父親の育児論ー哺乳・ミルクのあげ方

赤ちゃんにとって哺乳は生きてゆく上でとても重要なことである。哺乳により赤ちゃんは必要な栄養を取り入れ、成長発達してゆく。多くの母親にとって哺乳はそれほど難しくない。母乳哺育は比較的場所を選ばずに赤ちゃんに哺乳することができ、良質な母乳により赤ちゃんは十分に栄養補給することができる。
様々な原因で赤ちゃんに十分量の母乳を与えられないとき、母乳の代替品として人工乳(いわゆる粉ミルク)を使用することができる。

父親は母乳保育ができないので多くの場合、人工乳を用いて赤ちゃんに哺乳させる必要がある。

I 哺乳瓶

人工乳を与えるときには哺乳瓶を用いる。哺乳瓶は様々な大きさのものがあり、材質も様々である。新生児期には小さなものを使うが、次第に哺乳量が増えてゆくので、大きなものでは240ml入るものもある。離乳期には取っ手が付いて赤ちゃんが自分で持って飲めるマグも使用されることがある。

哺乳瓶の材質にはガラス、プラスチック、樹脂などがある。伝統的にはガラスの哺乳瓶が使われていたが、ガラス瓶は割れるという欠点がある。しかし、熱いお湯で溶かした後赤ちゃんが飲める温度までミルクを冷ましやすいという利点がある。プラスチックの哺乳瓶は比較的軽く、落としても割れることはない。樹脂はプラスチックの利点に加えてミルクを冷ましやすいという利点が加わっているようである。はじめて赤ちゃんが生まれたときにベビー用品売り場に行って実際に様々な種類を見てゆっくり選んで欲しい。

II 乳首

哺乳瓶に入れたミルクはそのままコップのように飲ませることは稀である。普通は乳首をつけて赤ちゃんに吸って飲んでもらうことになる。乳首の材質はゴム製とシリコン製の二種類である。ゴム製の方が柔らかいので吸う力の弱い子はゴム製の方がいいかもしれない。大きさはSMLの三種類ある。結構重要なのは穴の大きさである。吸ったときに穴が小さいと少しのミルクしか出ないし、大きいと大量のミルクが出るので、不適切な乳首を使ってしまうと、穴が小さすぎると赤ちゃんが欲しいだけミルクが出ず怒りだすし、穴が大きすぎると口の中にミルクが入りすぎて溺れそうになってしまう。最初は小さ目の穴の乳首を使用して、大きくなって飲む量が増えてきたら手作業で穴を大きくしてゆくというのも一つの手である。

口唇口蓋裂の赤ちゃんではミルクを吸うときに空気が漏れやすいので、普通の乳首ではうまく吸うことができないことがあり、その場合には特に柔らかい特殊な乳首を使うことがある。

III 粉ミルク

人工乳は一般に粉状になっており、お湯で溶かして使う。缶に入っているものでは、専用のスプーンが付いている。スプーンすり切り一杯の粉ミルクを一定量のお湯に溶かす。(例えば40mlのお湯にスプーン一杯とするとお湯80mlでスプーン二杯、120mlでスプーン三杯、、、である)その他、スティックタイプがあり、スティックにあらかじめスプーン一杯分の粉ミルクが入っており、直接お湯に溶かせるようになっている。また、フリーズドライ製法でスプーン一杯分を一つの塊にしているものもある。お値段はそれぞれそれなりなのでお財布と相談して揃えるのがよいだろう。

粉ミルクを製造しているメーカーは数社あるが、厚労省の基準で製造している粉ミルクならどれも原則として品質は同じである。どれを選んでも大差はないので好きなのを選べばよい。

カロリー量は母乳で100mlあたりおおよそ67kcalである。一般の粉ミルクも100mlあたりおおよそ67kcalであまり変わらないようである。

ミルクを赤ちゃんにどれだけの量を飲ませればいいのかというのもビギナーのお父さんお母さんが悩むところである。

一般的なミルクに必要量の式は1日の量として

160〜180ml(/kg) x 体重(kg)くらいが目安である。

これを生後1ヶ月までは1日8回に分割して授乳する(つまり3時間おきに授乳である)。生後1ヶ月を超えると夜中の一回を省略して1日7回に分割する。生後3〜4ヶ月以降は欲しがったら欲しい分だけ授乳させる完全自律哺乳が可能になってくる。完全自律哺乳でも一回に240ml以上はあげる必要はない。だいたい200ml作って欲しいだけ飲ませるとよい。一日量で1000ml以上飲めるようになるとそろそろ離乳食の準備を考えよう。赤ちゃんの哺乳量が足りているか不安な人は月に一回(どうしても不安な人は週に一回)、時間を決めて哺乳前に体重を測ればよい。それで増えていれば問題ない。生後3ヶ月くらいまでは一日に25gくらい増えていれば合格である。中には一日50gくらい増える児もいるし、中には一日10gしか増えない子もいる。よく暴れる赤ちゃんはカロリー消費が激しいので体重の増え方が少ない傾向にあるように思う。赤ちゃんの体重の増加が心配な人は1か月検診まではお産をした産婦人科、それ以降になれば小児科に相談するのがいい。

