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何も誰も知らないまま闘技場に紛れ込んで:ブンゲイファイトクラブおもすれー

先日、大学の頃の友人と遊ぶ機会があり一緒に本屋に行ったのですが、「最近の日本文学はさ~言葉が軽くて全然読む気がしないんだよ~」みたいなことを言われ秒でキレてしまった。(私はよく秒でキレる)

しかし大人だし、できる限り多くの人から”明るく朗らかな人間”だと思われたいという願望があるので、一旦は耐えました。

「いやぁ~でもそれは読者がね? 今どういう言葉を求めているか、どういう言葉なら受け取り易いかにもよって書かれ方は変わってくると思うからサ……軽いとか重いとかは一概には言えないと思うんだけども」
「でも本屋で売れてる本をパラパラってめくったら、すぐ最後まで読み終わっちゃうようなヤツばっかり売ってるよ」
「最後まで読んじゃうぐらい面白いなら買った方がいいよ立ち読みせず」
「いや面白いから読んじゃうって意味じゃなくそれだけ言葉が軽くて……」

おい!!!!!
殺すぞ!!!!!!!

言葉が軽いって何なんだよ。確かに手軽な印刷技術もなく、本を出せる人間の数も限られていて娯楽・知識ゲットの機会もほぼ読書オンリーの時代に書かれたものと比べりゃそりゃ字面は軽く見えるかもしれんよ? けど書く人間が抱える「誰かに読まれたい」という想いの切実さも、読むことで救われたいという読者の願いも、過去現在未来大した違いは無いに決まっとろ~~が!! 表紙がアニメ絵だ美男美女の写真だからイヤとか電子書籍は読めないとか、お前が本質から目を背けてることの言い訳に過ぎね~~~んだわ!! あ~~んもう、臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!!!!!!

(昔、天才てれびくんを見て知った九字切りで魔を払った)

まぁ直接本人には言わず、「じゃあもうモーパッサン読んでたらいいよ、ずっと脂肪の塊読んでたらいいよ」と言って済ませたのでこれは100%の陰口なのですが(そして友人への陰口を利用して当noteをご覧の皆さんに「私はこういうイケてる読書スタンスの持ち主ですわよ」というのをアピールしているので私はいずれ地獄へ落ちるのですが)この会話をきっかけに、いろいろ考えさせられました。

私、人に殺すぞってすごめるぐらい現代日本作家の作品読んでるか……?

読んでないんですよね。学生時代(10年ぐらい前)は純文学好きとして芥川賞候補作は大体チェックしてましたし、推し作家さんも沢山いて新作は絶対読んでいた。でも働き始めてからはどうですか。未だに西村賢太、村田沙耶香、円城塔(敬称略)を割と最近出てきた作家さんだと思ってる。今村夏子さえ「『こちらあみ子』で話題になってた人ね! そろそろ読まなきゃね!」ぐらいに思っている。時が……止まっている……10年前で……。

その上、私は今年に入って初めて韓国文学に触れて、ファンジョンウンの『誰でもない』に大感動したんですが、

「エーッ!? 何でこういう作品を日本の作家さんが書けてないの? すごく日本の読者の感覚にもフィットする小説だと思うんだけどなぁ。お隣さんで感覚が近いのと優れた文学が国の違いを越えることを差し引いても他の国の作家さんに”日本の今”を書かれちゃったのって何だか少しフクザツ……」

みたいなことを心の中でほざいていたのだった。いやお前、今の日本の小説何も読んでね~~~~だけだろうが殺すぞ!!! ブーメランぐさぐさ~です。私の人生の大半は人に放ったブーメランがぐさぐさ~な時間なんです。

そんな反省をぼんやり抱きながら生きていたところ、10月13日台風の気圧で死にそうな昼前、こんなツイートを目にした。

『ブンゲイファイトクラブ』というイベント、完全に初耳&参加している書き手の皆さん、全員知らない状態。でも並んだタイトルに「あ、何か面白そう!!」を感じたのです。そして……!!

一時間半後にはこんな感じになっていた。

ありがとうブンゲイファイトクラブ! やっぱり私の考えは間違ってなかった! 今の小説は軽いとかそんなことはないし、電子か紙かも、書き手が小説映画TVマンガゲーム何の栄養を吸って育ってきたのかも関係ねぇ。書き手は相変わらず真剣で切実に書いているし、読む私だって読書を通して救われたくて仕方がないままなんだ。これからはもっと”今”の作家が書いた”今”の小説を読もう。それは”今”をヒィヒィ言いながら生きる私たちにとって最高の薬なんだから、脳にブチ入れないのは勿体ないぞ!!!

ブンゲイファイトクラブはそれを教えてくれた……!!!

Thank You!!!!!!!

完!!!!! 


~ここからはエンドロールです~

※ブンゲイファイトクラブの公式note。
私はTwitterでの検索能力が低いので、未だに大会の詳細がわかっていない。何故ならnote上での最初の記事が「ジャッジの勝ち上がりが決まりました。死闘でした。苛酷です。」というタイトルで、内容も2回戦出場者の話をしているので。(元ページに最新情報を追記していく形で使ってるらしい)

大会の説明みたいなのはnoteページのトップにある《文芸作品によるプロアマ混合のオープントーナメント。10月から2ヶ月にわたって開催します。 前代未聞の作品による殴りあい。 賞金はありません。手に入るのは名誉だけです。》これ以上でも以下でもないということなのか……? でも別に大丈夫!! 大会のことがよくわからなくても参加作品は読めるので!! 

(こんな感じで!! 読めるので!!)

あと、Twitterを見るに電子書籍レーベル『惑星と口笛ブックス』の宣伝のために開かれた大会らしい。

私はこの記事を読んでたので『惑星と口笛ブックス』のことは知ってた。

公式ページはここ。刊行されている本はAmazonでも買えるけど、公式の方では1万円で50冊の本が買えるパスもあるそうな。お得~。

(キンドルのが慣れてるからついAmazonを使ってしまうな。しかし著者への印税は1万円50冊パスでもAmazon購入でもあまり変わらないらしい)

それから、ブンゲイファイトクラブは批評のジャッジも行われているらしい。なんて公平なんだ……!! 参加者(書き手)が「○○さんの批評が良かったです」みたいな感じで投票して、選ばれなかった人は2回戦の批評しちゃダメ! 的なルールの気配を感じていますが、それも空気で察しただけで正確なことは謎。たぶん惑星と口笛ブックスのTwitterをどんどん遡っていけば説明があるはずなので(たぶん)気になる人は調べて!

