第5回百合漫画総選挙で投票したい作品が無限にあるという話
はじめに
第5回百合漫画総選挙。出版社から単行本化されたすべての百合漫画がしのぎを削る百合の祭典がいまふたたび開かれました。
今回は少々趣向が変わり、恋愛・日常・コメディ・ストーリーそして総合の5部門で争われます。かねてから「投票枠せめて5枠ください」と虚空に向けて呟き続けてきた私はこの文言を見て「これで5作、いやひょっとしたら各部門にそれぞれ3作ずつ投票できたりして……！？」とはしゃぎましたが、要項を読むと最大4作にどの部門か自由に割り振るという方式でした。それでも従来の3枠から見ると増えており、純粋に感謝しています。
※「5枠ください」というのはあくまで「投票したい百合漫画が多すぎる」というこの世界への感謝の言葉であり、集計作業がめちゃくちゃ大変な中このような催しを定期的に開いてくださる百合ナビご担当者さまにこれ以上の無茶を要求する意図は決してないということをご理解ください。
そうして投票対象を考え始めたわけですが、いつもの「投票したい作品多すぎ問題」が立ちはだかります。されど投票しないのはもったいなく、かといって複数回投票は無効だし迷惑行為でダメなので、やはり4作無理やり投票することにしたのですが、それら4作と残りの作品との間に優劣の差が存在するわけではないため、他にも色々な作品にコメントしたい欲求が渦巻くこととなりました。
前置きが長くなりましたが、そういうわけで思いついた作品に関するコメントを以下に書き並べていきます。五十音順にしたつもりです。これまで百合漫画大賞等に私が寄せ、百合ナビに掲載されたコメントをそのまま載せたりもしています。パクリじゃないよ。
※百合漫画大賞2020において同様の試みをしており、その際コメントした作品については、追加で言いたいことがある等特殊な場合を除いて今回は記載を省略しています。
完結作品
「百合漫画大賞」と比較した場合の「百合漫画総選挙」の最大の特徴は、前年以前に完結した作品の話ができるという点にあると思います。人類の歴史に際限なく積み上がっていく百合マスターピース……それらは百合漫画総選挙における投票枠足りない問題を年々深刻なものにしています。
一度だけでも、後悔してます。
失職困窮女性が家賃徴収に来た大家さんと体の関係を持ってしまうところから始まるラブストーリー。大家さんがかわいいというただそれだけで既に必見の作品ですが、タイトルの意味合いが変わってくるストーリー展開や、タイトル略称「いちます」が作中小道具と絡んでいる点など、ただならぬ知性を感じさせる恐るべき百合漫画です。
同時期の電撃大王に百合作品が複数連載されましたが、どれも全体的に好きです。
君に紡ぐ傍白
フルカラー本格百合。フルカラーなだけですごいのにフルカラーなだけじゃないところがすごかったです。正統派すぎて魅力をうまく言葉にできません。
優良プラットフォーム・ストーリアダッシュの作品ですが、ストーリアダッシュといえば、クレイジーサイコ百合オンライン『レオンハルト様は女の子』連載化してくれませんでしょうか……
q.天上の音楽
主人公・憬さんは親友のシオンと演奏することに無上の喜びを感じていたが、ある日ヒューマノイドの演奏を聴いたのをきっかけに、シオンは弾くのをやめてしまう。途方に暮れていた憬さんは偶然にもあの日のヒューマノイドの同型機・キリエと出くわしてしまい……
ヒューマノイド、音楽、百合などに興味のある人は勿論、とにかくすごいものを読みたがっているすべての人に読んでほしい作品。重要キャラ「シオン」が出てないうちから既に面白く、出てくるとさらに面白くなります。
SFとしての完成度がそもそも高く、百合界隈の外でも語られるべき名作です。
合格のための！ やさしい三角関係入門
つらい系百合展開の末に三角形の頂点すべてを両矢印で結ぶ新提案。百合の無限の可能性がもたらした人類の叡智の結晶。特に望月凛先輩がおちていく描写は圧巻で、読んでて悲鳴が出ました。
交換漫画日記
自分が、周りが、変わっていくことに対して、抗ったり踏み出したりする少女たちの青春の物語……だと思うんですが、なんだこの内容伝わらなさは。未読なら全2巻読んでみてください。「交換漫画」がとてもいい味を出しています。主人公アイコ氏（のちの薔薇藻栖安威子先生）好きです。ある意味物語の発端となったギャル・大沢も好きです。みんな好きです。
citrus
