大人になった僕はカレーを合成する

皆さん、レトルトカレーは好きですか。
僕は好きです。
皆さん、キーマカレーは好きですか。
僕は好きです。

ところで、カレーといえば色んな種類がありますよね。チキン、ポーク、ビーフ、ほうれん草。入れる具材によって様々な変化を見せ、本格的にスパイスから調合していけば恐らく地球上に同じカレーは二つと存在しないでしょう。
カレーとはこだわればこだわるほどに底が見えず、無限のポテンシャルを秘めた料理だと言えます。それゆえ、カレーの道を志す者は誰しもが自分の信じる最強のカレーを目指すことになります。

しかし、ちょっと待ってください。目指すのは”それ”だけでいいんしょうか?
世のカレー職人たちは見落としています。カレーでありながら、研鑽を忘れられたカレーを。

そう、レトルトカレーです。

僕はレトルトカレーの道を照らすべく、今だからこそ出来るレトルトカレーの合成を試みました。
以下はその記録です。

選手入場

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左から
・ハウス カリー屋キーマカレー 132円 コンビニで購入
・セブンプレミアム キーマカレー 192円 コンビニ(セブンイレブン)で購入
・ハウス 旧ヤム邸牛豚キーマ オープン価格(300円程) ドンキホーテで購入
・MCC食品 小野員裕の鳥肌の立つカレー オープン価格(400円程) ドンキホーテで購入

これらが最終的に合成され一つのカレーとなるわけですが、次にそれぞれの特性を記しておきたいと思います。


・ハウス カリー屋キーマカレー

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写真では色合いがちょっと分かりにくいが赤っぽくビシャビシャのソース。
特筆すべきは開封した時に鼻を衝く刺激臭。スパイスなのだろうが酸味の混じった匂いが露骨に漂う。味は酸味が強く、苦みもある。かなり尖った味である。
100円のレトルトカレーに多くを求めてはいけないが、とにかく匂いがキツい。スパイスなのか薬品の匂いなのか判別がつかないので、初心者にはオススメできない。100円しかないけどキーマカレーが食べたいという時にしか手に取らないだろう。正直、混ぜない方が良かったと思う。

・セブンプレミアム キーマカレー

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セブンプレミアムのキーマカレーはここ最近でかなりオススメのキーマカレー。ソースは固形に近いため脂と分離している。オーソドックスなカレーの色で、匂いもやや強めだが気になるほどではない。初心者には少しスパイスが強いかもしれないが、慣れた人ならば米を食わせるために特化したスパイスのバランスに唸るであろう。とにかくご飯との相性が良い。200円で買えるキーマカレーとしてはかなりレベルが高いのではないか。余談だが、セブンプレミアムのキーマ以外の他カレーも同じスパイスを使っているようで、そっちはベースの味とスパイスが調和しておらず美味しくなかった。

・ハウス 旧ヤム邸牛豚キーマ

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ソースは液体に近いが、ドロっとした感じ。匂いはかなり優しく、具にしめじやニンジンが入っている。野菜が多めなので味も甘味が強い。スパイスもそちらに合わせているのか、とにかく食べやすくておいしい。何となく同じハウス食品のカレーマルシェを彷彿とさせる味がする。キーマカレーが苦手な人でも普通に食べられるほど一般的なカレーと遜色がない。ただし、やはり食べるとキーマ特有の後味があるので飽くまでキーマカレー愛好家から見ての評価となる。全く期待せず買ったので、これだけ単品でもう一回食べたい。

・小野員裕の鳥肌の立つカレー

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小野員裕(おの かずひろ)って誰?と思って調べたら有名なカレー研究家らしい。見てわかると思うが、ハウスのカリー屋キーマカレーと同じぐらいシャビシャビで、色も他と違えば値段も400円と一線を画している。本格的なインドのカレーをレトルトで、と謳っており、確かにスパイスの香りと見た目はインドカレー屋で見るそれである。味はスパイスと酸味が強め、普通はこのタイプのカレーは食べにくいが値段をかけている分、調整力で食わせてくる。ハウスのカリー屋キーマカレーを高級にした感じ。このタイプのカレーは米よりもパンやナンの方が相性がいいだろう。決して不味いわけではないが、これが400円かぁ、と思うとたまに高級食品を買うと遭遇する「高級路線を目指した結果、美味しいのか不味いのか判断つかないような味」という評価になる。

