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症例振り返り7 アナフィラキシーでのグルカゴン

蜂刺傷でのアナフィラキシーショックを続けて経験しましたが、アドレナリンの効きが悪くてグルカゴンに初めて手を伸ばしました。

症例 男性

蜂に手を刺されて、その数分後に体調不良が出現してwalk-inで受診。
来院時は冷汗、全身皮疹、収縮期血圧90台。

この時点でアナフィラキシーショックと認識されてアドレナリン0.3mg筋注+生食全開投与が行われました

その後も血圧がいまいちで、10分後に再度アドレナリン筋注。
しばらくして血圧130と上昇してきたため、経過観察入院。

私に入院担当の依頼あり介入開始。

まだアナフィラキシーを脱していないのでは?

診察に行くと、全身の皮疹が残存している。
wheezeは聴取しないが、なんとなく呼吸苦はある。
嘔気あり、入院後に3回トイレに行き水様便3回あった。

普段診ているアナフィラキシーショックの症例の多くは、アドレナリン投与後速やかに皮疹が消退していき十数分後には皮疹がなくなっていることが多いです。

研修医の先生に「アナフィラキシーが来ているのでお願い」と呼んで、到着した時には「急ぎだったから全部やってから君を呼ぶことになっちゃったんだけど、来た時には全身蕁麻疹が出ていたんだよ」と症状が改善した段階でプレゼンすることが多い。

そのくらいのスピード感で良くなっていくのがアナフィラキシーショックの典型例であると、経験的に知っていました。なので、入院して僕がタッチした時の所見から「アナフィラキシーを脱していないのでは?」と疑問に思うことができました。

アドレナリンの効果が乏しいアナフィラキシー

研修医の先生は合言葉を覚えておくとよいです
「アドレナリン、アドレナリン、それでもだめならグルカゴン」

βブロッカー、α1ブロッカー、ACE-Iなんかを内服している人ではアドレナリンの効果が減弱してしまうことがあります。
そんな時にグルカゴンを使うのです。内視鏡検査の時に腸管蠕動を抑えるために使うグルカゴンがこんなところで役に立ちます。

グルカゴンはカテコラミンの受容体とは別の経路で、心筋内のcAMP濃度を上昇させて心筋の収縮力を上昇させるとか。作用機序は聞いてもピンとこないですね。

機序はともかく「アドレナリン、アドレナリン、それでもだめならグルカゴン」と覚えておく方が価値はあります

この方はARBを内服していました。ACE-Iでアドレナリン作用の減弱があるようなのでARBでも同様のことが起こっていたのかと思います。

血圧は保てていたためグルカゴン1mgをdivし、投与終了後15分経つと皮疹はほとんど消退しており、腹部不快感や嘔気も消失しました。

グルカゴンの注意点

グルカゴンを使うときの注意点は

  • 最初から使うものではない。1stはどんな時もアドレナリン0.3mg筋注→(ガイドライン改定され0.1mg/kgで0.5mgがMAXになりました)

  • 血管拡張作用があるため、アドレナリン+volume負荷がされていない状態で使うと逆にshockを助長してしまう。

  • グルカゴンをivすると嘔気を来たす。気道管理に注意する。

経験を大事にする

治っていく過程を経験していることで「何かがうまくいっていない」と思えることができました。「治し方を知っている」のと同じくらい「治り方を知っている」のは重要だなと思える症例でした。

あと、グルカゴンを使った時の治り方ですが、アドレナリンほど
すぐに効果が表れないのでは?と思っていました。しかし皮疹の消退はとても早く、これも良い経験になりました。

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