍さんはまた、まだ世に出ていない人のポテンシャルに敏感ともおっしゃっていた。九龍さんは、この世界にまだない面白さに気づくアンテナが高くて、経歴や肩書きに囚われず、ユニークな輝きを見つけて光らせられる方だと感じた。

自分の中の演算機
そんな九龍さんが大事なこととして挙げられたのは「自分自身の演算機を通して表現すること」。
実際、今回の課題を見ると、課題を「自分ごと」に落とし込んで、それぞれの視点からの気付きや解釈が盛り込まれたものには、より惹かれる部分があった。
それを思うとやはり、今回の私の課題には、私が咀嚼した思いを載せきれなかったというもったいなさを感じた。
そもそも私が企画メシに申し込んだきっかけのは、それっぽい企画でなく、自分そのままに力を抜いた企画を作りたかったから。
まーたカッコつけてしまったと、忸怩たる思いになった。
カッコつけることがむしろ輝く場所もあるとは思うのだけど、今私にもっと必要なのは、読み手にどう受け取ってもらいたいかを考えながら作る誠実さなんだろう。
そして、九龍さんご自身の演算機を形作っているのは、きっと今までいろんなフィールドで吸収してこられた知識なのだ。
教わることが好きで、文筆業に関わりのない職歴からも様々なスキルを得て今のお仕事に活かされている九龍さんの演算機から生まれる仕事は、だからこそ幅広い分野の方に愛されているのだと思う。

師匠を作る
九龍さんは講義の中で、自分の中に判断基準を持つには、師匠を見つけ、その人から教わることがいいともおっしゃっていた。
九龍さん自身、立ち止まった際には「師匠ならどうするか」を考えられるという。
今回の企画を進めるにあたって「自分なりの視点」を持つには、九龍さんを師匠として、著書やYouTube、SNSを通じて発信してくださっていることに触れ、九龍さん自身がなぜ伝統芸能を追いかけ続けるのかを知った上で、同じ目線から伝統芸能を見て感じてみる、相手の目線に立つべきだったと思う。
また、 島唄の教室を探したり、ネイティブ奄美人の母や祖母にインタビューをして、どれほど島唄が暮らしに息づいているのか、ネイティブはどこに魅力を感じ、何を発信して欲しいかを調べることもできた。
 音楽関係のお仕事もされている九龍さんが、どこかで島唄に接触されていないかを調べることもできただろう。
感動メモにも書いたけど、 情熱を売りにしているのに、情熱を発揮できなかったこと、咀嚼が不十分で、自分の言葉で語りきれなかったこと、結果自分の好きなものを輝かせられなかったことには、やはり後悔が大きい。
 ただ、ブレない軸を再認識すること、自分の演算機を通して語ること、受け手に目線を合わせること、大事なことが何かを少し見出しつつもある。
企画メシで自分の思いを発信するチャンスは、多くない。
次は自分の言葉で語りたい。

おわりに
流れるように話される九龍さん、そして横で深く頷きながらモデレータとして講義を進行される阿部さん、お二人のご様子が印象的だったので、ヘッダーとして絵に起こさせていただいた。
阿部さんが、いかに九龍さんにスムーズに講義をしていただくか、細やかに心を配られながら進行されているのが感じられ、そのような相手への思いやりや誠実さを時として欠いてしまう自分にとって、勉強になる時間でもあった。
今回、職場の高円寺で企画メシ講義にリモート参加していたのだが、なんと九龍さんご家族も企画メシ後高円寺にいらしていたとのこと。
https://kowloonjoe.com/2021-07-17/
パル商店街に行っていればよかった……!!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?