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アニメ「ガールズバンドクライ」感想 井芹仁菜さあ


※ネガティブな感想を多分に含みます
 我が魂の聖地・川崎を舞台にした3Dアニメーション「ガールズバンドクライ」が遂に完結した。……したんだが、結局最後までこのアニメとうまく分かり合えなかった。というか、途中までは割と分かり合えていたんだけど、気付けば明後日の方向へ突き抜けていた。
 今回は「ガルクラのどこに惹かれたか」「明確な方向性の変化」「井芹仁菜の存在がもたらした功罪」の三点から、自分から見たガルクラの話をしていく。

圧倒的に面白かった序盤

 まず、このアニメの序盤、1~5話は掛け値なしに面白かった。よく動くキャラは「RWBY」を彷彿とさせたし、主人公・井芹仁菜の圧倒的な牽引力も目を引くものがあった。
 仁菜はかなりクセの強いキャラクターだ。負けん気が異常に強く、自分が正しいと思い込んだらなかなか折れない。時折強いコンプレックスが覗くこともあり、言ってしまえば「めんどくさい人」だ。しかし、時には素直な一面もあり、このバランス感は不思議な魅力があった。
 仁菜は予期せぬところで問題を起こす。その飛躍したようにも見える行動は、脚本をプロット以上に面白くしていた。自分はこの時期にガルクラにドハマりしたし、サブスクは私一人で1000回くらい再生したし、爪痕残された。「視界の隅 朽ちる音」最高!

桃香の葛藤・少しずつ覚醒する仁菜

 やはり、序盤の見どころはこの二つに尽きる。再起したかに見えて内側には多くの葛藤がある河原木桃香、それをよそに音楽へのめりこんでいく仁菜。そんな仁菜の姿をモチベーションに、桃香もだましだましバンド活動を続けている。歪ながらも強固な二人の結びつきが、物語に共感と意外性をもたらしている。桃香の葛藤は6話以降も話の中心にあり続ける課題だが、もっとも彼女の核心に迫っていたのは5話だったと思う。

示される「打倒ダイダス」の目標

 序盤から中盤へ移行するにあたり、5話では明確な目標が提示される。仁菜は桃香脱退後のダイダスを猛烈に敵視し、少しずつ「打倒ダイダス」へ傾いていく。この方向性の変化が、のちの展開にも大きく影響してくる。
 ガルクラという作品は、徹頭徹尾「私は間違ってない」という仁菜の信念を軸にしている。自分が愛した桃香の歌を貫く。その過程でダイダスと衝突するというのは、ある程度自然な運びだろう。バンド活動に対する仁菜の熱意は、この時点で他メンバーのそれを大きく上回っていた。ダイダスはその熱意の受け皿とも言え、6話以降の明確な目標になっていく。
 もうここまでは完璧だった。仁菜の推進力があれば、6話以降も停滞することはないだろうと感じた(実際、停滞という停滞はなかったと思う)。行き先が定まったなら、後は進み続けるだけだ。このとき俺はたしかにガルクラと肩を組み、一緒になって歌っていた。
 ……次週からちょっとずつイカレ始めるなんて夢にも思うことなく。

中盤・井芹仁菜暴走編

 さて、今までは「思ってることを思いっきり歌うの楽しい!」で活動してきた井芹仁菜だが、ここで明確に「打倒ダイダス」へ舵を切った。これを機に、井芹仁菜が暴走し始める。

井芹仁菜の暴走① ルパ智加入

 まず手始めに、プロ志望の海老塚智・ルパ両名を自らのバンドに引き入れる(他にも意味不明なグッズで売名したりしていたが、これは暴走というよりは奇行である)。桃香はこの時点でプロになる気などない。……が、安和すばるの作戦により、二人は半ばゴリ押しで加入することに。
 この辺りで「もう桃香のことは放っといてやれよ」「お前は他三人と頑張れよ」という当然の感情が湧き始める。また、いくらすばる主導の策とはいえ、ガッツリ裏で根回ししているのもダサい。そういうのメチャクチャ嫌いだろうに(実際、仁菜は乗り気でなかったようで、すばるを糾弾してはいる)。

井芹仁菜の暴走② 予備校辞めます

 完全にプロ志望の方向で固まり始める一同(というか四名)。そんな中、桃香はバンドから脱退することを告げる……。
 このタイミングで、仁菜のギアが一段階上がる。なんと、ライブ中のMCで予備校退学を宣言してしまう
 この発言は後に桃香からも咎められている。突拍子もなくそんなことを言ったことに対してではない。ステージで個人的事情をぶちまけたことに対してである。このことについて、本編では以下のような会話がある。