やっていきの図

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知性がないので小さめのグリルパンにレトルトパウチを4つ同時に突っ込む。沸騰し始めるとお湯が溢れて大変よろしくなかった。良い子はちゃんと大きめの鍋で茹でよう。

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沸騰して5分ほどたった後、全てのカレーを突っ込んだのがこちら。
色はよくあるカレーで匂いはするのだが、混ぜたどのカレーとも違う匂いがしていた。なぜ?と思ったが合成とは予期せぬことが起きるものである。
余談であるが僕は人類の追い求める神秘になぞらえてこのカレーを「ユニバース」と名付けた。

実食

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鍋に火をかけた所、キッチン中に匂いが広がったが、やはりどのカレーとも違うのでかなり不安になっていた。
しかし、味までは分からないので果たしてレトルトカレーを4つ合成するとどうなるのか、その真実を確かめるためにいざ実食。
ガッと口にスプーンを運ぶ。

!?

あ、味の印象が薄い!!!

僕は混乱した。4種類のカレーは全てそれぞれ特色のある味を持っていた。酸味、甘味、苦味。しかし、合成したこのカレーは表現するならば「どこにも向かわない味」だった。
味がないわけではない。ただ物凄くぼんやりしている。何を考えてこのカレーを作ったんだ?と製作者の意図を勘繰りたくなるが、けして答えには届かない。不味いわけでもない。カレーの味はする。基礎はしっかりしている。しかし、何がしたいのか全く分からない味がする。甘いカレーが作りたかったのか?酸味のあるカレーか?肉は?スパイスは?分からない……何もかもが……このカレーからは何も伝わってこない……ふと自分がこのカレーに付けた名前を思い出す。

「ユニバース」

それは宇宙を意味する。僕がレトルトカレーの道を照らすために覗き込んだ先は深淵であった。この道は理解するには余りにも深く、そして、虚無であった。

ちなみにユニバースを食べて数秒後に死ぬほど汗が出てきた挙句、10分ぐらい汗が止まらなかった。味が全然辛くないのに汗が出まくったので明らかにスパイスが人体に悪さをしている。

真面目に考えてどうしてこんなことになったのか?

最初にこの企画を考えた時、僕は物凄く美味しいカレーになるか、ものすごく不味いカレーになるかのどちらか(多分後者だと睨んでいた)ので虚無のカレーが出来上がるとは思っておらず滅茶苦茶驚いた。
今回、4種類のキーマカレーを合成して気付かされたことは各社が作っているレトルトカレーとは味の方向性を決めて作られているということだ。
製造過程で「こういう味にしよう」とゴールを定めて作られている。つまり、それぞれのレトルトカレーが既に完成している
完成しているカレーに他の完成したカレーをぶつけるとどうなるのか?
それが今回の実験ではっきりした。結果はコンセプトが対消滅するだった。
酸っぱさで食べさせようとしているカレーに甘さで食べさせようとしているカレーをぶつけると味が喧嘩するのではなく、両方の味がした結果、何を考えてこんな味にしたのか分からない味になるのだ。
よくよく考えると当然のことだが、普通は合成したら虚無が生まれるとは思わない。大変勉強になった。
そして、同時に同じコンセプトを持ったカレーを合成すればハイグレードになるのではないか?と考えた。つまり、レトルトカレーを作る会社がコンセプトを定めてカレーを作っているなら、こちらもコンセプトを定めて合成すればいいのだ。甘い系のカレーを集めて合成すれば甘い系のカレー+4が出来ると僕は睨んでいる。そのためには宇宙にも等しいレトルトカレーの裾野を踏破せねばならぬし、レトルトであろうがカレーは深淵にして容易く測りうるものではない。その教訓をもって今回は終わりとしたい。

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