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アニメ「アストロノオト」感想 ナオスケガチ恋勢ワイ、キレる


 このアニメへの怒りを消化できないまま何週間も経ってしまった。
「アストロノオト」は、ここ数年で五指に入るほど不愉快な作品だった。特に最終回。最終回のクソさという点においては、本作を超えるものもなかなかないと言える。
 不愉快な作品というのは世の中存外少ない。つまらない作品というのは大半が退屈なもの、あるいは展開が不可解なものだと思う。しかし、この作品は明確に不愉快で、完成度が低く、また傲慢である。
 思い出すたび気分を害すので、感想記事として放出しておきたいと思う。

あらすじ・特色

 まずは本作のあらすじから。

料理人・宮坂拓己が新たな就職先として面接に訪れた、木造アパート"あすトろ荘"。
そこは"朝食付き"が売りなのだが、可憐な大家・豪徳寺ミラの料理に耐えきれなくなった住人の要望もあり料理人を募集していたのだ。ミラと出会った拓己はその場で一目惚れ。急遽作ったアジフライは大評判。拓己の住み込み料理人としての生活がスタートする。

しかし、それは穏やかな日々とはいかなかった。癖のある住人たちとの、ご近所より近く、家族より遠い距離感の中、次々と巻き起こる不可思議な現象。ふとしたことで知った、ミラが宇宙人だったという秘密。拓己が抱くミラへの恋心はどうなってしまうのか。
また、不可思議な現象の謎は解明されるのか?
食卓から宇宙にまで広がる、
新感覚SFアパートラブコメディ!

「アストロノオト」公式サイトより

「新感覚SFアパートラブコメディ」と謳っているように、本作はラブコメ・SFの2パートが存在する。主人公・拓己とミラのやり取りを中心に「あすとろ荘」のコミュニティを描く、ラブコメ、というか日常パート。そして、ミラとその護衛・ナオスケが中心となり「鍵」を探すSFパートである。
 ミラはミボー星の王位継承者であり、正式に王位継承権を得るには「鍵」を見つける必要がある。そして、その鍵は地球にあるというわけだ。
 このコンセプト自体は決して悪くない。ミラは自身が宇宙人であることを隠しながら生活しなければならず、様々な危機を避けながら「鍵」を探す。時には住民から誤解を受けながらも進んでいくドタバタSF……悪い題材ではないと思う。問題はその調理の仕方にある。

日常とSFの繋がりが弱い

役に立たないあすとろ荘の面々

 本作全体を通して気になるのは、日常とSFパートの繋がりの悪さである。その中でも、あすとろ荘の面々が全く役に立たないのには辟易する。
 あすとろ荘の住人は、つかず離れずの共生関係にある。日常パートでは住人を個別にフィーチャーした場面も多く、彼らの生活から拓己・ミラが何かを学ぶこともある。
 しかし、この住人達がSFパートでは何の役にも立たない。トラブルに巻き込まれて慌てふためいたり、スパイに洗脳されて暴れ回ったりと、モブでもできるようなリアクションや邪魔ばかり。各人の職業や特技を活かして助けてくれることはほとんどなく(というか全くなかったのでは)、いつもナオスケばかりが頑張っている。じゃあなんで日常パートが存在するんだ。日常を通してつくられた関係が、物語の推進力になっていない。それはある意味リアルなのかもしれないが、これはアニメでありエンタメである。どれだけ個性があっても、それを活かした場面がないなら持っていないも同然だ。

トラブルを起こすためだけのSFパート

 上記のような状態のため、SFパートが日常へ与える影響も微々たるものだ。
 一応、日常→SFと比べて、SF→日常の繋がりはある程度存在はする。SFパートで起きたトラブルが発端で、キャラクターに新たな悩みが発生したり。だが、逆に言えばその程度である。まあそうだわな、一緒に頑張ったわけでもなんでもねえんだから。
 たとえば、SFパートで一緒に頑張った結果仲が深まり、日常パートでも一緒に居る場面が増えるとか。普通の作品ならよくあるそういった相互作用が、本作には皆無である。ナオスケ・ショーインなどの一部キャラが半ばワンオペ気味に解決し、それとなく事態が治まる。拓己やミラすらろくに活躍しないことがある。そんな顛末ばかりだから、誰も成長しないし仲良くならない。ニチアサ特撮でときどきノルマのように怪人が出てきて1~2分で処理されることがあるが、あれと似たようなものだ。退屈な画をなんとか動かすためにねじ込まれたシーンとしか思えない。

意味不明の最終回

 それ以外にも個別で言いたいことは色々とあるが、まあ最終回と比べれば微々たる問題だろう。葵のことをいつまで経っても思い出さない拓己・CV杉田であること以外に個性も見どころもない若林父など、本当に色々とあるのだが。それら全てへの呪詛を吐いていく余白はないし、精神的余裕もない。
 本作の最終回は、それまでの悪いところが全て凝集したようなエピソードだ。役に立たない住人・微妙にズレてるとしか思えない主張など、その全てが一斉に襲い掛かってくる。

