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【400字小説】有刺鉄線

社長の息子のユウシはトゲトゲしかった。でも死んだから、《いい人》に昇華。いつだって誰にでもニコニコしていて、でもその反動で不機嫌にもコロコロなって、ユウシといると、まるでジェットコースターに乗ったみたいだった。誰にとっても《ユウシ・コースター》は乗りたくないアトラクション。

有名な遊園地のジェットコースターの事故で死んだって聞いた時、ぴったりで驚いたのと、正直、ホッとした自分がいた。ユウシに貸した4万円は返ってこないことも、いいかって思えるくらい。多分、関係者全員がオレと同じ気持ちに。

葬式はせつないくらいに盛大に行なわれて、あまりに派手だったから笑うしかなかったじゃん。「死んじゃったら、もう何も言えねぇ」って言った友人代表の気持ち、わかるよ。腹立たしくて、微笑ましい。悲しくはないから、かわいそうなヤツだったよ、ユウシは。だから、トゲトゲしい嫌味をあの大きな葬式で垂れ流すべきだったって後悔してる。

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