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あかり

私の名前はあかり。
新卒でこの会社に来てもう8年目になる。
その間ずっと、叶わない恋をしている。

私がこの職場に配属された日。私の面倒を見てくれたのは田中先輩だった。
彼は私を席に案内してくれた。他の同期は、どちらかといえば面倒臭そうに連れて行かれるのだが、彼は丁寧に対応してくれたのが、片思いの始まりだった。

彼は私の前の席だった。私は毎日、彼を見て仕事に励んだ。
日々の忙しい業務の中でも、誰に対しても誠意を持って対応し、困難な仕事にも決して怯まない姿がとても素敵だった。
田中先輩の支えになればと自分の仕事を精一杯こなした。彼が遅くまで残業の時もできるだけ彼に付き添ってサポートしていたつもりだ。
でも彼には決してこの思いは言えなかった。私の精一杯は、彼の前だけいつもより少し、頑張ることくらいだった。

私が3年目の人事移動の時、田中先輩は仙台に移動になった。栄転だった。
私は彼の出世がとても嬉しかったけど、思いを伝えられない悔しさと悲しさで胸がいっぱいになった。いつも表情を隠して頑張ってきたけど、この時ばかりは思わず涙をこぼしそうになり瞬きをして耐えた。

そして今。5年も会えていないが、私はまだ田中先輩が好きだ。
仕事はベテランになったが、体力的に限界を感じるようになり、遅くまでの残業は控えるようになった。疲れているのか瞬きや思わず目を閉じて休むことも増えてきた。
「そろそろやめた方がいいのかな。」もう彼に会うことは叶わないと思いながら切ない気持ちになっている。

今朝、フロアでの雑談が耳に入った。今日は来客があるようだっだ。
なんとなしに聞こえた話をぼんやりと思いながらなんとか仕事に励んでいると、
私の目に田中先輩の姿が飛び込んできた。

以前と変わらない穏やかな表情、フロアの人それぞれに軽く会釈をして軽やかに入ってる様子に胸が熱くなり、「私にも気づいてほしい」と強く強く、願った。

その時だ。プツンと私の中で何かが言った。
あ、目が見えなくなってる。体に力が入らない。

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