最後まで何もしない住人共

 最終回、色々あってあすとろ荘は巨大ロボットに変形し、宇宙からやってきた脅威と戦うことに。――この前提についてどうしても知りたいというなら、本編を視聴してほしい。先に言っておくと俺はおすすめしない。
 奮戦する拓己とミラだったが、多勢に無勢で機体が拘束されてしまう。
 分かりやすく二人の命、ひいては地球全体の危機。そして、それをあすとろ荘の中心部から飯食って観戦している住人共。
 もう死んでしまえよ。拓己・ミラは、他の住人の命も背負って戦っているのに。ナオスケも頑張ってサポートしているのに。お前らは実況かよ。挙句、戦闘中に電話かけてきて「メシ作って食ってもいい?」である。この際お前らだけ宇宙に放出されてしまえ。
 もっと、こう、あるだろ? 拘束された時の衝撃で機体にトラブルが発生して、住人達が修理のために内側で頑張るとか。どうして見てるこっちがイライラするような方向にばかり持っていくんだ。まだ気絶して何もしていない方がマシだ。

しれっと人殺しになるミラ

 なんやかんやあって敵艦隊の中枢に迫ったミラは、旗艦の艦橋へ銃口を突き付ける。その後、しばしの対話を経て、ミサイルフルバースト。相手艦隊を跡形もなく吹き飛ばす。
 ナチュラルに人殺すよね?
 世の中には、こうした表現を「ギャグだから」「いちいち気にしすぎ」などと語る人間も居る。しかし、自分は一切納得できない。どんなテイストで描いたにしろ、やったことは消えない。ミサイルで敵艦隊を吹き飛ばしたカルマは、それがコメディであろうとシリアスであろうと関係なく付きまとうものだ。
 敵が脱出している描写があるならいいのだが、その後は一切敵の兵士が映らない。おそらく消し飛んだのだろう。人畜無害ですといった顔で恐ろしいことをする。
 というか、ミラの立場的にも軽々とそんなことしちゃいけないのでは? 王位継承権の持ち主がミサイルぶっぱなして、他国の艦隊を壊滅させる。国際問題なのでは。まあそんなこと考えていないのは火を見るよりも明らかであるから、これ以上の追及はしない。

ナオスケの扱いが納得いかなすぎる

 その後、あすとろ荘の変形は解除され、元の場所へ帰ってくる。そして、目的の「鍵」も手に入れたミラはミボー星へ帰る――はずだった。しかし、ミラは「帰りません」と宣言し、王位継承権を放棄する。

生まれた時から決まってることって 本当に正しいことなのかな
守らなくちゃいけないことなのかな
私 ミボー星に居た頃 好きなものなんてなかった
好きなものを見つけようとすることさえしなかった
でも ここには好きなものが沢山ある
これからも もっともっと好きになる
もう一度 あそこに戻ることを選択したら 私は私を許せない
私は 自分を幸せにする道を選ぶ

「アストロノオト」12話より

 はい。
 帰ってからまた地球に来ればいいのでは。「鍵」をミボー星に戻さないとトラブルの元になるし、王位継承権を放棄することも直接伝えるべきだろう。おまえ、王位継承権の持ち主として良い思いもしてただろうが。辞表ってのは家で書いてタンスにしまえば提出したことになるのか?
 あすとろ荘での触れ合いを通して、自分が幸せになる道を選ぼうと決断する。そのストーリー自体は立派だ。しかし、最終的にそのような選択に至るのが不可解きわまる。
 結果、「鍵」はナオスケが持ち帰ることになる。おそらく諸々の事情を説明するのもナオスケだろう。なんでナオスケがコイツのケツを拭かなきゃならないんだ?
 ナオスケは「それも俺が自由に選んだ人生だ」と言っているが、どう考えてもよそに皺寄せがいかないよう名乗り出ただけである。誰かがやらなきゃいけないからやる。それが自由な選択というのなら、ミラも一度ミボー星に帰るべきだろう。
 なぜナオスケだけが責任を背負う選択をしなければならないのか? 所詮は使いパシリの護衛だからだろうか? それとも見た目が犬畜生だからだろうか? 階級主義だかルッキズムだか知らないが惨い話だ。
 この作品の負債は全てナオスケが引き受けていた。ミラが鍵探しをサボっても、その分ナオスケが頑張っていた。いつだってナオスケが最も目的達成のために努力していた。そのナオスケが、最後の最後に最大の負債をまた背負うことになる。なんでだ。
 俺が本作で一番許せないのは、このナオスケの扱いである。自由には責任がつきものであり、ミラはその責任を放棄した。その結果、近しい人物であるナオスケが代償を支払った。物語が示す「自由」の在り方として、これより酷いものを俺は見たことがない。まだナオスケも一緒になって責任全放棄する方がマシである。

総評

 この作品は駄作だ。
 再三言っているように、ストーリー構成が稚拙。加えて、作品のテーマにかかわる「幸せになる道を選ぶ」という部分も、納得いかない部分が多い。豪華なキャストが喋りの快調さで誤魔化してくれているが、それでも作劇の緩さが隠し切れない。
 葵・ナオスケの関係は結構見どころを感じたが、ナオスケが不憫すぎて幸せな終わり方にも見えなかった。
 老若男女問わず視聴をおすすめしない。5時間近い余暇があり、それをドブに捨てても後悔しないというなら視聴してもいいだろうが。

以上。

サムネイル
「アストロノオト」公式サイトより
https://sh-anime.shochiku.co.jp/astro-note/?story=11

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