12時過ぎ
父は最後の夜、病室でいびきをかいて寝ていた。
最後の夜になるとは思わず、とはいえ危ない状態ではあったから、私はこの夜から病室内の仮ベッドで眠ることに決めて、その日が第1日目だった。
いびきをかく父の横で、暫く本を読んでいるうちにウツラウツラしてきた私は、ふと辺りが静かになったことに気がついた。
「あ、いびき止まった。
静かに眠ってくれてる。」
そのあと私はまた眠ってしまったようで、気がつくと、看護師さんが私を起こしながら慌てていた。
数分後に駆けつけた医師から、父は逝ったと告げられた。
夜中の12時過ぎだった。
かれこれ10年ほど前のこと。。
父は生前、時計店を営んでいた。
母に先立たれてから暫くして店をたたみ、一人でマンションに住んでいた。
部屋にはまだ商品の在庫がいくらかあって、私が結婚したときに掛け時計を一つ分けてくれた。
丸い木目調の枠でシンプルな時計。
もう23年の付き合いになる。
時計の位置、変えようかな、と思い立って数ヶ月経っていた。え、もう11月終わるよね。カレンダーの数字に急かされるように、やっと脚立に上って手を伸ばす。
うっすら積もっていた埃をぬぐう。
いつも見上げている時計は、間近で見ると結構迫力があって、秒針がスルスル動くのを眺めてるとなんだか生きてるみたいだ。
ふとまた父を思い出す。
きれいに拭き上げたら、新しい場所にそっと掛けて目を閉じ手を合わせ、
呟く。
「パパ、素敵な時計をありがとね。」
目を開けた。
あれ、秒針が動いていない。
昼の12時で止まったまま。
スマホを見ると、12時5分。
電池が外れていないか確認したけど変わりなし。
このタイミングで電池切れですか?
また12時過ぎですか?
電池を新しいものに変え、時間を正確に合わせ、再び壁に掛け直す。
この出来事を通して、自分なりに捉えたメッセージ。
「お父さんも、あれから場所を変えて、エネルギーチャージして、こっちで元気にやってるよ。まあ、そっちもがんばんなさい。」
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