私はこの辺の事情が(も?)イマイチわかっていなかったので「ヒッ、じゃあ私が読んだ感想をモワ~ンと書いてネットに放ったら人様にジャッジされ場合によっては口を塞がれるのか……?」と思って怯えていたが、現在は(恐らくだが)そうでもあり、そうでもない、と解釈しています。

私は公式の審査員ではないので、「オメェよぉ~、批評クソ下手だから次回からは黙ってろよな!」と言われることはないけど、相手のいることなので適当なことを書いたら作者本人や作品を愛好する方から指摘が来る可能性はあるはず……怖っ……。でもそういった意味でもファイトクラブなんだな~と思うと非常に面白いな! 私は批評を勉強していないし、たぶん好き嫌いしか評価軸がないので、このブンゲイファイトクラブの世界には不要な味噌っかすである可能性が大だけど、作者ってモンはともかく読者からの反応が欲しい! 生き物だと思うので、その反応の1つと思ってもらえればという気持ちで感想を書いておこうと思います。ってなんかこれ言い訳っぽいかな……もし適当なこと言いやがって!!!! みたいな書き手(もしくは作品のファンの方)がいらっしゃったらSkypeででも話しましょう! 私は割とすぐ人のことを決めつけますが、説得されれば簡単に簡単に覆す一面もあるので成敗をするのは難しくないと思います! ということで、どうぞ!

■Aグループ

・「読書と人生の微分法」大滝瓶太

一番最初に読んだやつ。おぉこんな面白い小説が出てくる大会なのかこれは全作品に目を通さないとな、と思わせてくれた。アホちゃんなので(という言葉を言い訳にして理解を放棄してしまう一面のある人間なので)数式のところは流し読みしてしまったけど、ホワイトボード代わりの鏡(素敵)に残された数式を通じて甥の「卑屈で頑固な世捨て人」という叔父への認識が「それなりに機嫌よく日々を過ごし死んでいった」に変わっていくところが好き。だって私も自分の残した書きものを見て誰かにそう思ってもらえたら嬉しいから(実際はめっちゃ不機嫌で最悪だったとしても)。

でも、何で”ぼく”は鏡の向こうの自分が「ぼくの人生を読むようなまなざし」「睨んでる」なんて厳しいイメージに感じたんだろう? とか言いだしたら私は後半の部分全く理解できていないような気がする。けど理解できていないからって全く何も感じていないわけでもないので不思議だな。むしろいろんなことを”感じた”。詩を読んでいるみたいな気分だったかも。


・「愛あるかぎり」冬乃くじ

私には1番染みた作品。Twitterで既に感想を言っている。

人にオススメするなら言いたいことはこれで全てな感じなのですが、1番好きな作品の感想が1番短文なのもどうかと思うのでもう少し書きます。

冒頭から自分に関係ある話だ! と思ったので興味を持って読んだ。頑張っても、というか頑張ってるつもりなのに他の人と同じように出来ないのはめちゃ辛い。「とにかく走り、何度も頭を下げた。そのうち疲れた。人との関わりを避けるようになったのも、無理のないことだった」わかりすぎるし、こういう人私以外にも山ほどいると思う。それをタイムトラベラーだから、そのせいなんだって言ってくれる優しさが好きだし、同じように苦しいけど別の形をしている誰かとの出会いで、今までの苦しみ全部が喜びに変わる瞬間が小説の中に含まれているのが好き。私の人生にもこういう瞬間があったし、割とこういう瞬間を経験した人はいるんじゃないかと思うけど、生きているうちにどんどん忘れてしまうから”その時”を真空パックできる書き手がいることに心強さを感じる。あと、この『愛あるかぎり』が書かれたことで小説の中の2人の時間が1番幸せなまま止まって、この小説の書き手の愛情が存在するかぎり、本当に”永遠”になっているのが最高。


・「あの大会を目指して」鵜川 龍史

面白い。すごい。こういうのって自分で書こうとすると本当に難しいんだよね。滑るんじゃないかって恐怖に負けるし、私ってこんなに語彙もアイディア乏しいのか!? ってビビるし、その辺隙なく仕上がっているのが楽しい。ウワ~面白いことが思いつかなかったんだここは苦しいな……みたいな羞恥心が読んでて芽生えるとこういう小説は読んでてキツい。

私はストレスがマッハの時、中原昌也や平山夢明や木下古栗なんかの小説を笑いたくて読むことがあるんですが、下品だったりグロかったり悪意がえぐかったりでむしろ元気をなくしてしまうみたいなことが割とあったので(まぁそのブラックさで元気になれるパターンもあるんだけど)、これくらいの感じだと疲れてても読めるのでありがたい。とても前向きで明るいし、ラストは風刺も効いてるし世にも奇妙な物語かい! 感もあるので、こういうの手を変え品を変え沢山読める短編集があったら絶対買うのにな。でも書くの大変だろうな。


・「アボカド」金子 玲介

これも大変楽しかった。読む漫才だ。小説でやる必要あるのかな~? みたいなことは「おいお前古くせぇ野暮天の感想だな!!」って自分でも思うのでグッと堪えますが、これが短編集のうちの一作だとしたら他にはどんな小説が入ってるのかな? と気になりました。全部この形式だとしたらそれはそれですごい……でもさすがに無理があるような……みたいなことを考えるということは書き手の方が気になっている証拠だと思うので、今から金子さんについてググって他の作品も読もうと思います。

そういえばブンゲイファイトクラブってプロの方も参加しているとのことだが誰がプロでそうじゃないのかは読んだだけじゃわかんなかったな……。


■Bグループ

・「飼育」雛倉さりえ
語り手の女の人はTwitterでたまに見かけるような人(私とも違うし、私の人生にもあまり関わって来ないタイプの人)だけど、こういう人間って実在するのかな? 書いている人がこういう感じの人なのかな? なら仕方ないと思うんだけど、もしそうじゃないのなら語り手の女性の人物像が”小説に割とよく出てくる人”になっちゃってる気がするので、もっと別のアプローチをしてもいいんじゃないかと思う。例えば、「見合いのあと、わたしは煙草を喫いながら母に言った。だみ声の粗野な男たちに飽いていたところだった」のところとか、すごく小説の人っぽい。本当にそういう人ならそれでいいんだけど、だったら小説の人っぽいな~と思われないような、ほかの小説では使われてないような角度からの描写が読みたい。

