![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/68834459/rectangle_large_type_2_e922401e3c096ae2232f952087e9ac22.png?width=800)
シュギ・ジキの系統と進化
※本論文はニンジャオン3参加作品です。下記からPDF版をダウンロードできます。
また2022/01/06 までは、セブンイレブンのネットプリントで印刷することができます。番号88910951をB4で小冊子印刷するとB5の冊子になります。
「デス・オブ・バタフライ」1)と「ザ・フォーチュン・テラー」2)の訳出によりその存在が明らかになったトラップ部屋シークエンスとシークエンス・ブレイクビーツ技法が全ニンジャヘッズを震撼せしめてから6年。このシークエンスの中心部分を含むエピソードは9つに達しているが、これらのエピソード間でトラップ部屋シークエンスはどのような違いがあり、どのように変化してきたのか。本稿ではこの問題について、遺伝子の系統と進化をアナロジーに用いて考察を行う。
Keywords: シークエンス・ブレイクビーツ トラップ部屋シークエンス シュギ・ジキ
背景
ニンジャスレイヤー日本語訳版第3部連載中に突如更新された第1部エピソード、「デス・オブ・バタフライ」と「ザ・フォーチュン・テラー」は、敵ニンジャとの戦闘を行う舞台やその戦闘法が丸々同じという挑戦的な内容であった。しかし、その着想において意図的であったか否かにかかわらず、これをシークエンス・ブレイクビーツ技法と呼び、この2エピソードの共通部分トラップ部屋シークエンス(以下「シュギ・ジキ」と呼称)はそれ以降も度々ニンジャスレイヤー本編中に登場し、効果的に読者のニューロンを焼いていくこととなる。しかし、シュギ・ジキが登場した瞬間に読者はシュギ・ジキ・リアリティショックに陥り、「シュギ・ジキが登場した」くらいのことしか覚えていないため、エピソード間で実際にどの程度シュギ・ジキの文章が共通しているのか、どのような違いがあるのか、などはあまり省みられることがなかった。
材料と方法
シュギ・ジキ(トラップ部屋シークエンス)の登場するエピソードとして、@NJSLYRアカウントのTwilog3)を全文検索し、予告などを除く9エピソードを選定した。
これらのエピソード本文から類似した部分を抜き出す方法は以下のように開発した。
・ツイートの類似度を測定するアルゴリズム
ツイートは日本語で140文字以内の文字列、つまり複数の文字の連続で表すことができる。このため、あるツイートと別のツイートの間で共通している3文字以上が連続している部分を重複なしで抜き出し、それらの合計文字列長を元となった2ツイートの文字列長平均で割ることにより、完全一致を100%とする類似度を測定することとした。
・セクションの類似度を測定するアルゴリズム
ツイートが文字の連続で表すことができるように、連載の1セクションは複数のツイートの連続で表すことができる。このため、上記の類似度測定手法を用い、あるセクションと別のセクションの間で各ツイートの類似度を比較していくことで、セクション間でnツイート目からmツイート目までが類似度xであるといったような測定を行うこととした。
![シュギ・ジキ図1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/68832325/picture_pc_d74ec37dc624c49098df5a9bd39cf474.png?width=800)
図1. ツイートの類似度とセクションの類似度
A. 2つの文字列の間で一致する3文字以上の文字列(グレーで示した部分)。この場合類似度は40%となる。
B. 2つのセクション間で類似するツイートを表示した概念図。類似度40%以上をグレーで示した。
結果
9エピソード10セクションのツイート類似度を比較し、日本語版連載順に並べた上で類似している部分を基準にアラインメントしたものが図2となる。
![シュギ・ジキ図2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/68834517/picture_pc_e4d7004a7278ddf9241c659da0920eb6.png?width=800)
図2. 調査対象セクションのツイート類似度
