Keys 全国ツアー2024@アクロス福岡シンフォニーホール
はじめに
角野隼斗さんのソロコンサートツアー(@福岡シンフォニーホール)に行きました。これは備忘を兼ねたとりとめのない感想です。
プログラム
バッハ:イタリア協奏曲
モーツァルト:ピアノソナタKV.331 トルコ行進曲付き
角野隼斗:24の調によるトルコ行進曲変奏曲
休憩
角野隼斗:大猫のワルツ
ガーシュウィン:パリのアメリカ人
ラヴェル=角野隼斗編曲:ボレロ
MCと演奏
最初の2曲はMCはなく、黙って弾いていました。
イタリア協奏曲とトルコ行進曲
2曲弾いた後のMC
緊張した様子というか、かしこまって上品な口調で語ります。
こんにちは。角野隼斗です。今日はお越しくださりありがとうございます。
今年のツアーはKeysというテーマで、みなさんのクラシック音楽への扉を開くカギになればいいなと思います(と話したような気がします、記憶があいまいです)。
Keyは鍵盤ということで、最初は、バッハやモーツアルトから始めて、現在いうピアノが登場する以前の鍵盤楽器の歴史をたどるようにしたいと思います。
最初にバッハとモーツアルトをお送りしましたけど、Keysという言葉には調性という意味もありまして、調性は長調と短調あわせて24の調があります。それで次にお送りする24の調によるトルコ行進曲は、24の調性に転調するというものです。だから何なんだと言われそうですが、(笑いが起きる)、僕は転調が大好きなので。
と言って振り返り、
それで24の調に転調していくのですが、どの調を弾いているのかわかるほうが良いのではと思いまして。この球体ですね、これ、調性の変化に反応して色が変わるんです。やってみましょうか。ホ長調、
と言ってGPでパッセージを弾くとピンクの明かりがともる。
●短調と言ってパッセージを弾くと、赤色になる。
「おおー、すごいですねー、ありがとうございます、照明さん。」(拍手と笑いが起きる)
「ここは拍手するところかわかりませんが。」
「プログラムには、調性と色も書いていますので、自分の好きな調性はどの色だったか覚えておいていただいて、休憩時間などに見ていただいて、楽しんでいただけたらと思います。ではお聞きください。」
というと照明が暗くなり、球体に明かりがともる。
―――(休憩)
はい、鍵盤が増えました。後半はこれらを使って演奏していきたいと思います。こちらはチェレスタ、
と言って少し弾く。
かわいらしい音がします。これを使って僕が作曲した曲、大猫のワルツを弾きます。今回やっと楽譜が出まして販売しておりますので、お買い求めいただき、ぜひ弾いてみてください。
(曲)
パリのアメリカ人とボレロはMCなし。
パリのアメリカ人は、ステージ上に準備された鍵盤すべて(グランドピアノ・アップライトピアノ・チェレスタ・鍵盤ハーモニカ・トイピアノ)をフル活用して演奏するもので、表情豊かで、まるで映画音楽のようでした。
最後のボレロ。パリのアメリカ人を弾き終わって角野さんが舞台袖に消えると、照明が落ち、ピアノの周りだけの照明になり、スタッフの方がアップライトピアノに何かをはめていきました。スタッフの方が舞台袖に戻ると、照明が消え、真っ暗になりました。真っ暗な中で、不意にボレロの最初の打鍵音がかすかに聞こえ始め、うっすらと鍵盤のあたりだけ照明がともります。その後、音域・音数が増えて演奏が広がっていくのに合わせて、ステージ上の照明が1つ、また1つと灯り、次第にステージが明るくなっていきます。やがて頭上の前方、ステージの上にあるシャンデリアにうっすらと明かりがともり、それが次にはさらに明るさが増し、曲の終わりの最も盛り上がる部分では、客席の照明も点灯してクライマックスを迎え、最後の音が打ち鳴らされると同時にすべての照明が消え、再び暗闇に戻りました。
そしてステージに照明がともり、角野さんがステージ上で深々とお辞儀をします。最大な拍手の中、舞台袖にさっと消えていきました。
少ししてステージに戻ってきて、
「ありがとうございました。」
と息を切らしながら話して、客席の方を向いて椅子に腰かけます。
こうして福岡の皆さんの前で演奏できたことをうれしく思います。また福岡には来たいと思っているのですが・・、そうですね、5月に来ますね。今日はありがとうございました。
そう、7月14日に武道館で公演をすることが決まりました。(拍手)
みなさんよければぜひ会いに来てください。
あ、ちなみに7月14日は僕の誕生日です。
アンコールを1曲弾かせてください。こちらのアップライトピアノで弾きたいと思うのですけど、僕が作った曲でまだ音源化していないんですけども、ノクターンという。ノクターンというと夜のイメージがあるかもしれませんが、この曲はどちらかというと夜明けのイメージですね。