あと、「夫の一族が所有するマンションのうちの一部屋で暮らし始めた」から段落が終わるまでの描写全部も、個人的には「小説の中の人はそう思いそうだけど、実際同じ立場に置かれた時こんな風に行動する女の人はどれくらいいるんだろう? 私はこうならないな」って感じ。それは無口なくらいで旦那さんをイジめたりしないよ! という意味ではなく、なんか想像の域を出ていないの人間の反応だな~という風に感じた、という意味で。だって全然喋らないことに関して、「まずいの? 嫌いなの?」みたいなご飯の話題で問い詰める前に話し合いにならないのかな? 一緒に暮らしてるのに。「黙ってるけどキレてんの? え? どゆこと? めちゃ無口なタイプ? んじゃ私はあなたの機嫌を気にしなくて全然OKってこと? え、これにも答えないわけどゆこと? は? 舐めてんの?」みたいな会話が行われておかしくないはず。行われていないということは、この女性は気が強そうに見えるけど人との話し合いが苦手なタイプ? すぐに親に電話したりしていることから意外と他者の意見を気にする、支配下に置かれていたい性格という見方もできるから、それで旦那さんにはっきり物が言えなかった、という解釈もできるんだけど、それはさすがに想像しすぎな気がするので……。

でも「ある日、前触れもなく変化が起こった」以降は、本当っぽくなってすごいと思う。実際のところはわからないしどっちでもいいけど、書いた人は大きな滝を共に眺めるような、水槽からわけがわからない腕が出てくるような恐怖(もしくはそれに似たこと)を誰かと体感した時に「わたしは夫を理解できない。夫がわたしを理解することもないだろう。わたしたちはわかりあえない。けれど」みたいに感じたことがあったんだろうなぁ、と思ったので興味深く読めた。前半のところは、そういう実感を読み取ることができなかったのであまり真剣に耳を傾けられなかった。後半が面白かったので、ちょっと残念だった。


・「インフラストレーション」大田 陵史

なんか怖い。何が怖いんだろう? と思って考えてみた。たぶん読んでも読んでも登場人物の気持ちがわからないので恐怖なんだと思う。(私は自分以外の人間がどんなことを考えてるか知りたくて小説を読んでいるので)

こことか、「『どうぞ、お帰りはあちらになります。エレベーターもそこです。出口までご案内しましょうか?』温和そうな表情から、冷徹な語気でそう言った」めっちゃ怖い。冷徹な語気って怒ってるってこと? どうして?さっき痴漢扱いされた”僕”を助けてくれたのに。あと、「その駅員が冷静に無感情に僕が駅構内から出てこなかったこと、一時間程度この改札の前に立って待っていたことをまいこに向かって話した」って一文もあって”僕”が誰かを待っていたことを把握しているはずなのに、突然帰らせようとしてくるのが怖い。本当にどうして……? まいこは最初から異常な存在として出てきてるから意味不明でも大して怖くないけど(あと後半の展開もウワ~なんか大変なことになってる笑 って感じで怖くはない)、駅員さんの行動が理解できないのは怖すぎ。

でも「『ダガログ語わかるの?』」からの会話は怖さも薄れてきて面白いかな。そんな話してる場合かい! みたいな。ただ、轟音でまともに会話できない状態が続く中、”僕”がタガログ語を理解しているのにまいこが気づいたってことは、”僕”がクソデカ大声で「渋滞に気をつけながら、箱庭ジャンクションのスキャン禁止?」って口にしたってこと? それとも”僕”、タガログ語完全にわかってます、って顔をしてたの? じゃなければ、どうしてまいこはわかったの? なんだか書き手の都合よく轟音が大きくなったり小さくなったりしてるように見えて少し残念だった。  


・「宇宙が終わっても待っている」後谷戸 隆

ロマンチック。『千年女優』を思い出す。「彼はわざとらしく声を出して笑い、わざとらしく頭を掻いた。いや、いいよ、と彼は大袈裟に弁明した」ここ、いい。ずーっとずーっと待たされて、しかも振られて、怨霊になってもおかしくなさそう(というか既に怨霊?)なのに、「その瞬間から、自分がずっと彼女を好きでいようと心に誓ったことを彼は覚えていた」という言葉の通り、女の子をずっと好きなままでいるのがこの小説の素敵なところ。

その証拠に、変にオチをつけたりせず、読者をヒヤっとさせるような描写を挟むこともなく、ただ全部が優しいまま静かに消えて話が終わっている。(オチつけたりヒヤっとさせた方が読者に褒められそうなのに)小説で語られていることと小説のあり方が似ている作品が好きなので応援したくなる。その辺が私のお気に入りの『愛あるかぎり』に近い印象。


・「伝染るんです。」竹花 一乃

面白い。書いてる人は私と同じようなことにムカついているんだな、と感じたので興味を持って読む。このムカつきを上手く小説にして色んな人に読んでもらえる形にするのって本当に難しいよな~と思っていたので、こういうブラックユーモアな形で書き出してくれたことにまず感謝。

でもちょっとムカつきが表に出すぎてるかもしれない。「男たちは女のからだに性的な興味があっても、女のからだの本質には興味がないのだ」とか、同じ女として、ね~~だよね~わかるぅ~と思うけど、男の人が読んだらカチンと来て読むのやめちゃわないか? となるとこの面白い小説は女だけが回し読みしてキャッキャ楽しむものになっちゃうんだ……と思うとちょっと勿体ない気がする。まぁ女たちで回し読みしてキャッキャして、ムカつきを共有できる小説がこの世に生まれてくれただけで十分嬉しいんだけど。

あと、文字数が限られているせいでこんな濃縮還元ムカつき汁感が出てしまっているのかな? それがいいところの気もするし、もっと長く書くならムカつきの濃度をもう少し薄めて、ムカついていることを気取られないよう敵(男の人に限らず、書き手がムカついてる相手)に読ませるというやり方もあるかも。でも個人的には今の濃縮還元ムカつきスタイルのが好きかな。


■Cグループ


・「天の肉、地の骨」北野勇作

面白く読んだけど、私はあまり興味が持てないタイプの小説だったかも。読んでも語り手の考えてることや感じてることがわからないので。ただ、「何でこの人(書き手)はこんなことを書いたんだろう?」って想像するのは割と楽しかった。

あと、「内部の脂が滲み出てきたようにその表面はてらてら光っている」この月は確かに美味しそう。骨のみんなも食べたがってるし、私も食べたい。フライドチキンの皮が剥がれちゃった時、内側に見える鶏肉みたいなイメージをしている。


・「期待はやがて飲み込まれる草」伊藤 左知子

タイトルがカッコいい。でも草って飲み込まれたっけ? 