デス・オブ・バタフライを含む9エピソードの10セクションを相互に比較することで、類似したツイートの並んでいる部分を見つけ出すことができる。類似度はデス・オブ・バタフライを基準に表示しているが、サンセット・アンド・ヘヴィレインとオヒガン・シナプシス#2にはこの2セクションにのみ共通する部分があるため、その部分のみサンセット・アンド・ヘヴィレインを基準にしている。
一見してわかるように、デス・オブ・バタフライとザ・フォーチュン・テラーの類似部分が最も多い。一方で、シュギ・ジキの登場する1ツイートを持つのみのエピソードも存在する。そこで、エピソード間で共有されている領域をその特性によって次のように分類した。
・D領域
D領域はデス・オブ・バタフライとザ・フォーチュン・テラーにのみ共有されている3ツイートである。具体的には、「壁には電子ボンボリが四つ。」〜「毒の痛みはむしろ、彼の怒りを煽り立て、前へ前へと突き進ませるだけだった。」に含まれる、ニンジャスレイヤーが毒を受ける場面であり、他のエピソードには登場しない。
壁には電子ボンボリが四つ。そのうちのひとつ、血染めスリケンの突き刺さった不運な電子ボンボリが、断末魔めいてバチバチと火花を散らしていた。床に転がるのは、三つ子めいたクローンヤクザの死体。 1
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) August 12, 2015
この殺戮の中心に立つのは、赤黒いニンジャ装束の男。ニンジャスレイヤーである。彼は己の左肩に受けた矢を引き抜き、涌き上がる怒りとともに、右手の握力だけでこれをへし折った。「毒か……!」傷の周囲がしびれ、まるで肩が十倍にも膨れ上がったかのような感覚異常と熱が彼を襲う。 2
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) August 12, 2015
「もはや片腕は言うことをきくまい、ニンジャスレイヤー=サン!」姿見えぬソウカイ・ニンジャ、ナイトシェイドの声が廊下から響く。「あきらめて引き返すがいい!」…だが、ニンジャスレイヤーはフスマを開き、進んだ。毒の痛みはむしろ、彼の怒りを煽り立て、前へ前へと突き進ませるだけだった。 3
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) August 12, 2015
・I領域
I領域もまたデス・オブ・バタフライとザ・フォーチュン・テラーにのみ共有されている1ツイートである。「オヌシがどれほど小細工を続けようと、私の怒りの炎に油を注ぐだけだ!」の台詞が特徴的であり、最後にフスマを開く。
「姿を現せ、ナイトシェイド=サン。オヌシがどれほど小細工を続けようと、私の怒りの炎に油を注ぐだけだ!」ニンジャスレイヤーの声が、廊下にこだました。ナイトシェイドの高笑いだけが帰ってきた。彼はなおも進んだ。廊下は突き当たりへ。ニンジャスレイヤーは右手で、目の前のフスマを開く。 6
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) August 12, 2015
・S領域
S領域は「バカな……行き止まりとは……!」及び「それはシュギ・ジキと呼ばれるパターンで」を含む1ツイートを主とする領域であり、また6エピソードにおいては「姿を現すがいい、◯◯=サン……!」を含む1ツイートが続く。シュギ・ジキ(トラップ部屋シークエンス)を象徴する領域である。
「バカな……行き止まりとは……!」ニンジャスレイヤーが足を踏み入れたのは、タタミ敷きの四角い小部屋であった。それはシュギ・ジキと呼ばれるパターンで、十二枚のタタミから構成されている。四方は壁であり、それぞれにはライオン、バタフライ、ゲイシャ、イカの見事な墨絵が描かれていた。 7
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) August 12, 2015
もはや先へ進むためのフスマは見当たらない。では、ナイトシェイドはどこへ消えたのか。「姿を現すがいい、ナイトシェイド=サン……!」この謎を解くべく、ニンジャスレイヤーは右手にスリケンを握り、物音ひとつ立てぬ精緻な足運びで、部屋の中心部へと進んでいった。額の汗を右手の甲で拭った。 8
