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映画トラペジウムを観た

Twitterで「観てないのですか、トラペジウム」「観たほうがいいですよ、トラペジウム」とオタクが騒ぐのでホイホイ乗せられて観てきました。
なんだよオタク〜そんな変な映画じゃなかったじゃんか(当社比)というオタクの感想をつづります。

アイドルになりたい少女の努力

まず前提としてぼく自身、アイドルアニメには疎い方だ。いやアイカツにめちゃくちゃハマって救済されていた人間ではあるのだが、深夜に放送されているようなアイドルアニメは観たことがない。だからアイドルの基準は一般的なアイドルのイメージとアイカツにおけるアイドルのイメージが主なものだ。

アイカツにおいて、アイドルとはアイドル活動を通して輝くことで人を楽しませ、生きる道を照らしてくれ、努力を肯定する極めて明るいものだ。女児アニメであるため、そこにスキャンダルは存在しない。ひたむきに努力を続けアイドルとして研鑽を究めていく彼女らの姿に心打たれ、激励されたものだ。

現実のアイドルは経時的な変化もあれば、人間関係も男女関係もあり、そのスキャンダルに振り回されるのは有史以来延々と続いているものがある。当然これは現代のアイドルだけではなく、偶像崇拝の象徴としてのアイドルと同じだと思う。

東ゆうという女

東(あずま)ゆうはアイドルファンである。ただし劇中では特定のアイドルのファンかは描かれず、昔からアイドルが好きだったという描き方である。そして東はアイドルになりたいと願って活動をしている。アイドルになるという夢に向かって、その計画をノートにしたため活動を始める。

高校生になった東は、共にアイドル活動を目指すための仲間を探し始める。東西南北の方位が高校名に含まれる学校から美少女を集めるのだ。首尾よく集まったのは『金持ち美人の南』『機械オタクの天才美少女』『清楚なボランティア美人』。東ゆうは行動力の鬼だ。アイドルとは何たるかを知り、アイドルになるために効率的に活動を開始した。その足かけとなったのが、東西南北からアイドル候補となる美少女と仲間になることだった。

映画の序盤は、東西南北が友だちになっていく爽やかな青春物語だ。合間合間に東ゆうの野望が見え隠れすることで、友だちとして仲良くなっていく描写との危うさを感じてヒヤヒヤした。でも東ゆうにとっても、西南北にとっても大事な時間だったのだ。ここはほんとうにいいシーンばかりで気持ちがいい。

仲良くなった東西南北、東ゆうの野望のとおりアイドルグループとなったが、志半ばで空中分解してしまう。そもそも東ゆうは「アイドルがなんたるか」を熟知しており、アイドルになる前からアイドルとしての振舞いをし様々な対策を講じていた。しかし東以外はそうではなかった。

『たまたまアイドルになってしまった』

東以外の3人にとってはアイドルになったことはこれに尽きる状況だったのだ。アイドル活動は苦しいし、芸能界のしきたりに揉まれるし、スキャンダルなんてもってのほかだった。
東ゆうにとっては、アイドルになってアイドルとしていっぱしにやっていくことが目標だったし、それが見えてきていた。でも他の3人は違った。東ゆうについていけなくなってしまった。

失敗を描くこと

トラペジウムはアイドルユニット『東西南北』の失敗を描いている。失敗を描くことは難しくて、失敗させるためにキャラクターを動かすなんてチープになってしまうだろうなと思う。失敗ありきのシナリオでは醒めてしまうし、視聴者に対して感情の揺さぶりが必要だと思う。

アイカツ4シーズン目では氷上スミレのSクラススペシャルアピールの失敗を描き、滂沱の涙を流したことは記憶に新しい(もう10年も前だが)。スミレちゃん失敗はこれまでのアイカツ4年分の歩み、あかりちゃんらとの絆と信頼、それらをただ一つの栄冠スターライトクイーンを奪い合うという唯一無二の舞台だからこそ描けた失敗だと思う。もっと言えばアイカツスターズにおける桜庭ローラの挫折もおなじだ。

トラペジウムにはアイカツの4年を描く時間はなかった。しかし視聴者に失敗に向けた揺さぶりをかける準備を90分、下手したら20分・30分以内で経験させないといけなかった。だからこそ東ゆうのアイドル計画ノートを最初から視聴者に開示した。すべて計画がうまくいっているような、薄氷の上を渡り切ったかのような感覚を経験させた。そうして迎える破局は、東ゆうの歪さと、ふつうの女の子だった西南北を強烈に対比させることで衝撃的な別れを演出できたのだと思う。

オタクの鳴き声

トラペジウムは万人にウケる映画ではない。
ハッピーエンドじゃないし、大河くるみ(西)の悲鳴はめちゃめちゃキツイ。でもこういう映画に惹かれてしまう。そりゃ加齢だとか老化だとか言われるもんではあるんだけど、世間(クソデカ主語)がこういう作品も見たいんだというのを徐々に空気として形作ってきているんじゃないかなとも思う。
逆張りオタクの鳴き声だって言われてもいい。
映画ゆるキャン△を観た時もそうだった。否定的な感想もあった。でも漫画の未来IFとしてはすごく現実的だけども全然暗い雰囲気はなくて、『こういう風になりたい』とか『こんな仲間が欲しい』といった希望を感じる映画だったとぼくは思っている。
似たような感覚を映画LIFE!(原題:A Secret Life of Walter Mitty)でも感じたことがある。LIFE!を簡単に言っちゃうと「人生うまくいかないこともあるけど、いまを懸命に生きよう」といったメッセージ性の強い映画だ。転んでも立ち上がって頑張る、そんな姿にグッと来てしまう。

トラペジウムに対しても似た感覚を感じていて、そりゃ学校は違う、趣味も違う、考え方も違う4人が、同じ方向を向いてまっとうにアイドルとして頑張るなんて無理な話だよ。なんてトラペジウムはそこで終わらなくて、4人が一緒に笑いあった時間は確かにそこにあったんだと肯定してくれる。
数年たったそれぞれの人生をちょっとだけ見せてくれる。そこにはキャラが生きていて、東西南北ひとりひとりがあの時間を肯定してくれる。そんな空気が、この映画を好きになれた理由かもしれません。

そんなんでよく『方位自身』なんて歌を歌わせたな、って思いますが。

正直、東西南北の破局で東ゆうが自殺してしまうんじゃないかとハラハラしたりしましたが、さすがにそんなことにはならなくてよかったです(どうしても最悪を妄想してしまうオタクなので)。

まだまだトラペジウムは伸びる映画だと思います。
上映館数・回数は絞られていくでしょうが、ぼくの心にはしっかり残りました。ぜひ、劇場で見てみてくださいね。

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