女芸人さんが飲み込まれるところがすごく苦手。読んでてキレそうになった(というかキレてるかもしれない)私有地に侵入する光景を生放送で流すって現実にありえるのかな? 犯罪なんだけど……TVじゃなくて素人の生配信とか方がまだ飲み込みやすかったかも。インターネットの雰囲気から昭和の話ではないのがうかがえるし。

あと、「穴が私を呼んでいる」「飛び込むとかムリでしょう」の流れで笑いが起きるビジョンが個人的には見えないので、どうしてディレクターがGOを出したのか本当にわからない。「カメラマンが撮る角度を工夫して」っていうのも事前にカメラリハーサル的な準備をしないと難しそうだし、畑の所有者さんは割と強い気持ちで人を入れたくないと考えているらしいことが描写されているのに、よそ者がなんやかんやしてるのにどうして気付かなかったの? 何で警察呼ばなかったの? 隙を縫って侵入したの? 留守を狙ったとか? ならどうしてそのことは書いてないの?

『インフラストレーション』でも似たようなことを感じたが、”穴”とかそういう現実にない存在に関しての嘘はいくらでもついて大丈夫だけど、現実の話で嘘をつかれるのは本当にムカーッと来るのでやめてほしい。こっちは小説の語り手のことを友達だと思って真剣に話を聞いてるんだから。こういうことされるとすげぇ疎外感感じちゃって傷つくんだよ。

でもラストシーンは好き。女の子の投げたボールをごっくんして消える穴の話、聞かせてくれてありがとうと思った。途中の人間ってキッタネェ~! ってパートもラストシーンの爽やかさを際立たせる為にあったんだ、と思ったらギリギリ耐えられますが、やっぱり現実っぽい話のところで嘘っぽいところがあるのはイヤだな。こういう”奇想”が含まれる話では特に。

 

・「来たコダック!」蕪木 Q平

好きです。事実関係、書き手の意図通り把握できてるかはわからないけど「私この女の子の気持ちめちゃくちゃわかるな」と思いました。だからラストシーン、「コダックはさっきにゆくえふめい。」が怖くて悲しくて手が冷たくなった。んじゃあ誰がヤバすぎる現実からこの子を守ってくれるんだ?

というのは置いておいて、この書き方で読者にちゃんと語り手の考え・気持ちが伝わるように書いているのが凄すぎるよな。私が勝手な解釈をしているとしても、「気持ちが伝わった」と読者に思わせたら別にOKなんだからさ。語り手の女の子としての視点、喋り方の”演技”(と書かせてもらいます、この話を書いた作者がいるわけなので)が緩んでるな、とこっちに思わせる瞬間がないのもすごいし、これを書いた人の小説はずっと追いかけないとな~と思いました。ファンになっちゃった。


・「愚図で無能な間抜け」植川

めっちゃムカついてる人の小説だ、という印象。『伝染るんです。』以上のムカつき濃縮還元汁ですね。”愚図で無能な間抜け”の方はあまり怒ってない感じですけど(というか怒る元気、もしくは機能がない?)”愚図で無能な間抜け”の話をしている人は超怒ってるな~と思いました。

めちゃ乱暴な言い方なのは承知の上で、語り手=作者なんですかね? ”愚図で無能な間抜け”=作者なんですかね?(作中の描写読むと”愚図で無能な間抜け”はいっぱいいるみたいだから、ここでは1番主人公っぽい”愚図で無能な間抜け”を”愚図で無能な間抜け”と呼ばせてもらいます)たぶん、「”愚図で無能な間抜け”って居るよな~! あぁいう奴ムカつくわ~!」って感情でこういう小説を書く人はあんまりいないと思うので、自己嫌悪が発端になって書いた話なんじゃないかなぁ、と勝手に想像するんですけど……。

もし、”愚図で無能な間抜け”=作者(もしくは作者の一部を反映している)だと仮定すると、”愚図で無能な間抜け”は本当は怒っていることになるので、「それが原因でいじめられたが間抜けだから気にならなかった」「人生が過ぎていくことには何の感慨もなかった」が嘘になっちゃうんですよね。というか作中で語られている”愚図で無能な間抜け”の”発言”からしても、「それは不快なことだったから笑われないために口を開くのをやめた」とか「ただ干からびて磨り減っていくだけだった」とか、気になってなくない!? なんの感慨もなくなくない!!? って感じの矛盾が生まれちゃってるんで、何で本当のこと話さないの? と思ってしまうというか、むしろ読む側として興味があるのは《何も感じない”愚図で無能な間抜け”じゃないのに、自分を何も感じない”愚図で無能な間抜け”だと思い込もうとしている》人間の方(これは=作者、じゃなくてもいいです。でも、この小説の語り手はそういう人だと私は感じました)なのに、どうして作者はその人の話を書かないんだろう、と疑問に思います。

マジで何も感じないリアル”愚図で無能な間抜け”は小説を読まなさそうだけど、《何も感じない”愚図で無能な間抜け”じゃないのに、自分を何も感じない”愚図で無能な間抜け”だと思い込もうとしている》人間は割と小説を読みそうだし、そっちで語りかけてくれた方が読む私の魂も救われるんじゃないかな。もし、作者さんが嫌じゃなければ、《何も感じない”愚図で無能な間抜け”じゃないのに、自分を何も感じない”愚図で無能な間抜け”だと思い込もうとしている》人間の話を書いて欲しいです。


■Dグループ

・「その愛の卵の」齋藤優

美しい文章だと思ったし、美しい情景が描かれてるなぁと思ったけど、わからないことが多い。どういう状況? どういう関係? どういう心境?(これ、語り手の”わたし”の方はうっすらわかるけど。幸せそうだけど心に穴が開いてそう)「こんなとき」どんな時なんだろう? 「登校時間」が来たら2人はどうするの? 服も燃やしちゃって裸なのに……。

それと1番わからないのは、何でこんな風にわからないように書いているのか。書いている人は、(他の読者は違うかもしれないけど、少なくとも私には)簡単にはわからないように書くことで、どういうメッセージをこちらに訴えてるんだ? それがわからなかったので、大好きにはなれなかった。私が好きになっても応えてくれなさそうな感じ。でもあまり冷たい感じもしないのが不思議。文体が柔らかいからかな?