現代百合の代名詞的存在にして、ノンストップハードモード百合ドラマ。私はこういう連ドラ的に立て続けのトラブルが降りかかって主人公たちが絶えずつらい目に遭わされるプロットが苦手なのだと思っていましたが、この作品に関しては例外だと感じました。本作には破滅的に顔の良いヒロイン・藍原芽衣が存在するため、ぬるい脚本ではバランスを保てず世界が崩壊してしまうのだろうと考察()しました。
この作品をはじめ、多数の百合姫作品がマガポケに出張してきたことにより、私の百合QOLは著しく上昇しています。この場をお借りしてマガポケへの感謝を。
将来的に死んでくれ
女子高生・菱川俊が同級生女子・刑部小槙に万札を掴ませ、ヤらせてくれるよう迫る光景から始まる衝撃の百合コメディ。以上の文言で「うわ、ないわ」と思った方は、菱川はすぐにそんなこと（小槙ちゃんに怒られたから）しなくなるので安心して読んでほしいし、それでも菱川のヤバさは健在なので万札掴ませる姿に狂喜乱舞するタイプの方も楽しく読めると思います。
すいとーと！
ガッツリ系博多グルメを食べ歩く、ニンニクの香りの百合。グルメにも百合にも妥協しない作品づくりが極めて印象的。個人的には帰省の楽しみである推しラーメン屋・博多濃麻呂名島橋店が最終回でフィーチャーされたので、この作品は完全無欠にして永遠です。
たとえとどかぬ糸だとしても
好きな人は兄の結婚相手……はじめから終わっている恋をするウタが何度打ちのめされても顔を上げ、片想いを貫く姿が描かれます。私が女だったらウタちゃん様に抱かれたかった。
できそこないの姫君たち
人物描写を極めた至高の百合漫画。本編全37話だけでも完全に完成されていますが、最終第6巻と同時に発売された未収録作品集とを合わせることで究極に完成されるので皆さん読んでください。
透明人間の骨
折に触れて読み返したくなる名作。「ここにいたくない」と願った少女・来宮花が、奇跡的なほど良い友人と出会い交流を持つ、人間性再獲得の物語。友人の水上伽奈・中山栞もまた来宮花から温かなものを受け取っているところがまた良いです。
とんずらごはん
身に覚えのない殺人容疑で逃亡生活を送ることになったお嬢様が逃げた先々で美味しいB級（時々高級）グルメに舌鼓を打つイカレた漫画。基本的には百合ってわけじゃないですが、ある人物が中心の話は完全に百合です。百合エピソードの中で特に好きなのはマジスパに行く第35話『マジカルミステリースパイス』。また、全然百合じゃないけど好きなエピソードは人情兵器カツ丼に相対する第2話『優しさの肉厚カツ丼』、そしてFBI超能力捜査官が小波沙羅容疑者を追い詰める第7話『円盤餃子 vs FBI』です。ハンパない・・・ハンパないですFBI超能力捜査官！！
ファインダー越しのあの子
夏休みに映画を撮る話なのですが……何だ？この作品の良さをどう説明すればいいんでしょう？とにかく夏特有の、眩しくて、頭が少しくらくらして、刹那的で、後ろ髪引かれる空気感が全体に漂う忘れられない作品です。
また来てねシタミさん
都市伝説でまことしやかに語られる旅行代理店「ミミミ観光」の殺し屋シタミさんが、その土地の特産品を使ったご当地殺法で、法でさばけぬ悪人どもの旅立ちをお手伝いする痛快アクションコミック。百合が主題ではないですが、百合要素があります。完結作コーナーに配置しましたが、まだ完結してないもん……続編くるもん……という反論は常時受け付けております。
やがて君になる
恋愛漫画の金字塔。百合というジャンルのド真ん中でありながら、全生命体へ胸を張ってお勧めできる普遍性をも備えた永久不滅の名作。
私の使命はことあるごとにこうやってこの作品のアニメ2期を待望する声を発することです。現実問題としてTROYCAさんがとても忙しそうにしているため、すぐには厳しそうですがいずれ……！
連載中作品
あそびあそばせ
とんでもなく美麗な画で（表紙詐欺として）有名な不条理ギャグ漫画。作品に関する説明は難しいので放棄しますがシャネル×ぺんぺんが好きです。
雨でも晴れでも
「にゃんにゃん」呼びとてもいいと思います。あだ名のセンスが高いです。そしてそんなにゃんにゃんの過去が明かされつつある……？本編も目が離せません。
ウソツキ皐月は死が視える
24時間後の死体のヴィジョンが視える特殊能力を持った女子高生・皆月皐月が、死の運命を回避するため奔走する物語。百合漫画とまでは言わないかもしれないのですが、明らかに百合の文脈を意識していそうな表現や宣伝バナーが見られるので百合です。ガチ百合要員も出てきます。
永世乙女の戦い方
女流棋士漫画。第1話扉絵の時点で全員目がヤバくてワクワクした思い出。そこから読み進めていくとやはりヤバいまま殴り合う展開でワクワクが止まりません。個人的に忘れられないのが第3集収録、主人公・早乙女香と姉弟子・亜久原初音の対局。ちゃん香の覚醒回であると同時に、作中屈指の常人で、目がヤバい周囲の人たちと比べて狂いきれていない初音ちゃんさんの内面描写が刺さりました。
