大阪フィルハーモニー交響楽団 第47回岐阜定期演奏会@サラマンカホール
はじめに
2024年3月16日、岐阜県にあるサラマンカホールで行われた大阪フィルハーモニー交響楽団の岐阜定期公演会に行きました。指揮はべセスさん、ピアノは角野隼斗さんです。これは備忘を兼ねた、とりとめのない感想です。
ホールまで
ホールの最寄り駅である西岐阜駅から徒歩で30分と、ホールのスタッフさんのブログに書いてあります。西岐阜駅の出口は一つ、奥の階段を降りるとこのような場所に出ると写真も掲載されていました。ところが、西岐阜駅の改札は1つしかないのは正しいものの、駅員さんがいない無人駅、降りる階段は4つある。説明に従って奥に行くと、それぞれ真逆の方向に行く階段が左右に2つずつあります。これでは、どの階段を降りるのかわからない。とりあえず向かって右側の階段を降りましたが、これが逆方向だったんですね。
通行人の方がいたので、この光景があるのはどこかとブログの写真を見せて尋ねたら、こちらとは逆の反対側の階段を降りるとありますと返事。ホールへの行き方を尋ねると、歩いていくには遠いですよと驚かれ、この道をまっすぐ行くと県庁があるのでそこを右に曲がったところです、と面喰いながら説明してくれました。
方向は分かったので、まっすぐ道路を歩きます。スタッフさんのブログに掲載されている、道行く先々の写真に該当する光景は見当たりません。結論からいくと、県庁まで行くのは行き過ぎで、県庁の手前にある大きな交差点を右折しなければならなかった。周囲は田んぼと畑、そのあいだにぽつぽつとお店が並んでいる感じです。人通りはないしタクシーも通らない。
ともかく16:10開始のプレトークには間に合いました。
ホールについて
ホール入口の扉の周囲には、西洋のゴシック様式の教会を思わせるようなレリーフが施され(この記事の見出し画像参照)、ホール内部の壁面は木製、ステージ中央正面にパイプオルガン(辻オルガン)が設置されていました。天井からは豪華なシャンデリアがいくつも下がっています。
プレトーク
わたくしは今回のプログラムの解説を書いておりまして。音楽評論家の奥田です。
まずは今日このホールお越しの皆さま、おめでとうございますと申し上げるべきなのでしょうね。チケットは早くに完売だということで。
角野さんは、・・とプロフィールを紹介、今はツアーKeys公演をしておられる最中で、毎回違う調性できらきら星変奏曲を弾くということをしておられます。昨年は東京でモーツァルトの戴冠式を藤岡さんの指揮で演奏され、エンター・ザ・ミュージックで放送されました(大阪での戴冠式の話はなかった。ご存じないのかもしれぬ)。10月にはアメリカのボルチモアで、ショパンのピアノコンチェルト2番を、指揮はマリン・オルソップさんと演奏されるということです。さきほど楽屋で角野さんと少しお話しましたら、2番を弾くのは初めてですとのことでした。それから7月14日には、武道館でソロ公演があります。今日こちらにいらっしゃる皆さんは当然、武道館にもお越しになると思いますが(笑いが起きる)。ちなみに7月14日は角野さんのお誕生日ですね。
(曲紹介へ)
ガーシュウィンがラヴェルに教えを乞いに行ったところ、年収を聴かれ、君は2流のラヴェルになるくらいなら一流のガーシュウィンになりなさいと言われたという逸話を紹介。ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲は、3楽章に有名なハノンのフレーズが入っています。ショスタコーヴィチの子供がちょうどピアノを習い始めていたのですね。ピアノを習ったことがある皆さんは、ハノンだと懐かしく思い出してください。
(開演5分前のチャイムが鳴る)
このチャイムは、トークをやめろという合図かもしれませんが。
今回のプログラムは前半がト長調、後半がヘ長調になっています。これには意味があるのです。ト長調とヘ長調は下属調(近親調)の関係にあって、そういうことも意識しながら楽しんでいただけたらと思います。
演奏
ラヴェルのピアノ協奏曲ト長調の冒頭は、ピアノの音がオケに埋もれて聞こえにくいところがあった。ひょっとすると、調律したてで、音が出しにくいというのもあるのかもしれない。
しかし次第に音がよく響き始め、オケに埋没せずにキレのあるリズム感、疾走感と華麗でエキゾチックな美しいパッセージが繰り広げられていきました。ひょうきんな部分はひょうきんに、時には弾み、時にはコロコロと転がるように。
