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8月7日

道の上で何かが光っていたような気はする。あとから思い出すとそうだったかもっていう程度の話だけど。

遅番での出勤で、かなり暑い日だった。
眠ったり起きたりだらだら過ごして、午後、自宅を出た。日差しがまぶしい。ほとんど痛い。

なるべく感覚をぼんやりさせて日々をやり過ごしてる。
暑すぎて出かけたくないとか、仕事上の悩みとか、個人的な心配事、などなど、とりあえずまともに考えるのが厳しいなと判断したら一旦ぼんやりした人になっててきとうに乗り切る。

目の焦点をずらすことで見たくないものを見ない行為と同じで、ろくな結果にならないし続けてたらなんか人生にいろいろ良くない。
わかってるけど無事に生きてくためにちょいちょいぼんやりしてる。特に暑すぎて出かけたくない問題には逃避の一手しかない。

ようするにその時のわたしはとてもぼんやりした状態にあった。
日々に対して、仕事に対して、暑さに対して、今現在おこなっている車の運転に対して。

ボン! って音が助手席の下あたりに起こった。
正確にはバンボンバリバリ〜! ってな連続した音だったと思う。

たちまち車はスピードが出せなくなった。
変な連続音のあった左下からは、バタンバタンと平らなゴムが地面を叩くような音がする。

自動車のタイヤのパンクを初めて経験しました。

自転車のなら何度もある。別に無茶な乗り方はしてなかったと思うんだけど、自転車屋のおじさんを「あーあ…」って言わせてた。別に無茶な乗り方はしてなかったと思うんだけど。

初めてのことなりに(これは即座に路肩に停車しなきゃダメなやつ)と思った。そもそも時速20キロぐらいでしか走れない。
わりと交通量の多い国道、後ろにはすでに渋滞が発生しつつある。
しかし停められそうな路肩なんて見当たらない。

後続車に迷惑をかけてる、無理な追い越しとかで事故になったら大変、職場にたどり着けるのか、パンクって直せるの?
頭の中では何故か水を張ったバケツに細いタイヤのチューブを沈めていた、自転車屋のおじさんが。あーあ…

いやこれぼんやりしてる場合じゃないな。
って気づいたら意外と急速に判断力が働き出して、もう少し走れば待避スペースがあったはず! と思い出してなんかもう謎の唸りを上げてる車をそこまで進めて駐車。

まずは降りて状況確認、なるほど左前輪が見事に裂けて潰れている。
周囲を見渡す、国道の通行量は多いけど通りかかる人はいない。どういう皮肉かタイヤ製造会社の建物が目の前にあるものの人の気配はない。そういや土曜日だ。

あとは車内に飛び込んで携帯電話でJAFのコールセンターの番号調べて電話して修理を手配してもらい、職場に遅刻しそうですと詫びの連絡を入れ、念のため夫に「近くにいたら助けてくれ」とLINE(近くにいなかったし夕方まで読まれなかった)。

ほどなくして最寄りのJAFの人から「10分ぐらいでそちらに着きます。車内を涼しくして安全に待っていてください」と電話が来た。

あとは安全に待とう…   パンク箇所が見やすいように車の向きを変えて停め直して、運転席から辺りの景色を眺めた。

待避所は大きな跨線橋のてっぺんの少し手前にあった。潰れたタイヤをバタバタ言わせながらここまで無理に登ってきた。
橋の外側には青い田んぼが広がっていて、その間を線路がまっすぐ通ってるのが見える。
遠くにりんご畑の斜面が見え、その上に晴れ渡った夏の空があった。

妙に視界が冴えて、空がめちゃくちゃに青いことに気づいて、
青いことにここしばらく気づいてなかったことにもついでに気がついて、
何か言いたいけど今のところJAFを待つ以外に出来ることもない。つぶやいた。

パンク事故という緊急事態で一時的にぼんやり状態を脱した脳の考えたのは、
好きな漫画作品に交通事故のシーンがあった。ということだった。

岡崎京子先生の『pink』、ネタバレなので未読の方はごめんなさい、主人公の彼氏のハルヲくんはラストの方でとつぜん車に撥ねられるか轢かれるかして死にます。
手元に本がないので正確ではないけど、完全に手遅れな量の血を流しながら
(空が青いぜ ユミちゃん)と恋人に呼びかけながら死ぬのだった、たしか。

交通事故こわいな。
今はアスファルトとタイヤの地獄にいる、とかの言い回しで人物の交通事故死を匂わせるくだりが、『ロリータ』にあった気がする。
これもネタバレごめんだけどロリータのお母さんのシャーロットはとつぜん車に轢かれて死にます。なんだこのネタバレ日記は。

JAFはまだ来ない。つぶやいた。

カゲロウデイズ、小説とかは読んでないけどこの曲が好きで公開された年に何度も視聴した。
病気になりそうなほど日差しがまぶしい日にどうやっても友達が事故死するループに入ったので、最終的に主人公が走り来るトラックの前に身を躍らせる。

クラリスはカリオストロの城のじゃないよ、華氏451だよ。でもどんな話か忘れた。


パンクぐらいじゃ死にやしないんだけどそれは結果論ってやつで、
そのときはわりと必死に行動してた。
そのなかで考えたことがこれっていう。

なんかやべえ!!ぼんやりしてる場合じゃねえ!ってなってちょっと頭がハッキリしたとき、
わたしの意識に浮かんだのは、おかれた状況から連想される好きな漫画とか小説たちだったわけだ。

いずれ何かの本のイメージに埋もれて死ぬと思う。
手向けに朗読会でも開いてくれたら喜ぶことでしょう。ではまた。


(久しぶりに日記を書いたら全体にグダグダなので公開後に直します、今日はとりあえず何か書くということをやってみたかった)

忘れてた、パンクの原因の話を。
落ちてたスパナが刺さってそのままタイヤに飲み込まれてた。

スパナは次の日にタイヤ交換の業者さんが発見して「お客様のものではないですか?」って見せにきてくれた。トップのはその写真です。

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