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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「ゆれる」EVISBEATS,田我流

「誰にも評価されたかないね」が南の口癖で、小説を書き続けていた。《読者に読まれてやっと小説は完成する》という定説にも屈しない。彼女のYOUKIは俳優で、それで暮らすことができていた。南はろくに働きもしないが、なぜか困窮するほどの生活には困っていない、人徳か。それどころか、誰かのために小説は書かないし、自分のためでもない。ただそうしなければ言葉の海に溺れてしまうから、そうしているだけ。新人文学賞には応募しない。自費出版もしない。自分の手元のパソコンに文字を流出しているだけ。

ある時、見かねたYOUKIが内緒で原稿を文学賞に送って、最終選考まで残って、YOUKIのスマホに連絡があって(南はスマホを持っていない)、それを伝えたら、ひどく怒った。「誰にもわからないのが芸術なんじゃ!」と怒号を発して家を出ていった。3日後に家に戻ったらYOUKIはいなかった。二度と帰って来なかった。YOUKIのために書けば良かったと初めて後悔したが手遅れ。

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https://open.spotify.com/playlist/5rB5QR6w01DrYgGc8klsln?si=LIeuWnfoTW2zE-il6s7jDQ

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