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【400字小説】71と60

最期の会話は「忘れろ」。
カーブした対向車線から車が飛び出して来て、
ぶつかる直前の言葉だった。

今考えてもなぜその言葉なのかわからない。
あの事故のことを忘れろってことか。
そう言えば、「突っ込んでくる!」と叫んだ俺に対して、
ヤツはやけに冷静に言ったんだ。
そのシーンに飽きた感じすらあった、振り返ると。

やっぱりあそこで自分が事故死することを悟っていたのか。
でも、だったら、わざわざあの国道を通らない
と思うのが普通の見立てだ。

俺は命拾いして、でも精神をひどく病んだ。
事故のことがフラッシュバックして辛いから、
それを抑止する漢方薬を飲んでいる。
それでも思い出すけれど、
電波の悪いところで観る動画みたいに
途切れ途切れだから、悪夢の直撃は避けられる。

もしあの時、機転の利いたハンドル捌きができていたら、
ヤツも死ななかったんじゃないかって、反芻。
でも、ヤツは今日までずっと言い続けてる「忘れろ」って。
神様だったのかな。

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