・「甲府日記 その一」飯野 文彦

面白いなぁ。好きです。これも割とよくわからない話なんだけど(でも『その愛の卵の』よりはずっと想像しやすいかな)、前半の生活感ある描写に親近感を持っちゃったからか、片思いでもいいから好きって言いたくなった。

私はここまでの感想で、割と細かいところでネチネチ言ったり、「これ語り手の言葉? 嘘ついてない? 語り手のフリした作者じゃないの? 私は語り手と友達になったと思って真剣に話を聞いてるのに全部作者の嘘だったとしたら酷いぞ?」みたいな不安を撒き散らしてきたわけですが、この『甲府日記 その一』には「お前コノヤローッ、作者だろ!!」とか、「現実にこんなことありますぅ~~~???」みたいな疑問もなく、スゥっと読めたのでめちゃ小説うまいし、よく気をつけて書かれていると思う。もしくは全部、本当の話かもな……(イっちゃった目で)


・「逆さの女」正井

これは……冒頭の”エリザベート”の名前の由来の話だけ文章がこなれてない気が……ちょっと目立つな……。ここがもう少し地ならしされると、そもそもエリザベートと杉浦&慎の話が同時に展開される小説が書かれた意味is何? みたいな疑問がもう少し薄れるかもしれない。出足で弱みを見せちゃったが為に、語り手と物語への信頼が失われたように感じる。でも杉浦&慎の話自体は面白いし、それに連動して動くお化け・エリザベートも面白いよ。ラストの一文「今上を向いたら彼女の瞳が見えるかもしれない。でも、それはしない。真上は見にくい」もすごくカッコいい。

でも、慎がそういう心境になる理由も、理由の説明がなくても納得できるような慎の人柄情報も物語終了時に私には揃ってなかったので、「なんかカッコいいこと言ってるな~」ってだけの感想になってしまった。面白そうな話だなと思っていたので、そんな風に別れることになったのが寂しい。もっと深い仲になりたかった。


・「殺人野球小説」矢部 嵩

うわめちゃめちゃ面白いな! 「満願成就の夜が来てオールナイトハピネスは会社を飛び出した」この冒頭既に最高では? 書き出し小説大賞じゃん、と思ったところからちゃんと”殺人野球小説”の話が続くことに驚愕。Aブロックの『あの大会を目指して』の時も思ったけど、こういうのは本当に書くのが難しいと思うから、読みながらもっとやれ! もっとやれ! もっとやれ! と血湧き肉躍った。けどこれ……小説内小説だったんですか!? だったら悲しいんですけど!! 誰よ絹子って!!? え、”殺人野球小説”が”外苑”なの!? 混乱した。はしごを外された気分だった。未だに混乱は収まっていない。


■Eグループ

・「私の弟」大前粟生

面白かったし好きです。でも、『来たコダック!』を読んだ後なので、演技がゆるいというか、語り手の女の子じゃなくて作者の顔が見えてるところがある気がしました。「おすし」は平仮名なのに「熱い棒」が漢字だったりする基準がわからないところとか。

あと、女の子が喋りながら4年の時間が流れているので、後半になるにつれて語彙が大人びていく理屈はわかるんだけど(そこら辺の微妙な違いはすごい、それをちゃんと読んでる人にわからせるのも)、「そのうち、弟も私も自分のチャンネルを持つようになった。私たちは自力で生活を守りたい」というかなり大人っぽい文が出たあとに「つばさちゃんとつきあった」「あとで私にいった」みたいな幼い口調の文が出てくると、もしかして”私”じゃなくて作者が喋ってる? と読んでて不安になる。”言”の字を使いたくないだけなのかもしれないけど……でも何で? 小学校で習うし他の難しい漢字はバンバン使ってるのに……。11歳の女の子が「言」の漢字を使わない理由がわからない→もしかして作者のこだわりなんじゃないか?→ということは私に話しかけてるのはやっぱり”私”じゃなくて作者!? ってなるのであまりこういう気持ちにする隙を残さないで欲しいというのが本音。そこが嘘だったんだ! ってなると、弟が鬼なのも嘘じゃんって結論に私の中でなってしまって、この話への興味が全部消えるので。


・「抱けぬ身体」原 英

お~~~ちゃんと物語になってる! 面白い! でも全体の比重でセックスのシーン長すぎませんか? それともワンナイトラブで別れたあとに亡くなったの? それともセックスばっかりしてた2人だった? なんて私が思い浮かべているストーリーが他の皆さん、そして作者さんの想定していた話と同じがわからないので尋ねても意味ないんでしょうが。こういう面白がり方でも許されるなら読んでて楽しかったです。


・「立ち止まってさよならを言う」 栗山 心

前半の途中、千原ジュニアさんのすべらない話みたいになってきたな……と思った瞬間もあったけど、「あなたは日本に観光に来ていた、極度に方向音痴で内気な韓国人男性と結婚する」の後から一気に面白くなった。

なんでだろう? たぶんこの結婚より前に語られていた青だけど緑だよね~みたいな話は、私にとってあるあるネタだからかもしれない。その中で唯一、十姉妹の話は初めて見たから面白いなと感じたけど、「ぽこぽこと白い小さな石のような卵を産み落とすのが、気味悪かった」の文章に関係している「小鳥は子供の鳥のはずなのに、なんで卵を産むんだろう。私も知らないうちに、布団の中で卵を産んでしまうのではないか、と」が、気味悪いのって子供が卵を産むことと布団の中で卵を産むことのどっち? それによって話が変わってくるぞ、的な思考のノイズが入ったのでイマイチ乗れず。

