ABC座 10th ANNIVERSARY ジャニーズ伝説 2022 at IMPERIAL THEATRE というエンターテイメント

※20240510追加
創業者の行ったことの事実・真実は一オタクには理解し難い部分や考える時間が欲しかったため本noteは一時非公開にしていました。事務所や所属タレントたちがその名前を使わない選択をしたことを踏まえて後々「創業者」に差し替えを予定しておりますが、公開再開いたします。現在は観劇した当時のまま掲載しております。



ABC座について

A.B.C-Zの5人が単独で座長を務め、日生劇場で2012年より毎年行われている舞台。

日本語版ウィキペディア ABC座(https://ja.wikipedia.org/wiki/ABC%E5%BA%A7)より

ジャニーズ伝説

『ABC座 2013 ジャニーズ伝説』が初演。作・構成・演出はジャニー喜多川。
初代ジャニーズの結成から解散までを描く芝居+ジャニーズの楽曲メドレーによるショーの2幕構成。

上演履歴
■作・構成・演出:ジャニー喜多川
『ABC座 2014 ジャニーズ伝説』
『ABC座 ジャニーズ伝説 2017』
『ABC座 ジャニーズ伝説 2018』
■作・構成・演出:ジャニー喜多川/演出:滝沢秀明
『ABC座 ジャニーズ伝説 2019』
■作・構成:ジャニー喜多川/演出:A.B.C-Z
『ABC座 ジャニーズ伝説2021 at IMPERIAL THEATRE』
『ABC座 10th ANNIVERSARY ジャニーズ伝説 2022 at IMPERIAL THEATRE』

1幕『ジャニーズ伝説』あらすじ
草野球チームのメンバーであった初代ジャニーズのメンバー。練習が出来なかった雨の日に映画館で見た『ウエストサイドストーリー』をきっかけにエンターテイメントの世界へ足を踏み入れることに。
若者の夢に寄り添い奇抜なアイデアと人脈を生かし彼らの活躍できる場を提供するジャニー喜多川の元、日本での人気を確かなものにしていく。
日本の芸能界で一躍スターとなった初代ジャニーズは、さらなる挑戦を目指しアメリカへと武者修行の旅に出る。エンターテイメントの本場でダンス・ヴォーカルレッスンや、様々なアーティストと出会い刺激的な日々を過ごし、全米デビューの夢をその手に掴みかけていた。
そんな中、スケジュールの都合で日本から帰国を求める電報が届く。
全米デビューのチャンスを諦めきれない初代ジャニーズと、若者の夢を預かる大人だからこそ失敗した際のリスクを冒せないジャニー喜多川。初代ジャニーズは悩んだ末、再度渡米することを目標に一時帰国するが──。

ここからが感想

感想の前に……

大前提として初代ジャニーズを巡る一連の「ジャニーズ伝説」という物語は、エターナルプロデューサーであるジャニー喜多川(敬称略、以下ジャニーさん・おじいちゃんと表記します)の執着と狂気の物語だと個人的には解釈しています。若者の夢を預かる大人として、駆け出しであったジャニーさんの輝かしい青春の1ページの中に残るほろ苦い後悔が原点として「エンターテイメント」への狂気が生まれたと思っています。

「わかりやすい」ジャニーズ伝説

2021年2022年ともに、ジャニ伝の演出はA.B.C-Z。(以降2021年・2022年上演版のジャニーズ伝説は「帝劇版」と表記します。)
勿論裏にきちんとそういうことを考え整えてくれる大人がいることは承知の上していますが、その上でA.B.C-Zはこの「ジャニーズ伝説」においておじいちゃんが一番何を伝えたいのか?を大切にこの物語の演出を行ったのだなということが本当によくわかる舞台でした。
おじいちゃんの記憶に基づいて描かれたシーンが削られたのは寂しくもあるんですけど、そういった部分を削って当時の時代背景がわかるセリフを入れることで、1960年代という時代の時代背景を表現し解像度を上げていったのはすごいことだなと思っていて……例えばビング・クロスビーが車を修理していたシーンを削って、中谷が「男なのに踊るの恥ずかしい」というセリフを入れたところは本当にそこがよく出ていたなと感じています。

「社長」も夢に向かって走る一人の若者

「作品に説得力が必要」という理由で2年連続出演してくださっている佐藤アツヒロさん。その説得力の一番大きいところは、(明言はされていないですが)「社長(ジャニーさん)」役とディボーゾン役が分かれたことにあるなと感じています。
上記2役を1人で演じていたのはメンバーの戸塚祥太(以降とっつーと表記することがあります)。
1人2役のため、ストーリーテラーとしての印象が強かったというか、これはわかる人にはわかるたとえですが、エリザベートでいうルキーニのような印象。
ここでとっつーよりも先輩の佐藤アツヒロさんがディボーゾンになることで、「社長」も夢に向かって走る1人の若者として物語の登場人物としての色が強く出るようになったなと感じました。

