見出し画像

【400字小説】きみがわるい

貴美は顔面蒼白で「あなたは気が狂ってる」って震えながら言うから、わたしは傷つかなかった。飲めないジャック・ダニエルを気取ってさ、痛々しい。

「あなたの書いているのは小説じゃない」って突き放されたこともあったっけ。あの時は怒鳴ってしまったけれど、今になると大バカだったなって反省してるよ。頭に血が上ったことにじゃなくて、貴美のセリフは貴美の主観だから、わたしの主観とは何も関係ないってこと。わたしはわたしだよ。今さらわかったんだ。

マイクロバスを買って、車内を改装して車中泊していた貴美。よく泊まらせてもらったこと、恩に着るよ。あそこでしか貴美を抱かなかったのはお金が無かったから。一度でいいから広いベッドで貴美と溺れてみたかったな。でも本当に愛していたら、あんなところで貴美と寝たりはしなかったのかも。湖に沈んだマイクロバス、いつか引き上げられる日は来るのか。水中では息が出来ないから、いつまでも美しい。

❏❏❏

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?