でも後半は好きなところばっかりだし、「冠詞を度々忘れるあなたは、」の後に出された例文も話も、今までそんな感じ方してる人の話は聞いたことなかったからすごく楽しく読んだ。最後の段落も本当に素敵で、書き写したかったけど全部写さなくちゃいけなくなるからやめました。めちゃめちゃロマンチックだし、めちゃくちゃ優しいよね。大好き。


・「月と眼球」式さん

面白く読んだけど(特にアトランティスがが再び地上に現れる辺り)、私はあまり興味が持てないタイプの話だった。読んでて想像したら目が痛くなった……膿溜まるのイヤだ~。だから小説としては上手なのだと思う。


■Fグループ

・「手袋」珠緒

面白いですね、好き!! 私は実話怪談ファンでもあるんですが、これは実話怪談っぽい内容を小説として書いてるから、好きなもの&好きなものの組み合わせでワ~イ! ってなっちゃいました。後半の手袋発見するシーンの描写はすごく綺麗で薄ら寒くていいですね、景色が目に浮かぶようだし。

でも気になるのが”アサダルミ”がカタカナなのは、語り手の”私”がどんな漢字を書くのか知らないからですよね? でも書道教室は一緒なんですよね? 書道教室って割と小さい頃から通うイメージがあるし、近所じゃないと同じ教室には通わないだろうし、同じ学年なら”アサダルミ”をどう書くのかくらい知ってそうじゃないですか? 書道の作品には絶対横に自分の名前を添えるわけだし。漢字の”浅田留美”(てきとうな当て字ですが)より”アサダルミ”の方がミステリアスでいい感じだけど、たぶん語り手は「ミステリアスだからアサダルミの方がかっこいいよね~」とは考えないと思うので。

習字教室のシーン以降、「もしかしてこの話、全部嘘じゃね……?」という疑惑が出てきてしまったので安心させて欲しい。嘘の話はマジで読みたくないので。まぁ基本的に小説は嘘とわかっているんですけど、読んでいる間はウソだとバレないようにお願いしたく……。


・「天空分離について」伊予 夏樹

私の中ではAグループの『読書と人生の微分法』の読後感に近いかも。ちゃんと理解できているのかというと怪しいがなんか面白い、みたいな。(しかし文系の内容だから『読書と人生の微分法』よりは理解しやすかったかな)

めっちゃ論文を読んでる人だったら、「イヤ嘘よこれ!! だって○○だとしたら○○みたいな言い方しないもん! これアメジストじゃないわ作者が喋ってるわ!!」つって、普段の私みたいに大騒ぎする箇所ももしかしたらあるのかもしれないけど知識がないのでその辺もわからず。しかし逆にそのお陰で、私にウソついてない……よね!!? みたいな不安を感じず、リラックスして読むことができた。 

こういう現実に”ない”話”、沢山読みたいですね。私たちの住む世界と違う世界が沢山あって、それぞれの世界の論文? 本の内容? みたいなのがいっぱい読める本があったら楽しいな。「だが、それはあくまでも『分かった様な気になった』だけであり、実質的には何も理解などしていないのである」みたいな部分は私たちの人生にも関係のある話だなという気がしたし、”ない”話をしながら私みたいな自分に関係ありそうな話しか聞かない読者の興味もちゃんと引っ張ってるんだから、すごいと思う。


・「遠吠え教室」蜂本 みさ

面白いですね! でもハッピーな話だし、子供たちの話なので個人的にはあまり興味がわかないテーマです。何故なら子供の頃、全然友達がいなくて公園で遊んだような記憶もなく、羨ましいという気持ちがノイズになって話を聞くのに集中できないからです。子供の頃、こういう不思議な思い出ありますよねノスタルジ~……的な感情も私にはないので……よってすごくうまい小説だと思うのにあんまり好きだって感じることができずとても悲しい(自分の人生が)

私の個人的事情でかなりのハンデを負わせてしまってますが、それでも「胸をかきむしりたくなるような声」「小さな目がうるんできらきら光った」、このあたりの表現は本当に素敵だと思う。でも、自分と同じく友達いなさそうな”あこちゃん”に感情移入して、”あこちゃん”が認められたことが嬉しくて感動してるだけかもしれないですけど……。

じゃあそれも差し引くとしてもラストの一文、「耳を澄ますとどこからか遠吠えが返ってくる。でも、人間かどうかはわからない」は最高だよね。文句のつけようがないです。こんなにも私の心がノイズにまみれてても。


・読書感想文「残穢」一色 胴元

あ~~これめちゃくちゃ好きだわ!! めちゃめちゃ面白い! 私も学生時代、こんな感じで本の揚げ足取るような感想文をよく書いて提出してたんですけど、まさか残穢のそこ突っ込む!? と声を出して笑ってしまった。だからこの前半パートだけでも最高なのに、「私は代々イタコの家系に生まれ、私自身それを生業にしている」と来た時は更に最高で震えた。作者がいることをバラすな、小説が嘘になる!! 嘘は聞きたくない!! といつも大騒ぎしている私ですが、これには「作者、天才か?」と思った。激LOVE。不安そうな久保さんとの会話も最高だし、「『読者』だけが『作家』を求めているのだろうか? 同じように、いやそれ以上に『作家』は『読者』との繋がりを求めているのではないだろうか」という”気づき”に至る展開も本当に素晴らしい。最高。ファンになった。

でも1点気になるのが、イタコの”私”、本当に「はたして、『残穢』はどんな小説なのか?」って思うか? というところ。シメの一文としてはすごくカッコいいんだけど、着物の帯の話が出るところまで読んでたら大体どんな小説なのかはわかるくない? それはウソじゃないの? 作者がカッコいいと思ってこのシメにしていないか? と気になった。それ以外は、私の中では完璧な小説。


■Gグループ

・「跳ぶ死」伊藤なむあひ

面白いです。でもこの小説もよく理解できてないかも。もし何かの比喩なのだとしたら特に……(けど、たぶんそうだよな? じゃなかったら”死”なんて言わないだろうし)ただ、”死”という生き物の生態を見守るという読書体験は普通に素敵で楽しかった。笑うところかわからないですけど、「mori(メメント・モリ)と呼ばれる死、特有の踊りのような動きを見せます」ここなんかめちゃくちゃ笑えるよね。吹いちゃったもん。

でも後半になるにつれて少しずつ興味が無くなっていったかもしれない。「死の大量発生」まではフムフム、と思っていたので「死が確定するのを待つ」シーンあたりから、よくわかんねぇな……という思いが大きくなっていった気がする。死が確定したらどうなるんだろう? 誰かが死ぬのかな? あと、死はなんでいつも外に”跳ぶ”んだろう? そういう生き物で、そういう生態なのであって深く考えなくてもいい感じ? でも”死”だしなぁ、深く考えさせようとしてないと名前を”死”にはしないよな……。

そんな感じで、わかんなかったけど文章自体は好きです。たぶん書き手の人のものの見方も。なので、他の作品だったらもっと肌に合ったかな? 


