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35.古代豪族の館?~家形埴輪の世界を見る~

 奈良県立橿原考古学附属博物館で開催中(令和6年4月20日(金)~令和6年6月16日(金))の春季特別展”家形埴輪の世界”を見学した。家形埴輪を一堂に集めた展示で全国的にも珍しい企画であろう。そういえば、神戸市五色塚古墳には家形埴輪は見あたらなかった。(34.参照)埴輪に何ら知識のない人でも、立体に復元された家形埴輪を見ればどういう構造をしていたのかは一目瞭然である。とにかく古代の豪族が住んでいた館(家?)であったことがリアルにわかり大変面白いので紹介しよう。

奈良県立橿原考古学研究所附属博物館入口
第1展示室
第2展示室

 奈良県立橿原考古学附属博物館は奈良県下の考古資料を一堂に集めた考古学博物館としては全国最大規模の陳列を誇る。今日は開館9時の15分前に到着した。特別な講演会もないので開館前に並ぶ人はいない。そう、入館一番乗りである。遺跡の現地説明会ではマスコミの取り上げられ方(新聞の一面に出るような発見があった遺跡、古墳等では数千人に及ぶ)によって人数の増減があるが、どこでも一番乗りの方がいる。現地説明会(略して現説という)では数時間前から並ぶのは常だという。もちろんその努力の甲斐があって真っ先に遺跡を見学できるが…。今日はその一番乗りの人が味わった贅沢な空間を楽しむことができた。

【正面】 切妻造屋根の平屋式(美園古墳 大阪府八尾市)古墳時代前期
【妻側】柱は3本(2間)
【背面】内開き扉の軸受け装置がある。

 上記写真は大阪府八尾市に存在した美園(みその)古墳出土の重要文化財家形埴輪である。一辺7m前後の方墳そのその周溝から出土したものである。またその内部は扉の軸受けがつくられており、細部にわたって忠実?に再現されている。(それを撮影するには限界であった。是非、実見していただきたい。)小古墳にも関わらず出土の埴輪が素晴らしい。家形というが倉庫とう説もあるが、どうだろうか。

入母屋造屋根の平屋式(寺口和田1号墳 奈良県葛城市)古墳時代中期

 上写真は直径24mの円墳の墳頂部から出土した家形埴輪である。正面の入口(2個の空洞がある)上にはヒレ飾りがある。かなり個性的なデコレーションがされた家屋である。寺口和田古墳群木棺を直葬する10数基からなる群集墳であることから、古墳時代中期に属する。群集墳の中の長であろうが本当にこのような立派な家屋に住んでいたのであろうか?

子持ち家形埴輪(西都原古墳群170号墳 宮崎県西都市)古墳時代中期

 上写真はレプリカであるが、わが国でも類例のない珍しい家形埴輪としてある意味著名である。中央に入母屋造屋根の竪穴建物+手前に入母屋造屋根+左右に切妻造屋根の平屋式掘立柱建物が連結している。現在でもこのような遺構は出土していない。ある種、謎の子持ち家形埴輪である。

東日本最大(高さ168㎝)の家形埴輪(壬生富士山古墳  栃木県壬生町)古墳時代後期
日本最大(171㎝)の家形埴輪(今城塚古墳 大阪府高槻市)古墳時代後期

 上写真はそれぞれ巨大な家形埴輪である。(上)は入母屋造屋根で屋根全体に連続三角文という特殊な?文様が表現されている。(下)は日本最大の家形埴輪で高さ171㎝もある。展示レジュメによると「三分割焼成技法」という極めて珍しい焼成方法であるという。つまり①上屋根部+②(下屋根部・高床部)+③(床下部・基部)だそうだ。単純に考えて171㎝もの高さの埴輪を焼くこと自体が難しいのであろう。それ以上に重要なことは、何故これまでにして人の身長以上の埴輪を作る必要があったのか?だと思う。

家屋文鏡(佐味田宝塚古墳 奈良県河合町 レプリカ)古墳時代前期

 開館一番乗りで、一堂に集められた家形埴輪の贅沢な空間を味わった。家形埴輪は完全な形で出土することは皆無に等しい。何故なら古墳の墳丘の中央部や下方の造出し部分に立てられており、ほぼ削平破壊されているからである。また同じものが少ない、類例が少ない等、わからないことだらけである。しかしこの様に復元されて立体的に私たちの目の前に現れている。この古代人のメッセージをどう読み取るか?である。私は見学を通じて根本的な疑問を持った。つまり家形というが本当に家なのか?という問いである。生前の豪族の居館を表現しているといえば説得性があるが、これまで紹介してきた立派な家形埴輪も、小規模な古墳からの出土が多いのは何故か?直観的であるが、これは家ではなく死者を安置したいわゆる殯(もがり)の施設なのではないか!ということだ。伊勢神宮等、堅魚木を乗せた高床の建物は家屋ではない。神の座する神殿である。家形埴輪を見て、家という文字に違和感を感じた方々も多いのではないだろうか。つまり居住空間というより死者を安置する聖なる建物を模しているのではないか。結論としてはよくわからない!ということが正解だろうが、是非、この家形埴輪群を見学され、独自で創造を巡らせていただきたい。
*上写真は有名な家屋文鏡である。鏡には(上)入母屋造屋根の竪穴建物、(右)切妻造屋根の高床式掘立柱建物、(左)と(下)入母屋造屋根の平屋式掘立柱建物がみられ、当時の建物の状況が表現されているものとして著名である。しかし、これは一体何の施設なのだろうか。 

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