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【400字小説】in 25m

娘のためなら死ねる。
たった水深1mのプールで、娘が溺れた。
中学生にして溺れたのは、
彼女が泳いでる最中に気を失ったからだ。

動揺した妻から連絡があった
午後2時過ぎのことをはっきり覚えている。
7月6日だったその日、
わたしは運転中に隣レーンにいた
知り合いの女性と車の窓越しに会話をしていた。

「それで、娘さん、いくつになられたの?」
「15歳だよ」
「あら! もう? 年を取るわけねえ」

だなんて、よくある話を。
シチュエーションだけはあまりない感じで。
そう、そこから何かおかしく、
不安なことが始まっていた。
気づかなかった。

そんな間に、横断歩道の信号が点滅して、
いよいよ発進するタイミングに。
「じゃあ、またどこかで!」と言って
ウィンドウを締めアクセルを踏んだ瞬間、着信。
悪夢の始まり。

あれから今日まで娘の意識が戻らない。
わたしが死んだところで
彼女の意識が回復するとは思えないが、
試しに溺れ死ぬのも悪くはない。
どうせ長くは泳げない。

◆◆◆

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