2楽章はうっとりと夢見るように。3楽章は、時折腰を浮かせながら、ダイナミックに豊かな音色を響かせていました。ゴジラのテーマで有名な部分も、低音をしっかり響かせ迫力と凄みがありました。壮麗でした。
ピアノが休みの時はリズムに乗って左腕を小気味よく上下に振っています。上半身をオケの方に向けて聞き入っていることもありました。今まではピアノに向かっていることが多かったので、珍しいなとも思いました。
ラヴェルが終わると一旦休憩です。
休憩をはさんでショスタコーヴィチのピアノ協奏曲2番。
1楽章は弾むようなオケの演奏から始まり、そこにピアノがうきうきと軽やかに乗っていきます。2楽章の美しいフレーズを歌い上げた後、3楽章は勢いよく華麗な指さばきで、ハノンのパッセージという箇所は、いかにもハノンという感じの無機質な音の連続ではなく、ダイナミックにパワフルに表情豊かに盛り上げていました。聴いているときは、ハノンのフレーズだと感じさせない壮大さでした。
演奏が終わって2回ほど指揮のべセスさんと一緒にステージと舞台袖を往復した角野さん。2階席をぐるりと仰ぎ見て両手を合わせる仕草をすることもありました。3回目ステージに一人で戻ってきた角野さんは椅子に腰かけ、
「ありがとうございます」と客席に向かって語り掛け、ガーシュウィンのスワニーを弾き始めました。最初はいつものように原曲通りに、2度目の繰り返しの時、細かいパッセージを入れてアレンジを加えて弾いていました。これがいわゆるショスタコーヴィチのピアノ協奏曲風アレンジ(ハノン風)ということだったと思いますが、角野さんらしく切れとノリの良い、弾んで踊りだしたくなるようなリズム感のスワニー、とても格好良かったです。こちらもいわゆるハノンを思わせる単調かつ無味乾燥な感じではなく、お洒落に弾きこなしていました。
アンコールが終わってお辞儀をして舞台袖に戻る角野さん。お客さんはスタンディングオベーションをし、盛大に拍手をしています。角野さんは再びステージに戻ってきて、立ち上がって拍手するお客さんを見て(これは終わりですと言う感じで)ピアノの蓋をパタンと閉め、お辞儀をして、舞台袖へ消えていきました。
ここでピアノは片づけられました。
オケによるベートーヴェン交響曲の後、オケのアンコールはなく、お開きとなりました。
べセスさんは小柄な方で、ピアノがあるときはピアノに隠れて私のいた席からは姿が見えませんでした。
ベートーヴェンの時は、時折額の汗をぬぐい、オーバーアクションはないのですが、譜面を左手で勢いよくめくりながら優雅にタクトを振っていました。
感想など
以前、角野さんが弾くハノンの60番(トレモロ)の音源を聴いたことがあるのですが、ハノンから一般的に連想される無機質な味気ない音の繰り返しではなく、ダイナミックかつ壮麗な演奏で、たいへん衝撃を受け、感動したのを覚えています。ハノンの演奏でこんなにも感動する日が来るとは想像だにしていませんでした。その角野さんが弾くショスタコーヴィチのピアノ協奏曲2番のハノン風の箇所。今回もやはりいかにもハノンのような弾き方ではなく、見事に壮麗・ダイナミックに演奏していました。考えてみるとラヴェルのピアノ協奏曲ト長調の1楽章の冒頭も、ハノンのように同じようなパッセージの繰り返しで始まりますが、華麗で躍動感にあふれ、お祭り騒ぎのようなにぎやかさです。今回の2曲のピアノ協奏曲はいずれも、角野さんの魅力を存分に発揮していたように思います。
おわりに
角野さんお得意の、切れとノリの良い、華麗でダイナミックな演奏でした。指の回転はなめらかで淀みなく、甘美なパッセージは澄んで美しい。
これまでの角野さんのピアノコンチェルトの演奏の多くは、オケに遠慮してか、オケと合わせようとして小さくまとまってしまう傾向にあったように思うのですが(アデスやガーシュウィンを除く)、今回の演奏は違いました。のびのび生き生きと勢いよく、角野さんらしいキレとノリの良いリズム感、疾走感あふれるテンポ感でぐいぐいと、思い切りよく弾いていて躍動感にあふれ、素晴らしかったです。オケの大音量におされることなく、うまくタイミングを見計らってffもしっかり美しく響かせ、ピアノの存在感を示していました。ラプソディー・イン・ブルーの弾き振り(題名のない音楽会の2024.2.15公開収録、2024.4.13放送予定)で、なにかコツをつかんだのかもしれない。
なめらかなフレーズ回しからは、並みならぬ練習量を感じました。
また聴きたいです。
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