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時代に逆行するという順行

2本目の記事にしていきなりだらだらと長文です。


心が震える瞬間 というものは誰しも経験したことがあるはずです。

僕の思い出す限りに挙げてみます。

・中学の合唱コンクールで優勝した瞬間

・好きな子に告白して成功した瞬間

・サッカーの試合で逆転勝利した試合

・息を呑むような絶景に出会ったとき

・アーティストのライブのオープニング

小さなことから人生の転機になるようなことまで様々です。心が震えるという表現以外にあまりいい言葉が思いつかないのですが、この現象に言葉はあるのでしょうか。心理学に詳しい方教えて下さい。

心が震える瞬間というのは、非日常でしか訪れないものです。自分の五感を超え、言葉や精神を超えた領域で興奮しているような、なんとも表現し難い状態です。普段の生活ではなかなか感じません。むしろ人間が生涯で心が震える瞬間の回数が決まっていて、心をモニターしている小さな自分が「ほら、今いい所だから存分に興奮していいよ」とリミッターを特別に解除してくれているような。非日常を経験しているときにしか味わえないものだと思います。

普段生活していると、さらにサラリーマンとして変化の少ない生活をしていると、このような心が震える瞬間が訪れないものです。本当に。

ところがここ最近、僕の心が震える瞬間が2回続いて訪れたのです。

1回目の心が震えた話

僕は時間という概念にとても興味を持っていて、よく時間にまつわる素敵な解釈を見つけるとメモを取ります。僕のお気に入りの時間に関係する引用を2つ紹介します。

「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか?」(平野啓一郎「マチネの終わりに」)
「時間そのものは均一な成り立ちのものであるわけだが、それはいったん消費されるといびつなものに変わってしまう。ある時間はひどく重くて長く、ある時間は軽くて短い。そしてときとして前後が入れ替わったり、ひどいときにはまったく消滅してしまったりする。人はたぶん、時間をそのように勝手に調整することによって、自らの存在意義を調整しているのだろう。別の言い方をすれば、そのような作業を加えることによって、かろうじて正気を保っていられるのだ。もし自分がくぐり抜けてきた時間を、順序通りにそのまま均一に受け入れなくてはならないとしたら、人の神経はとてもそれに耐えられないに違いない。そんな人生はおそらく拷問に等しいものであるだろう。」(村上春樹「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」)

さて話は変わります。

TENETという映画は見ましたか。「インセプション」や「ダークナイト」などを手掛けたクリストファー・ノーラン監督の最新作です。

TENETの映画の内容を話すと本当に収拾がつかなくなるので簡潔に。一言でまとめると、時間を逆行することができる話です。タイムマシーンやパラレルワールドとは違う。順行と逆行が共存できる世界です。概念として新しい上にストーリーが複雑なので超難解映画です。YouTubeやnoteなどで詳しい解説を出している方いますがどの方の解説も100%正解とは言えないものです。そのくらいムズいです。

なぜ心が震えたか、それは時間の順行と逆行が共存できるという事が新概念であると同時に目からウロコだったからです。今まで時間を扱う作品はたくさんありましたし、僕自身も時というテーマが好きです。

バック・トゥ・ザ・フューチャーが最も良い例でしょう。「タイムマシーン」という行ってしまえば誰でも考える時間界の王様を実現させ、さらに時間を移動した先で起こるタイム・パラドックスを未来に「戻る」という意味のタイトルどおりに表現しています。

過去に戻ることで現在を変えることを繰り返す映画としては、アバウト・タイム、バタフライ・エフェクトがいい映画ですね。時間というものの残酷さ、公平さを教えさせ今この瞬間を生きる時間を大切にするという教訓が込められてると思います。

映画のレビュー記事になってしまいました。話を戻します。

過去作品で見たように、時間軸を自由に移動して未来に行ったり過去に戻ることや、時間を止めたりすることは今まで考えられてきました。ですがTENETでは今過ぎている時間を逆行するということが新概念なのです。順行しているものが逆行する、といえばとても単純に聞こえます。でもなぜこれが今まで考えられなかったのか。なぜ我々は理解することが難しいのか(もちろん映画のストーリーの難解さもありますが笑)。

