閃き💡劇場26

「おはようございます」
「おはようございます」
いつも通勤時に会う近所の女性だ。手にはトングとごみ袋。毎朝この辺りでごみ拾いしているようだ。

俺の名前は橋崎修吾。
妻と子供二人の四人家族でこの辺りで駅が近い一軒家に住んでいる。
毎朝いつもあの辺りでごみ拾いをしている女性は道を通る人皆に声をかけているようだ。
(そんなことをするなんて余裕がある人なんだな)俺はそう思いながら駅へ向かった。

ある日のこと。
「あれ？ハンカチがない」
俺は子供からプレゼントされたお気に入りのハンカチを鞄に入れようとタンスを探したが見つからなかった。
「落としたんじゃない？」
「そうかなぁ、職場見てみるわ、じゃ行ってくる」
時間になったので俺は慌てて適当なハンカチを鞄に入れ、外へ出た。

道すがらいつもの女性に出くわす。
「おはようございます」
「おはようございます…あ」
「？」
俺はふと、この女性にハンカチの事を聞いてみようと思った。
「あの、このあたりで青の格子柄のハンカチを見ませんでしたか？」
「ハンカチ？…もしかして、あれかな？昨日の朝ごみ拾いをしていたらそんな感じのハンカチを見つけたので交番に届けましたよ」
「ありがとうございます！行ってみます！」俺は深々とお辞儀すると職場へ向かった。今からだと時間がない。今夜行くことにした。

その日の夜無事にハンカチを交番で受け取った俺は、あの女性にお礼をしようと思った。

そして次の日。
俺はお礼を持っていつもの通りに向かうとやはりあの女性がいた。
「あの！おはようございます！」
「あぁ、おはようございます！」
「ハンカチ見つかったんですよ、ありがとうございます！それでこれをお礼に受け取って欲しくて」
「あら、気を使わなくてもいいのに」と最初は女性は受け取らなかったが、めげずに気持ちですからと伝えたら受け取ってくれた。
「ありがとうございます。お菓子ですか？家族で食べようと思います。」
「あ、お子さんいるんですね」
「そうなの小学生の息子なんだけどね」
「え？！そうなんですか？」
俺はビックリした。子供がいるように見えなかったからだ。子供がいたらごみ拾いなんて余裕があるのが凄いと思ったからだ。妻も毎日悪戦苦闘して子供を送り出している。毎朝戦場だ。それを伝えたら女性はこう言った
「私も同じですよだから毎日大変で」と苦笑い
「失礼ですけどお名前は？」
俺たちはしばらく話し込んだ。
女性の名前は柴崎さん。なんと息子のクラスメイトで妻とも交流があった。夜俺がその話をすると
「あぁ、柴崎さんね、まだごみ拾いしてたんだ、ごみ拾いわね、学校のボランティア行事でやってたんだけど、いっぱい落ちてるでしょ？駅前。火が付いたのかな？自分達が住む町は自分達でキレイにしないとって言って毎日拾うようになったみたい。凄いわよね」
と妻は言った
「まぁ確かにその通りだな」
「私も久しぶりにやろうかな、気にはなってたのよ柴崎さんのこと。よし、今度の日曜日皆で柴崎さんのお手伝いしましょ」
「え？なんで」俺は妻の提案に驚いていると
「あなたもハンカチのお礼はしたけど、さらに手伝ってくれたらきっと柴崎さんも喜んでくれるわよ、よし決めた日曜日にごみ拾いしましょう！」
妻の勢いに俺は負けてしまい日曜日にごみ拾いをすることになった。

日曜日
「あら！橋崎さん！どうしたの？」
「柴崎さん！うちの夫がお世話になりました！お礼にお手伝いに来たんです。」
「あらやだ、いいのよ気を使わなくて」
「いいのよ、私の気が済まないから手伝わさせて！」柴崎さんも妻の勢いに負けて一緒にごみ拾いを始めた。
最初は何も思わなかったが、拾い終わると通りがキレイになっていて、なんとも言えない清々しい気分になった。
「気持ちがいいでしょ？これが病みつきになるのよ」と柴崎さんは言った。
それから俺達は日曜日になると柴崎さんと一緒にごみ拾いをするようになり、柴崎さんのご家族とも交流が深まり楽しくごみ拾いをしている。
相変わらずごみはあるが、仲間と楽しくごみ拾いするのが今では楽しみになってきている。
たまに何かのグループですか？と聞かれたりするので、こんなきっかけからもっと町をキレイにする人が増えればいいなと俺は思った。