桃香「ステージはお客さんに見せる場所だ 一番大切な場所だ
   お前の個人的事情を話す場所じゃない」
仁菜「だからこそあそこで言いたかったんです 桃香さんに」

第8話「もしも君が泣くならば」

 どういうことなんだ…………。
 何が「だからこそ」なのか、俺は未だに納得できない。
 いや、理解はできる。「だからこそ」というのは「一番大切な場所」というところにかかっている。一番大切な場所で、人生の重大な決断を宣言する。そうしてみせることで「退路を断つ」自らの姿を見せたかったのだと思う。「個人的事情を話す場所じゃない」と桃香が付け加えているため、若干ややっこくなっているが。
 いや、でも個人的事情を話す場所じゃないだろ。仁菜は自分の筋を通すことが最優先で、周囲の事情を顧慮できていないことが多い。……おかしいな、4話でそういう話をしてたはずなんだけど……なんか成長した風だったけど……。まあ人は簡単には変わらないな……。嫌なリアリティだ。あくまでも仁菜と桃香の対立を描きたいところなのに、仁菜の意識の低さがノイズになっている。
 また、桃香と口論になる場面で「そもそも桃香さんがいけないんです」「私達に何にも言わないでいきなりやめるとか 最後だとか」などと言っているが、「何の相談もなしにプロ目指すと決めた奴に言われたくない」と切られている。ド正論すぎる……。すばるは「どっちもどっち」と言っているが、どう考えても仁菜の問題である。個人がバンドをやるやらないというのは自由だが、集団の方針を勝手に決めるのは明らかに悪いだろう。仁菜と桃香が5:5で悪いという話にしたいようだが、いくら譲歩しても2:8くらいで桃香が正しい。

桃香の背を押したのは結局ダイダス

 先に言っておくと、これにモヤモヤしているのは自分の気持ちの問題なので、流してもらっていい。
 すばるの説得もあり、仁菜と桃香は改めて対話することに。桃香は、自分が再びバンドを始めた理由を仁菜に打ち明ける。

あの時 仁菜が歌ってるのを見て 自分が最初に歌っている姿を思い出したんだ
仁菜は 売れたいとか 認められたいとかじゃなく
好きな歌をただ歌っていた
あの時の仁菜は 私が好きだった私なんだ あの頃の私なんだよ
だから 仁菜のまま 歌い続けて欲しかったんだ
なににも縛られず その歌を横で聞いていたかったんだ

第8話「もしも君が泣くならば」

 これに対し、仁菜は「私の気持ちはどうなるんですか」と返す。プロを目指してダイダスに勝ちたい仁菜と、仁菜に自分と同じ苦しみを味わわせたくない桃香。二人の決定的な方向性の違いが端的に表されたシーンである。
 仁菜と桃香の議論は平行線で、仁菜の説得を受けても桃香は動かない。そんな中、ダイダスのメンバー達が桃香を見つける。桃香が車で脱走したり仁菜が身体を張りすぎたりといった諸々ののち、ダイダスメンバー達が桃香に言葉を届ける。
 …………ここまで時間使って最後はダイダスメンバーなのか。
 まあ、無理からぬことではあって、桃香がプロ入りを拒むのは「仁菜を守りたい!」という気持ちだけが理由ではない。ダイダスを抜けたことへの強い負い目が桃香にはあり、それが彼女を臆病にさせていた。そこに折り合いをつけなければ、桃香と仁菜が同じ方向を向くことはできない。
 このシーンにはある程度の必然性がある。仁菜が居なければ、桃香とダイダスメンバーが再び話す機会は訪れなかった。二人のイザコザについて言語化するという意味でも、このシーンは必要だと思う。
 ただ、俺はここに至るまでの数十分、ひたすら仁菜の暴走を見せられているのだ。ここまできたら仁菜にガッツリ解決してほしいというのは自然な考えのはず。結局ダイダスメンバーと良い感じになって解決というのは、これまで使った尺への冒涜だ。順序がちょっと変わればいいだけだろ!? ダイダスメンバーと話す機会があって、そのあと仁菜とぶつかり合う。それで良かったのでは?
 ここまで言っておいてなんだが、このシーン自体は滅茶苦茶良いシーンだと思ってる。上述のようにダイダス→仁菜と進んでいたのなら、話のテンポが悪くなっていただろうし。仁菜の強いキャラクター性を活かすなら、この場面は一つの最善。ただ、それを差し引いても、俺は仁菜に〆てほしかった。それだけの話。