初代ジャニーズは1960年代に渡米し、本物のエンターテイメントを目の当たりにし、自分たちのレコードを作り、全米デビュー目前で帰国することになるんですけど、その帰国の理由が「日劇ウエスタンカーニバルへの出演が決まっているから」なんですね。
そもそもこのシーン、従来のジャニ伝ではメンバーの中谷(演:河合郁人)から告げられるバージョンもありました。このバージョンだとどうしてもメンバー間の意見の対立のように受け止められてしまう印象があります。

帝劇版ジャニ伝ではジャニーさんの口から「リスクはとれない」という言葉が出てくることで、1960年代の日本の芸能界において出演が決まっていた日劇ウエスタンカーニバルの出演をキャンセルすること=芸能界での活動自体が絶望的な状況となるということがすっと理解出来るんですよね。
・夢に向かって走る若者の1人である(そしてそれを応援する立場の)ジャニーさん
・初代ジャニーズのメンバーたちの人生を預かっている大人としてのジャニーさん
二つの立場のジャニーさんが、後者を取らねばいけなかったという事実をこの繰り返し上演される演目を見るたびに実感するのですが、この帝劇版ジャニ伝においては後者のニュアンスがより強く出ているのが個人的にはとても好きです。

エンターテイメントへの狂気と執念、そして昇華

いきなり完全なる余談から入るのを許してください。
ジャニーズ伝説初演の2013年、A.B.C-Z5枚目のDVDシングルとして『Never My Love』が発売されました。この時、初代ジャニーズで果たすことのできなかった夢を、デビュー曲で「時代を超え5Stars」と歌った、A.B.C-Zに歌わせるおじいちゃんの狂気と執念に震えたんですよね。

ここからが本題。この帝劇版ジャニーズ伝説は、そんなジャニー喜多川氏のエンターテイメントへの狂気と執着の元凶である苦渋の決断を丁寧に描くことで、その気持ちをすくい上げたような印象を受けました。
日生劇場上演版(初演~2019年まで)は、存在していなかった役柄の7 MEN 侍(※ジャニーズJr.のグループ、本人役として出演)。帝劇版からの演出として7 MEN 侍のメンバーたちが「社長」に出会い、これから進むべき道・何を目指すべきなのかを問いかけたことで、「すべての始まり」の物語を追体験していくという流れになりました。
前述のジャニーさんの苦渋の決断と後悔にまつわる物語を主演のA.B.C-Zが、これからの未来であり夢に向かって走る若者(ジャニーさんが誰よりも応援し続けていきたいと願った存在)として7 MEN 侍を置くことで、エンターテイメントという物語は脈々と受け継がれていることが描かれていると認識しました。

ジャニーさんが演出をしていない帝劇版で追加されたシーン(だと思ってます)、1幕最後にジャニーさんのことを早くおいでよと呼ぶ初代ジャニーズのシーン。エンターテイメントへの狂気と執着の果てに、魂の落ち着く先は原点回帰──あの青春の1ページ。

2幕SHOW TIME

最高すぎるので全人類に見て欲しい!!!!!!のですが、チケットの手配が難しすぎるので全人類に見てもらうことができない歯がゆさ……
ノンストップ、怒涛の勢いで展開される数々のデビュー組の楽曲。メジャーな曲からマニアックな曲まで詰め込んだ最高のショー。これこそジャニーさんの求めた「エンターテイメント」だったんだろうなと感じています。
1幕で「すべての始まり」の物語を見た上で、2幕にその種が芽吹き花開いた姿を見せてくれる構成が本当に大好きです。
1幕のジャニーズ伝説がどこか寂しさを残す終わり方をするので、2幕のSHOW TIMEで楽しい気持ちで終われるこの構成、宝塚の二本立てに近いそれで本当に最高。A.B.C-Zの現代のアイドルとしての爆発力はないかもしれないけど、いつまでもどの世代にも通用する実力のあるクラシカルなエンターテイメントが出来る強みが出ているなと感じました。
あとこれは個人的に大好きなポイントなんですけど、5Stars(ハムスターが回す滑車みたいな装置)でくるくる回るA.B.C-Zが大好きです。5Stars出してくれてありがとう。

最後に

『ABC座 ジャニーズ伝説』はジャニオタの必修科目。こういった苦悩と決断の果てに連綿と続く歴史の上に成り立っているのだと思い出すと不思議と最近の悲しい話題も少しずつ受け入れられるような……そういった気持ちにさせてくれる素敵な舞台です。ジャニーズ伝説に限らず、ABC座をA.B.C-Zがライフワークとしてくれていることに感謝してこの記事を締めくくりたいと思います。