笑顔のたえない職場です。
永世乙女と同じく、くずしろ先生の作品。漫画家のお仕事モノ……を、めちゃくちゃエンタメに仕上げたドタバタコメディ。永世乙女と同一世界であるらしく、角館塔子先生や天野香織先生がスターシステムで登場します。このふたりのカップリングすなわち「かおとう」は明らかに公式が最大手であり、並々ならぬ供給があります。
狼の皮をかぶった羊姫
狼の／皮をかぶった／羊姫
という辞世の句を詠む心の準備をしていつも読んでいます。ケモ耳主従百合です。読みながら「サヨナ……いや、まだだ……まだ死ねない……」と、尊みによる爆発四散をこらえています。ちゃんと最後まで見届けねばなりませんからね。
推しが隣で授業に集中できない！
推しアイドルがリアル隣の席にいるとあらば、授業に集中できぬというのも無理からぬ話。みんな少しずつ不器用でハラハラしますが、この作品に関してはそこが良さなのだと思います。
推しが武道館いってくれたら死ぬ
私はえりぴよ派。
お姉さんは女子小学生に興味があります。
タイトル通り。……ならまだよかったのですが、実際は興味があるどころでは済まされていないためタイトルよりひどいです。何もかも狂っててほぼアウトなのですが、互いを想う気持ちだけは（少なくとも今この年齢のうちは）本物です。
女ともだちと結婚してみた。
5年前の口約束をきっかけに軽い（？）気持ちで結婚に至ったふたりのお話。くるみさんの「ふはっ」がただただひたすら良い。そして瑠璃子さんのえ？私幸せですけど？と言わんばかりのアティテュードが強くて心地良くて頼もしいです。
欠けた月とドーナッツ
疲れた心に沁みる蜂蜜レモンのような滋味あふれる漫画。宇野さんの独白で「これは私向けに描かれた漫画なのかな？」と勘違いしそうになるほど刺さる作品です。
北の女に試されたい
単行本としてはひと区切りとなってしまいましたが、百合ナビで続編連載中。背の高い女と背の高い女が北海道の地でかわいい女を抱き回る旅をする、設定の合わせ技一本。この作品が好きだという気持ちを完全に決定づけたのは、よりにもよってナンパに失敗する『Route2 花園の女』です。
きみが死ぬまで恋をしたい
マガポケで読んでいるのですが、最新話に追いつきつつあるのか更新がストップしています。生殺し状態。セイランが……セイランが……！
今日もカレーですか？
はいカレーです。微百合は優れたスパイス。ゆるい絵柄ながら描き込みが相当なものなので、カレーコスプレ精神世界へたちどころに誘われます。
研究棟の真夜中ごはん
鳥見川さんの乙女ヅラに中毒ってしまい、定期的に摂取しないと生きられない体になってしまっています。大学院生要素についてはあまり深く考えないようにすることで精神の均衡を保っています。化学系ってたいへんってききますもんねー……
ささやくように恋を唄う
互いに「ひとめぼれ」するところから始まる人気作。顔の良い人々と、ミキ神様と。
泉志帆が最初に出てきたときは何だコイツと思いかけましたが、その後泉志帆のこと嫌いになれない絶妙なプロットが組まれ、良く練られていると感じました。作者・竹嶋えく先生はわたなれ原作挿絵も担当されており、心の中で竹嶋名人とお呼びしています。
新米姉妹のふたりごはん
あのですね……なんかですね……特に最近火力が高い気がするんですよ……！
この作品を百合と称するとキレる層が一定数いるのは承知していますが、その層はここまで来ないでしょうし、来ても本稿で百合ストライクゾーンが広めに取られていることは理解できるはずなので普通にピックアップしました。
チンするナイショご飯
完璧メイド碓氷さんがお嬢様をいざなうは深遠なる冷凍食品の世界。本稿執筆時点では級友たちとの夏休みが幕を開けるところであり、期待が高まる一方です。
どうやら私の身体は完全無敵のようですね
異世界転生モノとしては珍しく私が愛読する漫画です。病死して無敵の身体を与えられ転生したメアリィ様が無用な破壊をもたらさないよう、また悪目立ちしないよう奮闘する話。メイド……「私のテュッテ」……に狼藉を働いた賊にメアリィ様が人生初レベルでガチギレするシーンと、そこでもちゃんと力をセーブしてたところが好きです。
ヒーローさんと元女幹部さん
特撮×百合の究極形。秒で落ちる元女幹部さんやキマシタワー建立変身演出などすべてが完璧で感動を禁じえません。我ながらミーハーですが推しはキョーカ・スイゲツ。
ふたりエスケープ
