異世界狩人飯 #2

前回の続きです。
自分で書いてて割りと気に入ってます。



「金の丑亭へようこそ。好きにかけていきな。」
俺は(女神に圧をかけられて)ミノタウロスの迷宮を攻略すべく、近くの村で情報を集めることにした。
情報を手に入れるのに手っ取り早いのは、やはりこういう居酒屋的な店だろう。
流石街から遠く離れた村。あちこちガラの悪そうなモヒカンとかが多いな…
「どうも。この村の方ですか?」
「あん?ボウズ、旅人か?」
おぉ、怖い怖い。元の世界と違って法律とかが無い分、いきなり殴られるなんてザラだが、そうしてこないこのモヒカンはまだ良識的だ。
「えぇ、先程来たばかりで。どうでしょう、一杯奢りますよ。酒のお供に干し肉も。」
「ヘッヘッヘッ、ニイチャン良い男だな。まぁ座れ座れ。」
経験則からして、恐らくこの人はこの村でもトップレベルの冒険者だろう。鞘は古いが、よく手入れされた柄…ってレイピアかよ、見た目に似合わず変わった剣使ってんな…
「んで?そんなに気前がいいんじゃ、聞きてぇ事でもあんのか?」
来た来た。これを待ってたんだ。
「あぁ、ミノタウロスの迷宮について…」
「やめときな」
…あれ?うん?あれ?思ってたんと違う…。
「え、ど、どうして…?」
モヒカン頭は、持っていた酒を飲み干し、テーブルに強く叩き付けた。
「あそこは、俺の仲間が皆で挑んで…誰も帰ってはこなかった。」
「え…?」
あり得ない、そう言いかけた。
この世界には、死の概念が存在しない。
この大元世界を統べる神の手によって、死ねば新たに転生し、本人の意思によっては記憶を継承したまま望んだ年齢でやり直すことが出来る。
…が、それはこの世界であれば、の話。
「ミノタウロスの迷宮は、別の世界の領域だ。影の世界を統べる神のな…」


その日は、村の宿で夜を越す事にした。
「まぁ、タカヒロならなんとかなるっしょ。」
「なるわけねぇだろ…」
迷宮は諦めるしかないか…とはいえ、諦めようにもこの女神は許してくれないだろう。
「お前、仮にも神なんだろ?復活の魔法とか使えねぇの?」
「あーむりむり。そんな便利な魔法とか知らんし。色々メンドーな誓約とか条件付きの物ならあっけど。」
無しだな。この前なんか気まぐれに猟銃みたいなの出してっつったら苦労して買った装備が魔力変換されて消滅したし。
死んだ命蘇らせろっつったら舌取られても文句言えねぇ。
「どうすっかなぁ…」
とは言いつつ、猟銃用の弾丸を作って、その日は眠った。


「うっし…」
朝の五時、真夏とはいえ、山が近い村だったからか、少し涼しい。
まだうっすらの霧が出ている中、迷宮に向かって村を出ることにした。
「やっぱり行くんだな」
振り向くと、あのモヒカンが村の看板に寄り掛かっていた。
「あぁ…。行かなきゃならねぇ理由があるんだ。」
「そうか…これを持って行きな」
そう言ってモヒカンは、俺に向かって何かを投げてきた。
「…真実の水晶?」
かなりのレア物だった。この水晶は、隠し扉や隠し罠など、魔力によって見えなくされている物の効果を薄める効果がある。
物によって効果の高さや大きさが異なるが、手のひらサイズかつ、触るだけで心を見透かされるような感覚に陥るほどの魔力が凝縮されているものは初めて見た。
「あいつらの残したモンだ。俺のために色んなダンジョンに潜っては、お宝を俺にくれた。その中の一つだ。」
「いいのか?そんな大切なモンを…」
「いいのさ…俺は、適当な言い訳して、ダンジョンに潜ろうとしなかった臆病者だ…生きて帰ってこいよ、もう、見知った顔が帰ってこなくなるのは嫌なんだ。」
ゆっくりと村へ戻っていくモヒカンの背中は、今にも崩れそうなほど、寂しそうに見えた。
「こりゃあ、まだまだ死ぬわけにはいかないな」



今回はこんなところで。
次回、迷宮入り。文字通り。

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