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症例振り返り5 大腿骨頸部骨折でのせん妄?脂肪塞栓について。

総合診療プログラムで地域の小規模病院に出向となりました。
その病院で今日の昼のカンファレンスで出た症例、
皆あまり知らない脂肪塞栓の話題が挙がりました。


症例:83歳女性の転倒

4日前に当地に引っ越してきた女性、2日前に転倒して右股関節を痛がっていた。元々認知機能低下が進んでいたが、さらにおかしなことを言いだした。動けないために救急要請。

救急担当の整形外科医師が初期対応を開始して、レントゲンから右大腿骨頚部骨折の診断となった。しかしRoomAirでSpO2 80%前後と酸素化低下を認めたため、酸素開始して内科医師に相談があった。

内科医師が診察に行くと、やや興奮気味に何かをしゃべっている感じ。酸素投与offしてに血液ガスを測定するとA-aDO2開大あり。心不全徴候はなく、レントゲンも肺炎像はなし。

2日間、痛みで動けなかったのかもしれないと肺塞栓を疑って造影CT撮影を実施したが陰性であった。

良く見ると両上腕に点状出血が、、、

診断:大腿骨頚部骨折後の脂肪塞栓

今回の症例は大腿骨頚部骨折による脂肪塞栓が診断になります。
脂肪塞栓は膵炎や脂肪織炎などでも起こりますが、典型的にはやはり骨折で骨髄からの脂肪滴によるものです。

今回の症例での脂肪塞栓らしい所見は3つ
①A-aDO2開大性の低酸素
②点状出血
③精神症状

脂肪塞栓の低酸素

機序としては肺塞栓同様ですが、脂肪滴はより小さく自然に吸収されていきます。そのため右室負荷所見をエコーで認めたりするものの、造影CTは陰性になります。
実は頚部骨折の人でやや低酸素で、なぜか酸素を吸っているなんてことはよくあります。内科医が診るとレントゲン・単純CTで肺炎像がないなら致死的病態としての肺塞栓は除外しなければ!!という気持ちで造影CTにという気持ちになります。
しかしそこで一息ついてもらって、ちゃんとDVTが形成されうる人なのか考える必要があります。今回は転倒が2日前なので造影CT撮影は妥当と思われます。
当日転倒で頚部骨折+低酸素+単純CT陰性であれば、造影CTは必ずしも必ようではないでしょう。

この状況では肺塞栓除外にD-dimerも使える?

肺塞栓除外にD-dimerも使えるのでは?と思われるかもしれません。確かに、現状で造影せずに肺塞栓を除外しうる方法としてはWells criteriaで低リスクかつD-dimer陰性を用いることが多いですが、骨折ではD-dimerはそこそこ上昇します。今回も高値でした。ここはやはり病歴勝負のところです。


脂肪塞栓の点状出血


よくみる点状出血はやはりうっ滞しやすいところで下肢に出ることが多いですけど、脂肪塞栓の場合には骨折部から心臓に戻る血液に脂肪滴を含んでいるので体幹や上肢にでます

脂肪塞栓の精神症状

高齢者が骨折すれば、せん妄としての精神症状は出るでしょ。と思われてスルーされていることも多いはず。しかし、脂肪塞栓でも精神症状が出るのです。脳血流に至り、かつ脂肪は血管壁との親和性も高いためBBB(Blood Brain Barrier)を通り抜けるのです。
脳梗塞による症状ではなく、むしろ化学的作用によるものと思われる精神症状がでます。その証拠に麻痺まで起こすことは稀です。
しかし、この精神症状が出たタイミングで何かおかしいとMRIを取ったりすると拡散強調像で脳梗塞像がぱらぱらと見えてしまったりするようです。

今回の患者さんは入院後翌日には興奮性が落ち着いてきました。せん妄だったら増悪するタイミングで落ち着いてきていることからも、やっぱり脂肪塞栓で起こっていたことだろうな考えられました。

まとめ

大腿骨頚部骨折では純緊急で手術に進むのがいいのですが、なんとなく低酸素で内科医が介入しだすと肺炎がとか、肺塞栓がとかいいだしてスピードが落ちることもしばしば。さらにMRIなんか取って脳梗塞像が見られたらその検討にさらに時間を費やしてしまうと何をやっているのかわからなくなってくる。

脂肪塞栓という病態を把握しておくことで、低酸素や意識障害の内科対応に追われて大腿骨頚部骨折の手術時期をむやみに遅らせないよう注意したいと思います。



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