IV お湯

粉ミルクはお湯に溶かさなければならない。できれば80℃のお湯に溶かすと粉ミルクに混じっている雑菌も消毒できるので好都合である。外出先でミルクを飲ませる場合には魔法瓶にお湯を入れてゆくのもよい。

重要なことは入れたミルクはすぐに赤ちゃんに飲ませるのではなく、しっかりと冷ますことである。慌てて飲ませるとミルクが熱すぎて赤ちゃんが口をやけどする危険がある。まず落ち着こう。哺乳瓶は流水で冷やしてもいい。大人が熱くて持てない状態で飲ませてはいけない。大人が安心して持つことができてやや暖かい程度で、よく振っても熱すぎないことが確認できればよい。冷ましすぎてミルクが冷たくなっても悲しいよね。

温度を確認したら赤ちゃんに飲ませてあげよう。できれば飲ませる前にはオムツを替えてあげよう。首の座っていない赤ちゃんは横抱きにして、頭をお父さんの肘でしっかり支えて、反対側の手で哺乳瓶を持って赤ちゃんが安心して飲めるように角度を微調整しながら飲ませてあげよう。赤ちゃんが飲むのを嫌がったりグズグズ言うようなら無理に飲ませる必要はない。一旦、ミルクを口から離して赤ちゃんの状況を確認しよう。すぐに欲しがるようならまた飲ませてもいい。泣き止まないときにはおむつが濡れている場合もある。少しのミルク量で眠ってしまった場合には起きてからミルクを欲しがる場合もある。1時間以上経っていたら新しいミルクを作ってあげよう。

V 洗浄

使い終わった哺乳瓶や乳首は洗う必要がある。しっかり水ですすぐならば他の食器と同じように中性洗剤で洗ってもいいと思うが、小さい赤ちゃんには心配だという向きには漬け置きできる洗浄剤もある。

漬け置きはタブレットを一錠入れた水槽に放り込むだけでいいので気楽である。一晩漬け置いたら水洗いして乾燥させればいい。哺乳瓶や乳首の形は複雑なので汚れが落ちにくい場合もあるが、そのときにはブラシで擦り洗いする必要がある。理科の実験用具のビーカーやフラスコを洗う気分で洗えばよい。家庭では一人の赤ちゃんが使うだけだから、まあ煮沸消毒までやる必要はないと思うけれど、心配な人はやってはいけないということはないよ。

VI 液体ミルク

最近、液体ミルクが日本でも認可された。当初は災害用として導入されたのだが、便利さもあって予想以上に売れているそうだ。最近、液体ミルクに直接装着できる乳首も発売されたということである。

液体である分、単価は高いのだけれど、粉ミルクを溶かす必要がないので初心者のお父さんにとって、慣れない授乳をする負担が軽減されるかもしれない。注意しておかなければならないのは、封を切るまではミルクは無菌状態で保たれているのだけれど、封を開けた瞬間から細菌汚染の危険に晒される。(高価なミルクなので)もったいないからと途中で飲み残したものを保存しておいて時間をあけてもう一度同じものを飲ませてはいけない。一度飲ませたものは残りは涙を飲んで捨てることを徹底しないと、赤ちゃんに細菌汚染されたミルクを飲ませることになる危険が出てくる。

液体ミルクの開封後の再利用は厳禁である。

VII 特殊なミルク

特殊ミルクとは先天代謝異常や腎疾患などの治療のために特別に供給されるミルクであるが、主治医が特別に申請しないと手に入れることのできない本当に特殊なミルクである。

一般に売られている特殊ミルクは例えば牛乳アレルギーや乳糖不耐症の子供のためのミルクであろう。また、脂質吸収障害の子を対象にした中鎖脂肪酸を配合したMCTフォーミュラなどがあるが、必要のない人は間違って買わないようにすべきである。高価だし当該疾患の児以外には意味がない。(ちょっと趣味を入れてご紹介)もし心配な人がいれば主治医の先生と相談して購入するかどうか決めればよいと思う。

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