終盤・消化不良気味なラスト

 中盤に関しては色々と思うことがあったが、その後は安定したエピソードが続く。桃香と方向性が一致したからか、仁菜の暴走も終息した。
 9話は後半の良エピソードだと思う。仁菜の真っ直ぐさが総じて良い方向に作用しており、「こういうのでいいんだよ」と思わされる回だった。智は加入早々イザコザに巻き込まれて、ルパほど状況を楽しめてもいない不憫なキャラだった。この回を機に不憫な印象は払拭され、正式に仲間入りできたと思う。
 10~11話も面白かった(すばると祖母の問題が画面外で解決したのは険しかったが……)。仲良くお別れできそうで安堵していた俺に、12~13話が襲い掛かる。

もう嫌な予感しかしなかった12話

 12話のラストシーンを見た時は派手に頭を抱えた。
 後は終わるだけ! というタイミングで揉め事になるのは危険信号である。ラストに向けて、今までにないトラブルが起こるというのは珍しくない。ただ、個人的な考えを述べるなら、ここで揉め始めると大抵うまくいかない(いくらでも例外はあるが)。大体うまいこと収拾がつかなくて、微妙に遺恨を残すからだ。この期に及んで悩んでるフェイズ見たくねーよという問題でもある。
 これ絶対来週揉めるよな? 「半ば出来レースの対バン」というところでも軽く揉めたんだから、もう後はライブに挑むだけでよくないか? いくら頭の中で脚本家を激詰めしても、答えが返ってくることはない。

やっぱり揉めた13話

 やっぱり軽く揉めた(揉めたというか、まあ仁菜が暴れた)。
「良いものが評価されるとは限らない」という話を是が非でもしたかったんだろうが……。今までも知名度の差・自分達のスタイルを貫く大変さは切実に描いてきたはず。積み重ねを信用してもよかったのでは? ここで改めて落とす意味が分からない。
「不利な対バンに挑む」という部分によりフォーカスし、一丸となって努力する様子を描く。それではいけなかったのだろうか。
 事務所やめる時のヤケに爽やかな表情の五人も何なんだ。いや君らの心情からすればそうだろうけど、三浦さんはどんな顔したらいいんだ。「せいせいしたのかな」とか思っちゃうだろ!
 最後ライブで〆るのも刺さらなかった。ライブやるなって言ってるわけじゃない。もうちょっと良いラストシーンがあったと思う。たとえば、ファーストシーンとの対比で、電車内で「運命の華」を聞いている子が映るとか……。一応EDが似たような役割を果たしてはいるが、EDはEDでしかない。たとえ天丼気味であろうと、しっかりラストシーンを用意した方が良かっただろう。Aパートでライブ終わらせて、Bパートは事後処理しつつラストシーンへ向かっていくのが好ましかったと感じる。
 あ、仁菜とヒナのエピソードは良かったと思います

総評

良くも悪くも仁菜が中心

 このアニメは、魅力も問題も展開も、全部が井芹仁菜にぶちこまれている。仁菜が居なければここまで面白くならなかったが、仁菜の行動が要らんノイズになったのも否定できない。自分は途中から桃香に寄り添って視聴していたので、7話あたりから仁菜が恐怖の対象になりつつあった。何が怖いって、9話では智に対して適切な距離感で接しているところ。桃香はあんなに猛追されたのに……。そんなわけで、自分は中盤からだいぶ引き気味で視聴していた。

触りだけでも見る価値はあり

 クセの強い作品だが、良作の類であることは間違いない。とりあえず1~3話までは見てみる価値があると思う、人によっては人生で五指に入るレベルで刺さる
 また、本文であまり触れられなかったが、キャラの動きが本当に凄い。動かし方にメリハリがあり、3Dアニメあるあるの「同じ表情が多くて飽きる」といったこともない。びっくりするほど顔がグニャグニャ動く。劇伴も総じて良く、独特の世界観を形成している。

 色々言ったけど、今期自分が見たオリジナルアニメの中では一番おもしろかった。今後も展開は続くとのことなので、川崎市民として地道に応援し続けたいと思う。

以上

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