2回戦 涼しく

毎日涼しくて嬉しい。夜に布団を掛けて寝るのが嬉しい。朝起きると身体に布団がかかっているのも嬉しい。家を出た瞬間に嬉しい。日が落ちて若干の冷え込みに羽織物を引っ張り出すのも嬉しい。ずるずると帰宅を引き延ばして歩くのが嬉しい。缶コーヒーのホットが染み入って嬉しい。とはいえきりっと冴えるつめたいコーヒーも嬉しい。

さんざ夏のヘイトを撒き散らしてきたからには、責任を持って機嫌の良い秋をお見せしていかなくてはならない。
M-1グランプリ、2回戦を突破することができた。


毎年新鮮に緊張する。とはいえまあ、なんとなく去年よりは緊張しなかったような気がする。
かれこれ9年、浅草に挑んでいる(ここで叙述トリック;僕らはもう芸歴10年目だが、M-1グランプリは僕らが芸歴2年目の時に復活している) 。
9年目ともなると、大門駅地上で大江戸線から浅草線へ、かなりスムーズな乗り換えに成功している。「不安になってからが本番」というぐらい歩くことをよく知っている。
会場に11時過ぎ集合であったので、毎年声出しに使っているカラオケ館はまだ開いてなかった。9年目ともあらばそんなこともある。少し歩いてまねきねこに入った。気づくと2人ともレモンスカッシュを頼んでいた。9年目にして新しいジンクスが生まれたようでかなり恥ずかしかった。昔はなかったカラオケの自動精算機にももう動じない。綺麗に折半できなかったカラオケ代も、どちらかがほんのり妥協する。9年目の余裕である。もう何にも動揺しない。あんまり動揺しない。



舞台に立った時の風景は、昔からあんまり変わらず、5656会館が1番好きかもしれない。年季を感じる茶色がかった空間に気分が良い。ディープに前のめってない、フェス感がない、穏やかに演芸を楽しもうという表情に見える。無論ディープに前のめっている空間も楽しいけれども、そういう空間は僕らよりももっと上手に乗りこなし飛び回る人がかなりいる。ともかく穏やかに演芸を楽しもうという表情が好きだ。
当日見た風景、穏やかに演芸を楽しもうという表情とは言っても、それぞれのお客さんがどんなテンションで見ているかは分からないし、ディープに前のめってる人も当然いるだろうと思うけれども、ともかく僕は、客席を一つの生き物として言っている。ともかく僕は、客席を一つの生き物として言っているし、その表情は穏やかに演芸を楽しもうという顔をしていた。僕は、客席を一つの生き物として言っている。
5656会館の舞台は、漫才をしている!という感じがする。とても気分が良い。



漫才がなんたるか、みたいなことが、僕はちょっとも分かってないんじゃないか、「まだまだ分からないことばかりですねェ」みたいな甘っちょろい感じじゃなくて、本当にちょっとも分かってないんじゃないか…?みたいな不安が頭をもたげた2023年だった。それでもまあ、そこそこ芸歴も重ねてきて、堂々と覚悟を決めてここまできて、いざ浅草の舞台に上がったら上がったでとてもとても楽しかった。この楽しさに漫才の真髄があるのだ、みたく都合良くまとまれば良いけど、たぶんそんなこともないんだろうなァと思いつつ、とはいえまあ楽しいに越したことはなかった。漫才のことをどれくらい分かってるかは分からないけど、「漫才してる〜!」と思わせてくれる5656会館は好きだった。かなりフガフガ言ってる。そんな季節になってきた。


今年も、ネタ終わりのインタビューに答えさせてもらった。去年の動画にて「いくらなんでも暗すぎる」とかなり反省したので、ぐっと明るく答えようと思った。ぐっと明るく答えるには、気持ち良くウケねばならない。気持ち良くウケなかったらば最悪、インタビューも暗くなって輪をかけて最悪だ。
結果的にそこそこには笑いをいただけて、幾分か明るく喋れた。とはいえ幾分か明るく喋ったくらいの感覚で、蓋を開けると思いの外ぜんぜん暗かったりするから、動画が上がるまでは分からない。1年越しの浅草PDCAサイクルから、一刻も早く抜け出せたらと思う。




ともかく良かった。ほんとに良かった。ここからだ。今年の僕らはひと味違う、たぶん。言うだけタダだしネタを見る頃には大抵みんなそんなんも全部忘れてる。今年の僕らはひと味違う、たぶん。

あなたの素敵サポートが、僕を素敵クリエイティブにします。