Trash Can
-Still Life Stories2-
彼女が空っぽの時、僕は満たされている。
だから僕は自分が空っぽの時の方が安心する。彼女の感情が振り動かされていないから。
僕はいつも彼女の部屋の隅で、じっとしているけど、毎日彼女の断片を感じることができる。
今日のレシートにはいろんな食材が書かれていて、料理をするぞ!という気合を感じる。何かを書きつけた破られた紙には思ったように進まなくて悔しい気持ちを感じる。美しいデザインの包装紙が綺麗に畳まれて入ってきたこともあった。最近身につけているネックレスのものらしい。最近ずっと帰りが遅かったから、頑張ったご褒美だろう。
彼女の断片は僕の気持ちを揺らす。僕は彼女のことが好きだ。
今日の彼女の帰りは遅かった。
10時ごろドアが開き、重い足取りの彼女が帰ってきた。
身だしなみが崩れているわけではないのに、身体中からどんよりした雰囲気を感じてしまう。真っ暗な部屋に入り込むと僕を抱きかかえ、ティッシュの箱を掴み、床にぺたんと座った。
「あ、傷ついたんだ」すぐにわかった。
彼女は数枚まとめてティッシュを取ると大きく鼻をかみ、僕に投げ入れた。ティッシュは湿っていて、こすりとった化粧の匂いがする。そのあとすぐにグスグスという声が聴こえ、続けてティッシュをまとめてとる様子を感じた。僕を右手で抱えて膝の上に置き、ティッシュで鼻をかんでは涙を拭いてどんどん僕を満たしていく。
僕がもうお腹がいっぱいになり、これ以上は受け付けられないところまで来てしまった。
ティッシュの箱ももう2つ目が終わりそうな勢いだ。どうしたらいいのだろう、何も慰めてあげられない。何があったのだろう。こんなに僕を満たすことはかつてなかった。
僕は、聞いてあげられるけど、聞いているよとは言ってあげられない。もちろん抱きしめてもあげられないし、ただただ、彼女の断片を受け取ることしかできない。でもなんとかしてあげたい。
僕の気持ちが高揚してきた時だった。スマホが鳴り暗闇の中で光った。
彼女は画面に触り耳に当てる。
「うん、そうだね、ううん、ちょっとびっくりしたんだ。大丈夫、ちょっと泣いただけ。え、うん、でも、嬉しかったの。」
話す彼女の声は、思いの外明るかった。何があったんだろう。
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