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) August 12, 2015
・H領域
H領域は「ついに部屋の中央へと達する」を含む1ツイートを主とする領域であり、3エピソードにおいては「背後の敵めがけて死の投擲武器スリケンを放った」に類似した1ツイートが続く。部屋に侵入した側がドンデンガエシを利用した攻撃を受け、反撃するが失敗に終わる展開が描かれる。
ニンジャスレイヤーはついに部屋の中央へと達する。……まさにその時であった。ナイトシェイドが後方のライオン壁中央を音もなく回転させ、姿を現したのは!「イヤーッ!」「グワーッ!」ナイトシェイドはニンジャスレイヤーの背後へと忍び寄り、斜めに斬りつけるようなカラテチョップを浴びせた! 9
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) August 12, 2015
ニンジャスレイヤーは体勢を立て直すと、背後の敵めがけて死の投擲武器スリケンを放った!「イヤーッ!」だがナイトシェイドの動きは俊敏であり、ライオンの描かれたシークレットドアを回転させ、再び消えてしまったのだ。標的を失ったスリケンは不運なライオンに突き刺さり、虚しくも止まった。 10
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) August 12, 2015
・Y領域
Y領域はサンセット・アンド・ヘヴィレインとオヒガン・シナプシス#2にのみ共有されている1ツイートであり、I領域と同じくS領域の直前に位置する。「何処へ逃げようと無駄だ…!」のセリフが特徴的であり、「敵もまた油断ならぬ手練だ」と警戒しながらフスマを開く。
「何処へ逃げようと無駄だ…!」死神は怒りに燃える眼差しでサンセットを追い、コンテナ内へと乗り込んだ。敵もまた油断ならぬ手練だ。追いつめられ頭だけ穴に入れるウサギめいて、このコンテナに逃げ込んだか?そうではあるまい。ニンジャスレイヤーは警戒を怠らぬまま、目の前のフスマを開く。 43
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) October 21, 2015
これらの領域とその類似度はシュギ・ジキの進化と系統を解き明かす上で重要なデータであるが、当然のことながら作品内容によるエピソード間の関連性にも目を向けるべきであろう。この補助として、表1には各セクションでの登場キャラクターと壁の模様を示した。これらのデータをもとに各エピソードにおけるシュギ・ジキの特徴を見ていこう。
![シュギ・ジキ表1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/68833604/picture_pc_9aef43c580e327fdbfe145e5c535ff8a.png?width=800)
表1. 調査対象セクションの登場キャラクター、四方の壁の模様
ツイートの類似度比較とは別に、どのキャラクターがトラップ部屋の主(ホスト)であり侵入者(ゲスト)であるか、また四方の壁にどのような模様が描かれていたかをまとめた。同一模様のセクションはストーリー上も深い関係がある。
・デス・オブ・バタフライ
シュギ・ジキ(トラップ部屋シークエンス)初出のこのエピソードにおいては、かなり短い本編の中でトラップ部屋シークエンスが大きな割合を占めている。
・ザ・フォーチュン・テラー
デス・オブ・バタフライとは実に8ツイートほどが類似しており、この挑戦的な内容がシークエンス・ブレイクビーツ技法の凶悪さを見せつけることとなった。四方の壁は星座にちなんだものとなっているが、それだけである。
・サンセット・アンド・ヘヴィレイン
シュギ・ジキ登場3作目であるが、実はデス・オブ・バタフライと類似性が高いのはシュギ・ジキのコアであるS領域1ツイートのみである。トラップ部屋内での戦闘は描かれず、ここで場面転換するだけという使用法は、「これまでの2エピソードと大体同じ展開だったであろう」と思わせて余韻を残す、極めて技巧的なものであった。
・ローマ・ノン・フイト・ウナ・ディエ
4作目にしてコトダマ空間の精神的世界を描くために使用されている。物理的には無理があるトラップ部屋の構造が、精神的世界の描写として逆に有効となっている嚆矢。
・(第3部最終章)オヒガン・シナプシス