漫画家と無職、女ふたりで現実逃避に走る、俺たちの夢の結晶のような漫画。オチのつけ方に様々なバリエーションがありますが、どれも秀逸で印象的です。
野球場でいただきます
テンポ感、勢い、そして球場メシの特別感になんか気づけばハマっている、不思議な作品。球場に足を運んでメシを食った思い出がわずかにでもあれば……否、まったくなくても楽しめる作品です。ゆるいタッチですがそのくらいのレベルの表現力で描かれています。
ロンリーガールに逆らえない
うかつで無防備な委員長・桜井さんが不登校生徒・本田さんの要求を吞まざるを得なくなり……って思ったら桜井さん、なんか物欲しそうじゃない？という感じの話です。桜井さんの表情にドキドキします。私が女だったら理性トンでた。
わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ！（※ムリじゃなかった！？）
陰キャが高校デビューすべくなんかキラキラしてる人に話しかけてお友達になったと思ったら、ひょんなことから……愛の告白をされてしまい！？
私がこの作品に本格的にハマったのは、第二十話（原作でいう1巻最後らへん）で真のスパダリとして覚醒した王塚真唯の姿に甚く感銘を受けたためでした。その後原作を読んでみると、今度は甘織れな子の根底にある陰キャ描写に込められた圧倒的リアリティに胸を打たれました。陰キャの代理戦士（チャンピオン）・れな子の闘いを見届ける義務が私にはあります。
私の百合はお仕事です！
矢野。矢野美月。やさしいお姉さま「綾小路美月」。この人物が私の心を捉えて離しません。シフト.26『綾小路美月』で矢野が見せた笑顔。人を傷つけない、やさしい振る舞いができた喜びと、次は大切な相手を傷つけずに済むかもしれないという期待感に輝く表情。私は完全に目と心を奪われ、同じコマを何分間見続けていたかわかりません。
以上のように私は生涯矢野の味方ですが、他の人物も残らず魅力的で目が離せません。さりとて私は生涯矢野の味方なので、こういった機会にはいつも、矢野がこの世に生まれてきてくれたことへの感謝と、矢野が少しでも報われる世界でありますようにとの願いを新たにしています。
未刊行につき対象外の作品
姉の親友、私の恋人
つらい系百合は必須栄養素。未読でしたらとにかく読んでみてください。『ユニコーンと寂しがりや少女』藤松盟先生の作品。前作も好きです。振れ幅がやばい。
雨夜の月
タッチの差で今回投票対象外となった、聴覚障害を題材とした百合。聴覚障害も百合もガチなので読みごたえがすごい。くずしろ先生連載何本やるんですか……！？
クズ浪人生、人生が辛いので夜のお姉さんを呼んでみた
主人公のクズ浪人生は本物のクズですが、生きる原動力が夜のお姉さんに向いているので輝いており、全面的に肯定されるべきであると主張します。
先輩、美味しいですか？
食べるのが好きで、男の人に興味がない宮田さんが、とあるきっかけで美人の森先輩と接点を持ち、料理を教えることに。始まったばかりで森先輩周りがとにかく謎だらけですが、なんとなく森先輩の幸せを願いたくなります。
毎月庭つき大家つき
傷心メンクイおねーさんが心機一転引っ越しを決意しますが、ある物件の大家さんの顔のよさに屈する形で、「大家つき」というトンデモ条件での入居……同棲では？……をすることに。おねーさんはもはや落ちたも同然ですが、もうしばらく見守りましょう。
おわりに
本稿では作品ごとの文章量にかなり差が出ていますが、その差は思い入れの度合いや優劣の差ではありません。私が思うに「名作」には大きく分けて3つのタイプがあります。すなわち「感想が長文になっちゃうタイプ」、「感想がまとまるタイプ」そして「感想が言葉にならないタイプ」。そういう特徴の違いが文章量に表れています。
それから、部門は特に付記しないこととしました。これは恋愛部門とその他とのオーバーラップや日常部門の線引きなど個人的に迷う点が多々あったためです。百合漫画総選挙の集計においては多部門に票がばらけても不利にならない集計方法が採られているため、今回の部門分けには実質デメリットが存在せず、非常にいい取り組みだと思っています。
もう作品数を数えるのもイヤなほどコメントを書きましたが、お気に入りの作品が何か漏れているのではないかと心配しています。後で気づいてこっそり書き足すかもしれません。
最後に、今後も連載中及び未刊行の作品たちのゆくえ、そしてやが君アニメ2期が実現するか否かなど、楽しみは尽きません。というかやが君2期はマジでお願いします。以上です。
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