(曲)
弾き終わり舞台袖に消える角野さん。拍手の中ステージに戻ってきて、
アンコールをもう1曲弾かせてください。早いものでツアーも半ばまで来て、福岡で折り返しということで、今日は何調でしたっけ、嬰ト短調でよかったでしたっけ(と舞台袖のほうを向いて何かを確認している)、はい、嬰ト短調で、五度圏の半ばくらいまで来ましたね。このアンコールは撮影OKということで、SNSにも30秒までUP可ということで、興味ない方は何もしなくてよいのですが。
今日はありがとうございました。
と言って弾き始めます。レベル0から3まではアレンジして弾いていましたが、レベル4以降はほぼ楽譜通りでした。
アンコールが終わると盛大な拍手、ブラボーの声も聞こえます。角野さんはステージの右手側にも歩いてきてお辞儀をしました。一度舞台袖に入り、またステージに戻ってきて、再びお辞儀をし、
最後に客席に向かって両手を振って、舞台袖に消えていきました。
感想など
イタリア協奏曲は、左手の跳躍部分、慌てたのか少しせっかちに聞こえてしまう箇所があったけれど、まろやかな音色で優雅に美しく歌っていました。
トルコ行進曲(ソナタ11番KV.331 )の1楽章、最初のテーマのフレーズ、優しく包むこむようなpで魅了されました。繰り返しの部分が出てくるのですが、1度目は譜面通りに弾き、2度目は装飾音を入れたり、少しフレーズの入りを変えたりと、変化をつけていました。この弾き方は3楽章まで続きました。聴いていて退屈しない、面白かった。2楽章は1楽章に続けてすぐに始まりました。一呼吸おいてもいいのかもと思ったりしましたが、角野さんの好みかもしれないのでそれはそれでいいのかもとも思います。2楽章と3楽章には、左手で勢いのあるアルペジオを弾く部分が何か所かあります。このffの左手のアルペジオが、うまるようなたっぷりとした響きで、美しかった。ペダルの踏み方が絶妙で、濁ったりぼやけたりせず、クリアでキレがよく、かつ厚みがあり、豊かに響く。非常に良いアクセントになって、曲全体を締めていました。右手の細かなパッセージが続く部分は、よどみなく滑らかに回る指が、コロコロと小気味よく軽やかに鍵盤の上を駆け抜ける。切れの良さとリズム感が抜群で、心地よかった。
トルコ行進曲変奏曲、ご自身は24の調性で変奏することについて、だから何なんだといわれそうだと話していましたが、そんなことはないと思います。そもそも24の調性に転調するという発想とそれを実際にやってのける想像力・創造力・テクニックが素晴らしいと思いました。これまでの作曲家もほとんどしてこなかったことです。
いわゆるピアノ協奏曲のカデンツァのように、テーマとなるパッセージを展開させて別の曲のようになる感じではなく、トルコ行進曲のそれぞれのパッセージに沿って、順にアレンジしながら調性が変わっていく形で展開していきました。それぞれの調性ごとに、何かモデルとなっている曲があるようにも感じられることがありました。短調の場合は例えばリスト=サンサーンスの死の舞踏など。しかしアレンジが重なることはなく、調性ごとに様々な表情・色彩を見せ飽きることがありません。転調の仕方も例えば完全五度や平行調・同主調などという一律の法則にしたがうのではなく様々な組合わせがあり、自然に転調していきます。どの調性の変奏も無駄がなくさらに即興性・創造性豊かで素晴らしかった。
パリのアメリカ人は、用意された鍵盤ランド(トイピアノ・鍵盤ハーモニカ・アップライトピアノ・チェレスタ・グランドピアノ)をフル活用して表情豊かな演奏でした。ガーシュウィンがパリに行って、見たもの、聴いた音、彼の心のうちまでをも映し出しているかのような演奏でした。さらにそれは、パリに短期留学し、その後アメリカにも住み、ガーシュウィンの住んだアパートを訪ねた角野さん自身が、パリで感じたもの、見たもの、聴いた音の表出でもあるのだろうな、と思いました。まるで映画音楽のようでもあり、演奏を聴いていると目の前に情景が浮かぶようでした。愉快に軽やかに弾く角野さんの様子は楽しげでもあり、パリでの自身の体験を思い出しているかのようにも見えました。
おわりに
全体として、うなるようによく響くff、優しく包み込むp、すべての音が美しかったです。単にそれだけではなく創造性と即興性、遊び心豊かな演奏も面白かった。
以上、どうでもよいとりとめのない感想でした。
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