S領域の後半1ツイートを欠失し、直接H領域に繋がる唯一の構造を持っている。また、このエピソードとサンセット・アンド・ヘヴィレインにのみ見られるY領域を持ち、四方の壁の模様も全く同じである。ヘヴィレインというニンジャがこのシュギ・ジキで生まれ、全く同じシュギ・ジキで死んでいったという無情さを、ともすれば使い回しにも見えるシークエンス・ブレイクビーツ技法で見事に表現している。
・ストーム・イナ・ユノミ
第4部初のトラップ部屋シークエンスであるためか、S領域2ツイートとH領域1ツイートを持つ基本に忠実なものとなっている。アマクダリが滅びてもシュギ・ジキは滅びなかったという事実を突きつけられた読者はたちまち恐慌に陥った。
・コールド・ワールド
このエピソードには2つのシュギ・ジキ領域が、壁の模様もそのままに登場する。それもそのはず、同じグレイハーミットの居室だからである。
・ドラゴン・インストラクション
本文を読めばお分かりのように、本エピソードに出てくるシュギ・ジキはデス・オブ・バタフライの回想1ツイートにすぎない。
・ヴェルヴェット・ソニック
S領域を2ツイート持つが、H領域を持たない。注目していただきたいのが壁の模様で、コールド・ワールドに登場するグレイハーミットの居室と全く同じである。これはつまりこのシュギ・ジキ領域の主が同一人物であるからであり、使用法もコトダマ空間戦となったためドンデンガエシを使用した戦闘のH領域を持たないものであろう。
考察
本研究で明らかにされたセクション間のツイート類似度や、トラップ部屋の壁の模様の同一性から図3のような系統樹を推定した。
![シュギ・ジキ図](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/68834351/picture_pc_ebe06b5896f0cec75f8f92470d6690bd.png?width=800)
図3. ツイート類似度、内容の関係性から想定されるシュギ・ジキの系統樹
ツイートの類似度が高いエピソードや、トラップ部屋の壁の模様の同一性などから推定したシュギ・ジキの系統樹。オヒガン・シナプシスに見られるH領域は祖先型シュギ・ジキからの転移によるものとの仮定に基づく。
まず、最も祖先型に近い複雑な構成を持つのがデス・オブ・バタフライ及びザ・フォーチュン・テラーである。ドラゴン・インストラクションに登場するシュギ・ジキは回想のため、デス・オブ・バタフライから直接に派生したものと考えられる。
これら祖先型から派生したのが、ローマ・ノン・フイト・ウナ・ディエやストーム・イナ・ユノミに見られるような2〜3ツイートのコア領域を持つグループと考えられる。
サンセット・アンド・ヘヴィレインは僅か1ツイートのS領域しか持たないが、新たに獲得したY領域をオヒガン・シナプシスが受け継いでいる(ヘヴィレイン族)。オヒガン・シナプシスは祖先型に近いH領域も保持しているが、S領域の後半1ツイートを欠失していることから、これはサンセット・アンド・ヘヴィレインから引き継いだY領域・S領域に祖先型から転移してきたものと考えられる。トラップ部屋の壁の模様が同一であることもこの説を補強する。
コールド・ワールド、及びヴェルヴェット・ソニックはいずれもS領域しか持たないが、トラップ部屋のホストや壁の模様が同一である。このグループ(シルバーキー族)においてはトラップ部屋はシルバーキーの居室かつコトダマ空間戦における固有領域となり、新たな役割を獲得したと言えるであろう。
参考文献
ブラッドレー・ボンド, フィリップ・N・モーゼズ(訳:本兌有, 杉ライカ). 「ニンジャスレイヤー」シリーズ
公式アカウント: @NJSLYR
(以降本連載を出展とする場合@NJSLYRと略記)
1)@NJSLYR: “デス・オブ・バタフライ”. 2015;
2)@NJSLYR: “デス・オブ・バタフライ”. 2015;
他@NJSLYRより“サンセット・アンド・ヘヴィレイン", "ローマ・ノン・フイト・ウナ・ディエ", "オヒガン・シナプシス", "ストーム・イナ・ユノミ", "コールド・ワールド", "ドラゴン・インストラクション", “ヴェルヴェット・ソニック"
3)https://twilog.org/njslyr
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?