螺旋の覇者
リンゴーン リンゴーン
鐘の音が聞こえる。
俺は今、銀座のど真ん中に立っている。
日曜の歩行者天国とあって、行き交う人々の数は多く、賑わっている。そんな中、鐘の音が聞こえたのだ。
違和感。
腕時計に目を遣る。やはり、時計の針はてっぺんに位置していない。
近くの店に目を遣る。そこに設置されている壁掛け時計もまた、てっぺんに位置してはいない。それどころか…、
「なんで?」
俺の時計は十一時二十五分なのに対して、店の時計は十時五十分。取り出した携帯の時計は…、
「十一時四十五分…て、なにこれ」
全部違う。一体どうなっているのか?
首を捻っていると、遠くから派手なワンピースを着た女性が走ってくるのが見えた。
これだけたくさんの人が歩いている中で、どうして彼女の姿だけが鮮明に見えるのだろう。それはワンピースの派手さだけではないはずだ。
いや、待てよ。
なんであんなもの持って走っているんだ?
彼女が手にしているのは、ぬいぐるみのようなふわふわした……カバ? しかも、近付いてきて分かったことだが、彼女はハイヒールを履いている。よくあんな靴で全力疾走できるもんだ、と感心する。
だが、どんどん近付いてくる彼女は、何故かまっすぐに俺を見ているのだ。さっきからずっと、目が合っている。知り合い……? いや、身に覚えはない。だが、
「来る……よな?」
間違いなく、俺めがけて走ってくる。
あと十メートル。
五メートル。
そして……、
「世界の運命が、ここにある」
目の前まで迫った彼女は、俺にそう告げた。そして俺の胸倉を掴むと顔を引き寄せ、
「んっ!?」
キスをしたのだ。
「約束して。これを、間違いなくあの子に届けるって」
そう言ってカバの形をしたポーチを押し付ける。
にっこりとほほ笑むと、来たとき同様、再び俺の前から走り去ったのだ。
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