それはきっと人間のDNAレベルでの常識として、時間は均一的、絶対的なものであり、一度過ごした過去は戻らない、という事を知っているからです。だからこそタイムマシーンを夢見るのであり、過去の思い出に浸り、未来の自分に手紙を書くのです。

TENETの世界観を見て、自分の今までの思い込みが撃ち抜かれたような気持ちになりました。実際は逆行できるはずないのは知っていますが、僕の中での時間のロマンが一気に広がりました。TENETは新たな可能性を見せてくれたという意味で心が震えました。


2回目心が震えた話

先日、知り合いの誘いで中目黒のとあるカフェ・バーを訪れました。

epulorというカフェです。

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昼はカフェとして、夜はワインバーとして営業しているそうです。目黒川沿いの通りを一つ入った閑静な場所にあり、外観も内観もおしゃれで中目黒という土地柄を作り上げているのはこのようなお店一つ一つの努力によるものなのだなと感心しました。

でも普通の東京によくあるおしゃれなカフェじゃん。と思いましたが、見事に裏切ってくれました。

そのカフェではレコードで店内に音楽をかけているのです。壁にはレコード敷き詰められていて、バリスタの方が飲み物を提供しながら1曲ずつ選曲してくれるのです。

僕の心が震えたのは、まず音。昨今はオーディオの技術のおかげでハイレゾとか、よりリアルな音を求めている方向に向かっていると思っていました。実際そうだと思います。しかしそのカフェでのレコードから流れる音が究極に心地いいのです。耳ではなく、直接心に響く感じ。「プチッ、プチッ」というレコード盤ならではのアナログな音。

そこでRadioheadの曲が流れてきました。繊細なイヤホンで聞くよりもアナログで聞いたその瞬間とても感動しました。そこから自分の中で空前のRadioheadブームが続いています。

また選曲のスタイルもとても素敵なのです。バリスタの若いお兄さんが、コーヒーを淹れたり、スイーツを用意している間にも流れている音楽のリズムに乗って音楽を楽しんでいるのが伝わってきます。曲が終わると2つあるレコードプレーヤーをスイッチさせ、準備していた次の曲をかける。曲をかけていたレコードを棚にしまい、次にかける曲を選ぶ。一連の流れが美しい。バリスタが曲かけているというより、DJがコーヒー淹れてるの方が正しいかもしれません。

今やサブスクの世界です。僕自身もApple musicを使っています。検索すればすぐに流れるし、おすすめの曲を勝手にかけてくれる。それを否定するわけではないし、今後も使っていくと思います。だけどここepulorでの体験で、音楽というものについて、再度考えようと思いました。

レコードで曲を出すことなんてほとんどないし、過去のものとして捉えられているけれど、それがあるからこそ、音楽というものを純粋に楽しめるし、いい出会いがある。

これが心が震えた話part2です。


心が震えて、それで?

さて、この2つの最近の出来事があって、僕はこう考えました。

もしかして今の時代って順行と逆行が共存してるんじゃないか。と。

ご存知の通り目まぐるしい進化がある現代。古いものは置き去りにされる弱肉強食の世界です。なぜなら古いものが持っていないものを新しいものが持っているからです。しかしですよ、それってつまり同様に、古いものも新しいものが持っていないものを持っている、のだと思うのです。新しいものは基本的に便利を求めるニーズの結果です。古いものへのニーズもあるはずです。温かみのあるものや、手間がかかる、便利とは極端にあるニーズが増えるのではないでしょうか。それは時代を順行しているようで逆行していると言えるでしょう。

レコード音楽というものが過去のものだとしましょう。レコード屋さんなどに行くと古いレコードがたくさんあり、掘り出し物を探して多くの人が足を運びます。それは新しいレコードは作られず、欲しいレコードの在庫は有限だからです。このように過去のものしかなく、今あるものだけというのがレコードです。現在の技術は進化しています。レコードマニアのための高性能レコードプレーヤーが新製品として作られたとしたら、それは時代に逆行しているのではないでしょうか。

現代のようなハイテクな世の中だからこそ、このようなことを感じるのかもしれません。もしかしたら昔から順行と逆行が共存しているのかもしれません。

時代の流れにについていくことにたまに疲れますもんね。そんなときは逆行してみましょう。世界の味方が変わるかもしれません。

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