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チョモランマ二頭筋

「はい、チーズ!」
パシャリ。……よし、自分も含め10の笑顔がばっちり収まっている。

集合写真撮影技術の向上が少し誇らしい一方で、いささか苦しみを覚えた。

この苦しみは何だろう、と考えて思い当たる。入店時、「10人で予約していた某です」と店員に伝えた時も、同じ感情が去来したのだった。

プロの末っ子として、いつも兄や姉にくっついて歩んできた。また、友達と遊ぶ時は「ウェーイ」ではなく「ぐへへ」と笑う人間である。だから、まだ心を許しあっていないたくさんの人々を引っ張るような腕力は持ち合わせてこなかった。

けれどもいつの間にか引っ張らなければならないことが増えた。集団内での立ち位置やノリが自然とそうさせた。

なけなしの腕力でひいこら引っ張っているうちに、少しは私の上腕二頭筋も鍛わってきた。けれどもそんなものは付け焼刃に過ぎない。陽の方々が備えているようなモリモリの筋肉には遠く及ばない。てか、欲しいともあまり思わない。

そういうわけで、大人数を代表して店を予約したり、自撮りで集合写真を撮ったりするたびに、私の貧弱な腕はみしみしと痛むのだ。ちょっと待ってオイラはそういうふうにはできていないぜ、とでも言いたげに。

近頃は腕を酷使しすぎた。いったん休憩挟みたい。部屋にこもって、無限に本を読み続けたり、「久しぶり」の「ぶり」の部分を他の魚に変えたときどれがいちばんしっくりくるかを考えたり、いつ見ても楽しそうに笑うあの人が家で一人泣いている様子を勝手に想像して心を痛め、「無理しなくていいんだよ」と伝えようか本気で悩んだ末、伝えることでさらに無理させてしまう危険性に怯えて伝えるのをやっぱりやめたりしたい。

そんなじめじめとした陰の自分と、人間好きな陽の自分、人間とかいう途方もなく多面的な存在を陰と陽で二分してしまうことの乱暴さに苛立つめんどくさい自分、それらすべてをまるごとほほえみで包み込んでくれる彼女が空から降ってくる様子を思い浮かべながら、今日も眠りにつく。

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