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【400字小説】個性という罠

「自分らしさって何さ」と公園のベンチの
端っこでつぶやいたあなた。
小高い丘の芝生、空の春めいた青、
桜はまだか、もうそろそろか。
銅像は誰なのか知らない。

「ぼくがすきだってことがきみらしさの存在だよ」

美しい風があなたの髪の毛をなびかせて走り去る。
花がないのが、この大きな公園の欠点であり違和感。
その違和感を持たない人はたかが地球人。

「きみの言ってることがわからない」

「ぼくとあなたとでぼくになるし、
その逆もあるんだよ」

「それと自分らしさと関係あるの?」

「ないよ」

ぼくが笑うとあなたは本気で怒ったね。
顔が真っ赤で目には涙を潤わせて。
だからぼくは唐突に口笛を吹きまくる。
即興曲であるから芸術にしか成り得ない。

「あなたらしさを商品にしちゃいけない!」

「だから自分らしさって何さ」

答えは知らねえとぼくは言いたかった。
でも、言わなかった。
自分で見つけなければ、
手からこぼれる砂にしかならない。
銅像にはなりたくねえ。

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