・「夏の目」吉美 駿一郎

ん~~~好みとしては割と興味が持てない方の話なんですけど(私は”少年”や”伯父”のような能力持ちじゃないので感情移入しにくいのか?)、”伯父”の話すことには興味が持てたし、面白く感じましたね。

なんか1番本当っぽいからかな。小説の中の人間、って感じじゃなくて、こういう能力があって片眼しか見えない伯父が実在するとしたら、こういうこと言いそう~って感じが出てたから興味がわいたのかもしれない。と思って見てみると、それ以外のシーン、例えば目ん玉クリーニングとか、文字数さいて書いてある割にWikipediaで目の項目調べて、それを参考に書いた? って感じがするかも。解剖学の本とか読んで書いちゃった? っていう。マジで目ん玉をクリーニングしたことあるのか? と疑問がわくというか。

もし実際に目ん玉クリーニングをした上で書いてたら本当に申し訳ないんですが、ここで提示された情報を脳内で再構築して我が事として想像していくと、手がめっちゃ綺麗なままなんですよね。ベタベタするのかヌルヌルするのかもわからないし、もしくはスベスベなのかもわからないし。だからWikipediaか本読んでその情報を元に書いてないか? と疑っちゃいます。だから勿体無い感じ。あと、目に死んだ動物の目を突っ込むのってどんな気分なんですかね? 語り手の子は慣れてるから「うげ~」みたいなことは全然思わないんですかね? なら今の描写のままでも大丈夫だと思うんですけど、目ん玉に乗せた時の感覚も「コンタクトレンズの要領でそれをのせ、」になっちゃってるんで、私は100%コンタクトレンズをはめた時みたいなんだ~って想像しちゃってますけど、なんかそれってこの設定の面白いところ殺しちゃってないか、と個人的には思います。

”ほかの動物の視点で世界を見る”って話やシーンは色んなところで見たことあるけど、”死んだ動物の目を自分の目に突っ込んで世界を見る”って話は今回初めて見たし、それがこの小説1番の”売り”の部分というか、大事なところな気がするんですけど……。

あと伯父さんの話の他だと、「村を貫いている国道は大型観光バスが通るほどの道幅がある。それだと助成金が出るのだ。村に似つかわしくない路上には轢かれた動物の死骸が放置されていることがよくあった」ここもホントの話っぽくて好きかな。でも大型観光バスが通るほどの道幅にすると助成金が出るって何でなんだろ? まぁこれはググればわかることだと思うし私より物を知っている人はひっかからないところだと想像するので、理由を小説に入れてくれよ~とは思わないですけど、私には少しノイズになったかな。


・「ニルヴァーナ 川柳一〇八句」川合 大祐

めっちゃ勝手な意見を言うと(まぁここまでずっとそうだけど)、108句は多いですね……! 他の小説1つ読むのの5倍ぐらい頭使いました。でも読み終わってみたらそんなに必死になって読むようなものではなく、もっと気軽にウヒヒ~おもろ~ぐらいの態度で読んだ方が良い作品だった気がする。たぶん、その方が楽しめた。全体的な印象も良く感じた。

けど現実は108句で、真剣に小説を読んできた後の遭遇だったので、ウヒヒ~おもろ~な心境にチューニングするまで時間がかかってしまった。なのでもう少し厳選して珠玉の30句の状態で出会えた方が私は好きになれたかも。「渚にて田代まさしの武芸帖」「#シンガポールがわかるまで」「森林に両生類を売る刑事」「試合後に『野菊の墓』のビラ破る」「反動で吉永小百合像を彫る」「ぬりかべについて報道ステーション」「あれがヒ素だと叫びつつバスが来た」この辺は質のいい怪文書という感じで大好きだし、「人魚棲む町の模型にきょうも雨」「自閉する剃刀負けの琳派画家」「熊蜂に言葉の果てたわたしたち」この辺はリリカルな魅力があるよね。

でも1番好きなのは「カルピスのここより白く狂えるか」ですね。マジ、これだけ光って目に飛び込んできたし、カルピスの宣伝文句これにしない? って感じ。たぶん”狂”がNGだと思いますけど。


・「パゴダの羽虫」中島 晴

面白く読めました。ただ個人的にはこれも割と興味が持てないタイプの話かな……でもその上で、文章も読みやすくて適切だと思うし、扱っているテーマも書き手の眼差しも優しくて好きです。手から虫が出てきてくれて、お母さんの大事な金箔を運んでくれてマジ良かった……!! と思いました。すごくいい作品ではあると思うので、私の感受性のせいでこんな感想しか出てこないのが申し訳ない。


■Hグループ

・「鳩の肉」齋藤 友果

面白かったし好きです! 私は鳩が好きで、鳩を怖がっている人が居ることをここ数年Twitterをやってて初めて知って「エ! ハト怖い人がこんなにいるの!?」と思ってたくらいなので、冒頭から興味を持って読みました。人が何かを嫌いな理由って聞くのめっちゃ面白いんですよね。自分が好きなものなら尚更、そんな考え方もあるのか~ってなって楽しい。更に語り手の”わたし”が鳩を食べているとなったら……面白ボルテージ最高潮ですよ。

