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もくもく雲と羊とメレンゲ

ひとり留守番、夕暮れの16時。
幼い私はお腹が空いて、だけどお菓子は底をつく。甘いものならなんでも食べたい、という強い欲望が、砂糖をそのまま食べるという暴挙に出たのは、もう10年も前の話である。

そして今、私は再び、空虚な16時を過ごすことになった。外に出られない日が続くのに、家にはお菓子がない。何か解決策はないかと悩んでいると、
「そうよ!お菓子がないなら、家にあるもので作れば良いじゃない!」と、我流アントワネットが叫んだ。「その通りだわ!」私は、貴族風に彼女の提案を聞き入れた。

「クッキー 簡単 美味しい」。出てきたのは、メレンゲクッキーだった。砂糖と卵だけで作れるらしい!それだけでも魅力的なのに、雲や羊の形をしたそれらは、心臓をギュン、と刺激した。なんて愛くるしいんだろう。完成を想像し、小躍りしながら調理を開始した。

しかし、結論から言うと、メレンゲクッキー作りは失敗に終わってしまった。形作るまでもなく、メレンゲができない。混ぜても混ぜてもふわふわにならず、あるのはベタベタな何かだけ。自分でも信じ難い話だが、卵パックを使い果たしてもなお、それはついに完成しなかった。

とりあえず焼く。メレンゲでもなんでもないそれを丸くして、60分間オーブンの中に放置する。私の雲と羊はどこへ行ったのだろう。冷ややかな春風に吹かれて、どこかへ飛んで行ってしまったのだろうか。戻ってきてくれ、ふわふわたちよ。ここにはベタベタしか居らんのか。焼けた音で思考が遮られたところで、成れの果てを覗きに行く。

すると、なんとそこに、マカロンを挟む部分が出現していたのである!なんで!棚からぼた餅的な何か!?と戸惑いつつ、それらを灼熱から救ってひとつ手に取ると、砂糖が溶けて指に絡まり、熱が垂れていることを私に伝える。とても美味しそうである。謎の幸運に身を任せ、私はそれらを喜んで咀嚼することにした。さっきまでのベタベタな億劫を吹き飛ばし、たるんだ味を堪能していると、だんだん脳まで砂糖の熱に溶かされてしまいそうになる。

ふと窓に目を向けると、もう空が藍色に染まっている。ヴェールのような薄い雲の隙間から、眠り羊が見えた気がした。甘さのせいで胃がもたれてきたのを感じ、「もう子どもじゃない、いつまでも甘い夢はみていられないんだな。」なんて哀感を醸す私に、ここで一応、冷静に忠告しておこうと思う。糖尿病には気をつけてよね、と。

◯あとがき
こんにちは!!
なんだか突然エッセイぽいエッセイを投稿しました。
こちらは課題で書いた文章なのですが、パソコンに眠らせておくのはなんとなくもったいない気がして、noteに投稿しました!📣💓

最近は抹茶味のシルベーヌを食べて、抹茶の人工的な味を愛でています。愛してる。春になるとやたら出てくるさくらの味も人工的で最高。愛してる。

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