見出し画像

藤子マンガにおけるジャイアンの特異性

すべての答えはネットにある。それが正しくても、間違っていても。

あえて調べないが(めんどくさいから)、昭和の仮面ライダー二号の変身ポーズは、役者さんがバイクの免許を持っていないためバイクでの変身シーンが撮れない代わりに生み出された、という話があるが、それはあくまで「盛った」トークであり、真相は違うという説もある。
真相は興味のある方、調べてみてください。

そんなわけで、超メジャー作品「ドラえもん」のキャラクター「ジャイアン」についても、おそらくネット上ではかなりの考察がなされているはず。
「映画版のジャイアンは、マンガやアニメ版と違っていいヤツ」なんて、もはやどんなにつまらない芸人でも言わないほど当たり前の認識になっている。

そんなジャイアンについて、連載当初から気になっていることがある。
それはジャイアンの「他人のおもちゃを取り上げて返さない」という悪癖である。

まあすべての藤子ギャグ作品をさらえば、ジャイアン的な「過激な」ガキ大将は他のマンガにも出てくるのかもしれないが(「魔太郎」とかは関係ないよ、あれは日常的にヒドイやつが出てきて当然の作品なので)、パッと思いつくゴジラ、カバ夫、ブタゴリラ、などは、悪い言い方をすれば「単細胞の乱暴者」という程度の認識しか私にはない。
「ハットリくん」の「ケムマキ」に関しては、80年代にやっていたマンガ版ではなかなかコクのある邪悪ぶりを発揮していたが、まあ忍者だから特別な教育を受けてきたのかもしれないので除外する。

藤子マンガのガキ大将で、突出した盗癖があるのがジャイアンである。
「ドラえもん」も時代の変化にしたがい、ポリコレ的な改変が微妙に行われている、というか、私が知っているのは「ただのブスキャラ」だったジャイ子が「少女マンガ家志望」で「妹思いのジャイアン」が出てくるということだけだが、なかなか面白い改変だと思う。
ジャイ子は「歴史が変わらなかったときののび太の結婚相手」という設定だったが、もともと「内面」があるようなないようなキャラ(「ジャイアンの妹」という属性しかない)だった。
しかし、「ジャイアンの妹」という立ち位置はふくらませ甲斐がありそうだった。
そんなわけで「少女マンガ家志望」という設定になったのだろう。

しかし「いわゆるブスキャラ」からジャイ子が改変されたのにも関わらず、ジャイアンの盗癖だけは2022年にも治っていない。

だいたい、ヒトのものをすぐ盗るようなヤツはおれは大嫌いなんだよ。
ジャイアンの母ちゃんもどうかしている。たまにジャイアンが他人のおもちゃを自分のものにしていることに気づくとゲンコツを食らわせているが、対症療法のみで、根本的に改善しようとは思っていないようだ。

そもそも論として、おそらくジャイアンの家庭は「ドラえもん」の世界ではかなり貧しいように思える。のび太やスネ夫、しずかのママたちが専業主婦なのに対し、ジャイアンの母ちゃんだけが働いていて、子育てに力を注げないような描写も観られる。
実は子供マンガ内の「微妙な格差」は昔から描かれている。アニメだが「魔法使いサリー」で、スミレちゃんは金持ちっぽいが、よっちゃんはそれほど裕福ではなさそうだ。
「おぼっちゃまくん」の「びんぼっちゃま」は、そうしたキャラ造形をやや露悪的に極端にしたものでもある。

が、まあそれにしたって、家が貧しいことが泥棒をしていい理由にはならない。
しかし、「ジャイアンの盗癖」は、「ドラえもん」の物語パターン、すなわち「スネ夫が何らかのおもちゃを自慢する」、「のび太とジャイアンがそれをうらやましがる」、「ジャイアンは暴力でスネ夫からおもちゃを取り上げるが、のび太にはそれができないので何らかの代替物をドラえもんにねだる」という流れに強く組み込まれているので、おいそれと改変できないのであろう。

なお有名な「ジャイアンリサイタル」が落語の「寝床」が元ネタだと知ったのは私も四十歳を過ぎてからだったが、あそこまで大勢の子供を従わせることができるのも、オバQのゴジラや「キテレツ大百科」のブタゴリラとは違う点である。
そういう「子供内権力者」としても、カバ夫やブタゴリラと比べてジャイアンには何かそらおそろしいものがある。

もっとも、このことは藤子ギャグマンガの主人公としてののび太が、他のキャラ、正太、ミツ夫、ケンイチ氏(うじ)などと比べてもとくに情けないキャラとして造形されていることのバランスでもある。
のび太は一度、ジャイアンにケンカに勝つが、あんなものは「なんかしつこくて気持ち悪いから」、ジャイアンが気味が悪くなって折れたに過ぎない。

バキに例えれば、天内悠が愚地独歩との試合を「自分が勝利したから」と放棄しようとしたに近い。上等な料理にハチミツをブチまけるかのような思想である。

しかし「ドラえもん」世界にはジャイアンをさばいてくれる範馬勇次郎はいないのだ(どういう結びだ)。

ジャイアンよ、早く改心してくれ。

おしまい


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?