「とはいえ、わたしが食べるのはキジバトで、彼がひどく怖がるドバトではない」とかの、すっとぼけた感じもいいですよね~~~。彼にとっては何の救いにもならねーよその情報! って感じで。あと、「まとめてつまんで引き抜くと薄い布を裂くような感触がある」「首を落とせば、切ったところから木の実やなにかが溢れ出てくる」この辺も最高! Wikipediaには書いてない情報! 本当っぽい!! こういうのが読みたいわけ私は!!! とどんどんテンションが上がっていく。

幽霊の通り道とされる、霊道? 鬼門? の動物版みたいなところに建っている家。そこにどんどんやって来る生きものたちと、時には事故ったり、”わたし”の罠にかかって死んだ屍体たち。更に、緑色の活字の「彼カエラズ」……あ~~もう最高最高最高!! 好きすぎる! 最高!(語彙喪失)  

でも1点。文字数の関係なのか、鳩に比べて彼の描写(キャラ)が弱すぎますよね? 「家を建てたら転がり込んできた生きものたちのうちのひとつだった」って文章、最高に面白くてワクワクするのに、彼の存在はこの文章の面白さに応えきれてないよなーと思います。贅沢言いすぎかもしれないけど、もしこの『鳩の肉』をもっと長い話にするなら”彼”も鳩ぐらい美味しく扱って欲しいな……。


・「ハハコグサ」磯城 草介

めっちゃいい話だと思うし、ちょっと泣きそうになりましたけど、割と興味がわかないタイプの話です。でも扱ってるテーマと文体もピッタリ合ってるし、「ウソついてる……この語り手は嘘をついている!!」と思うところも全然なかったので、すごく完成度が高くて、うまい作品だと思う。

私はいい読者じゃないですが、こういう作品を読みたがってて、必要としている読者はめちゃくちゃ沢山いると思うので、その人たちに届くまで書き続けて欲しい。こんな優しい小説私には書けないから、本当にすごいと思うし、そういった意味では自分が興味を持てて、好き好き! と大声で騒いでいるような作品以上に評価しています。


・「くされえにし」林 四斜

あ~これも『伝染るんです。』や『愚図で無能な間抜け』みたいに書き手が何かにムカついてる系かな? と思って読み始めました。めちゃくちゃキレてて根に持ってなきゃ、こんなイヤ~な細かいところ執拗に描写しないと思うので(私はめちゃくちゃキレて根に持ってる時、嫌な細かいところを執拗に描写したくなるので)書いてる人も、こういう目に実際遭って、小説にしたくなったのかなー、と。

って思ってたんですけど、ラストの段落で一気に考えが変わりました。もしかして書き手の人、全然ムカついてない? むしろ、あの生理的嫌悪感もよおさせようと書いてるようにしか見えなかった生活を楽しんでた? じゃなかったらこんなラスト書けなくないか? ……もしかして、祖父のことめっちゃ愛してる!? だから”くされえにし”なの!? と思考がどんどん繋がっていった結果、めっちゃいい話じゃん!!? って震えるほど感動したんですけど、これを『ハハコグサ』の次に持ってくるとか、ちょっとヤバくないですか? Hグループの並びを決めた人は絶対家族愛目覚めさせるマンなのか? 綺麗な話で感動できる人は『ハハコグサ』、綺麗な話で感動するのに心理的ブレーキのかかるひねくれ者は『くされえにし』で落としにかかっているとしか思えない。私、間違ったこと言ってますか?

まぁそのことは置いといてこの『くされえにし』、他にもすごいところがあって、ちゃんとずーっと”語り手”が”語り手”のままなんですよね。作者の顔がチラ見えしない。演技が緩まない。ずっと”本当”っぽく話が進む。

でも最後に、これまでさんざん読者に不快感を与えてきた存在であるおじいちゃんとのホッコリエピソードが入ることによって、初めて「え!! 作者おじいちゃんのこと好きなの!?」とその愛にビビらされようやく作者の存在に思いを馳せることになるわけですけど、そうなっても”語り手”はちゃんと”語り手”のままで、おじいちゃんのこと好きな感じ一切出てないですからね。めちゃフラットよ。なのに私は家族愛に感動してんのよ。すごくないです? こんな小説書けますか? 私の驚きと感動伝わってますかね? 


・「ハワイ」貝原

めちゃくちゃ優しい話だな。すごい。こんなにムカつくことだらけの最悪の世の中で、よくこんな小説を書けたと思う。それだけで私とは違いすぎて、その違いが本当に尊いです。こういう書き手もいてくれないと困る。

なんか心がアレな時に読んだら床を叩いて号泣してしまいそうな世界とお話でした。なんで私はこんなに最悪なのにこの人たちはこんなに幸せそうなんだ、っていう悔しさと、こんな優しい世界を頭の中に育てている書き手もいるんだ、という希望と、純粋にこの優しい世界に浸って、少年の心と目になって癒された自分への戸惑いで感情がめちゃくちゃになると思う恐らく。

私の好みの傾向からすると、かなり”興味わかないです”寄りの作品だと思うんですけど、好きですね。たぶん、「とても気分がいいとかご機嫌というのではないけれど、なにひとつ悪いこともない、いつもの、ただの帰り道だった」とか、はじめの方の一文でこの小説に含まれる全てを描写しきっていたり、めっちゃ優しくていい話というだけでなく、ものすごく上手い(というべきか? 書かれていることに大して最適な描写が用いられている、の方が正確?)からこんなに好きになれたのかも。

ただ1点、少年と少年がでてくるのはわかりにくいし、そのわかりにくさをそのままにした理由がわからなかったです。片方を少女、にするのはちょっと違うかなぁ、と思ったんですけど、普通に名前つけるんじゃダメ? 「今、どっちの少年の話?」って考えるのがノイズになって勿体無いと思う。まぁ頭使って読めばわかるんだけど、考えないで読めた方がこの小説は持っている薬効を十分に発揮できると思う。


以上~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!


ブンゲイファイトクラブ一回戦参加者の皆さん、いろいろ言いましたが「すべて面白かったし、ただ読んでいるだけの私からすると雲の上の方々であり作品たち」というのが大前提です!(別に怒られたくないから言っているのではなくマジで! 怒りたくなったら怒られるのも仕方ないと思ってるので怒ってください!!!)ありがとうございました!!!!!!! 

「スキ」を押すとめちゃめちゃ面白くてオススメな小説の名前が飛び出すよ!