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朝食ルーティン


 風鈴の音を聴きながら物思いにふけることが増えた。漠然とした未来への不安、来月行く旅行の行先、今日の晩御飯など大半はどうでも良いことばかりだが。そして気づけば時間を浪費してしまっている。

 どうやら現実逃避癖があるようだ。普段はなんとも思っていないふりをしているがふとした時に長時間思い込んでしまうことがあるらしい。

 彼はどこへ向かっているのだろう。恐らく本人にすらその答えは分かっていない。流るる川に身を任せ、その流れに身を投じている。

 時に別の川と合流し分岐する。時には石に躓き止まり続けることもあるだろう。一時一時の出会いに身を任せ時を過ごす。

 僕は思わず手を差し伸べる。彼が手を取らないと分かりながら。彼は助けを借りるのをひどく嫌う。自分の力でどこまで挑戦できるのか試したいからと言う。しかし動く素振りは全く見せない。

 彼の反応が気になり好奇心で川の流れを止めてみる。それでも彼は動かない。やがて流れを止めるのに限界が来てしまい再び川は流れ始める。彼はというとやっぱり流れるまでただじっと待っていた。

 それから僕は朝食後の散歩道で彼の様子を見に行くのが日課になった。緩やかな川の流れのまま少しずつだが下流に向かっていた。

 幾ばくかの月日が経ったある日地震による津波が発生した。川の水は溢れ堤防は崩れ去った。心配になった僕は彼を見に行ったが姿はもうどこにも見当たらなかった。


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