彼はひたすらチャンスを待った

相談が近隣住民から寄せられた。

兄からDVを受けているみたいだ。顔色が悪く酷く痩せている。心配だから、支援して欲しいとのこと。

彼に私たちの相談窓口に電話をしてもらって、家は安全ではない為、近所のスーパーのフードコートで話した。

働いたお金は兄に搾取され、食事も満足に与えられない。毎日DVされる。私と彼は目標として、家を出ることを目指すことにした。

彼と何度も会って、相談室で話をし、お茶を出してもいつも彼が飲まないのが気になった。

「お茶、いつも飲みませんね。嫌いですか?」

彼は申し訳なさそうな顔して

「水分摂っちゃうと、トイレに行きたくなるでしょう。トイレ行くと水道代がかかるって兄に怒られるんです」

きっと、喉が渇いているだろうに、なんて生活だ。

そのあとも何度も相談に来た。

ある日、紙袋をパンパンにして彼が来た。

「もう限界です。家を出るつもりです」

あらかじめ連携をとっていた機関に連絡して、彼を保護し、施設に入れることになった。

私は、車に乗せられて出て行くかれを見送った。

涙が溢れた。彼が置かれていた環境、人生の悲惨さに。そして、それをじっと耐えながら、家を出るチャンスを待っていた、環境に流されない彼の意志の強さに涙した。



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