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たまにはCPSでも読んでみる。「It’s All in the Timing」造血幹細胞移植後の酸素化低下の考え方。

診療所で働いているので入院加療に関わることが少ないですが、たまにはそういうことも考えないといけないな~とNEJMのCPSをたまに読んで記録しておこうと思います。

今回はN Engl J Med 2023; 389:940-947から。

AMLで造血幹細胞移植後、2.5週たったところでの急激な酸素化低下で発症したPERDS(periengraftment respiratory distress syndrome)でした。移植関連の合併症は良く知らないですけど、感染症をケアしつつ除外のための検査をしていく過程がが勉強になりました

It’s All in the Timing

症例

55歳 男性。喫煙歴なく、心肺疾患の既往もなし。
既往歴:高脂血症、胃食道逆流症。
AMLで入院し同種血幹細胞移植をを受けてから17日後に、息切れ、血痰を伴う咳、および低酸素血症を発症し酸素4L吸入が必要となった。

経過

移植後 14 日目
好中球減少症を伴い発熱 (最高口内温度 38.5°C)、粘膜炎、腹痛が出現。
その時点の血液培養陰性。尿検査異常なし、腹部骨盤CTで大腸炎が判明。血清PCR)検査により、CMV  DNA 上昇 (2500 IU/ml)。セフェピム、メトロニダゾール、およびフォスカルネットの静脈内投与で治療されました。
ガンシクロビルによる治療は、骨髄抑制を懸念して避けられた。他、プロトンポンプ阻害剤、ウルソジオール、ミコフェノール酸モフェチル、タクロリムス、およびポサコナゾールの予防的使用も実施されていた。

移植後16日目
Hb7.5g/dL→6.3 g/dLに減少し、濃厚赤血球を1単位投与され、血小板減少(15000/μl)のため血小板の投与を受けその後Hb、Plt上昇。
WBCは500/μlで前日の100/μlから増加。90%は好中球でした。

移植後17日目
酸素化低下あり。4L/minで開始。
酸素投与時は心拍数と血圧は正常。血清クレアチニン値も正常でしたが、体液バランスはプラスで、入院時より 11.6 リットル増加していました。

感染症チームに相談し、追加の検査が行われました。
鼻咽頭呼吸器ウイルスパネル、血清 1,3-β-d -グルカンおよび血清ガラクトマンナン抗原検査、ヒトヘルペスウイルス 6 および 8 DNA の PCR 検査、線虫 IgG 検査はすべて陰性でした。LDHも正常範囲。
喀出喀痰の細菌培養は分析には不十分で、入院時に採取した鼻咽頭ぬぐい液の検査ではMRSA陰性でした。

移植以来、ポサコナゾールによる予防的治療を受けてた。

移植後18日
胸部CT撮影しびまん性両側性肺門周囲consolidation、スリガラス状混濁が明らかになった。患者には新たな小葉間中隔肥厚と少量の両側胸水も認められた。UCGでは、心室機能、弁、推定肺動脈収縮期圧は正常。

ESBLの可能性からカバーのために、セフェピムはメロペネムに変更されました。メトロニダゾール療法は中止され、ホスカルネット療法は継続されました。

利尿剤投与しても低酸素血症が悪化したためICU入室しネーザルハイフローで酸素投与。

特発性肺炎症候群の疑いで、メチルプレドニゾロン1g/dayで経験的治療を開始した。気管支鏡検査のリスクはあるが家族と相談し、挿管して実施。

気管支鏡検査
気道は肉眼的には正常。
BAL はリンパ球増加や好酸球増加を伴わず、好中球の増加 (34%)が明らかになりました。赤血球数は最初のサンプルのと比較し4 番目のサンプルで増加していた。
BAL のグラム染色では白血球や最近認めず。抗酸菌およびニューモシスティスの染色は陰性。KOHで真菌認めず。細菌および真菌の培養は陰性でした。
呼吸器ウイルスパネルでは、インフルエンザウイルス、RSウイルス、ヒトヘルペスウイルス6型、ヒトメタニューモウイルス、アデノウイルス、およびライノウイルスは陰性でした。BAL 液中の CMV DNA の 1464 IU/ml 。

感染性原因の検査結果が陰性であったこと、利尿治療を受けた後に患者の状態が改善しなかったこと、呼吸不全のタイミングが好中球の生着と一致したことを考慮して、PERDS(periengraftment respiratory distress syndrome)と診断された。
ステロイド療法の開始後、彼の状態は急速に改善し、2 日後に抜管。酸素投与は 2 日後に中止。1 年後、彼は急性骨髄性白血病から完全に寛解した。


勉強になったこと

好中球減少性腸炎

不勉強で知りませんでした。
血液悪性腫瘍患者での細胞傷害性化学療法の結果として頻度が高く、回盲部が好発部位なんですね。

好中球減少性発熱(FN)では緑膿菌カバーが重要で、CFPMが使われることが多いように思いますが、偏性嫌気性菌のカバーも考慮する場面なんですね。(河村一郎, et al. "右下腹部痛を認めた発熱性好中球減少症の 1 例." 日本化学療法学会雜誌= Japanese journal of chemotherapy 60.2 (2012): 193-197

治療の選択肢としては
・MEPM
・CFPM+MNZ or CLDMなど。


造血幹細胞移植後の肺合併症は時期で考える

HSCT の肺合併症は、免疫系の再構成に基づいて時間的に分類される
・生着前 (移植後数日から数週間で発生)
・生着後早期 (移植後数週間から数ヶ月)
・移植後後期 (移植後数ヶ月から数年で発生) に
移植後 17 日目の時点で、この患者はドナー細胞が正常な血球を生成し始める生着期間(下記図のPhase2)にある可能性が最も高くなります。

造血幹細胞移植後の免疫不全と感染症のタイムライン

細菌性のカバーはおおむね継続できているとして、ウイルスはHSV、CMV、HHV4(EBV)、HHV6。真菌は、アスペルギルス、ニューモシスチスです。

感染症をきっちり除外するために挿管して気管支鏡検査にまで行ってるのはさすがだなと思いました。あんまり経験ないんで普通なんでしょうか、けど状況的には挿管せざるえない酸素化だったと思います。

それぞれの除外の根拠は以下
・各ウイルス:鼻咽頭ウイルスパネル、HHV6-8 PCR
・ニューモシスチス肺炎:LDH上昇なし、βDグルカン陰性
・アスペルギルス:ポサコナゾールの前投薬あり可能性が低い、GM抗原陰性(抗原検査はそもそもの事前確率設定がキモ"Antaaスライド")
・糞線虫:線虫IgG検査陰性。まったく鑑別にも上がりませんでした。この状況では考えるんですね(参考)。


免疫不全者のCMV感染症

CMVの検査って解釈が難しい。
CMV infectionかCMV diseaseかの判断は臨床判断によるところが大きいです。

今回は14日目の好中球減少性腸炎時の血中のCMV定量PCRでCMV DNA上昇からCMV腸炎も考慮されてホスカルネットが投与されています。
酸素化低下に関しては、びまん性すりガラス影でありBALのCMV DNA上昇もありますがCMV肺炎の可能性は時期的に低いのではって考察がされています。(抗ウイルス薬がすでに入っているのはもちろんですが)

CMVの検査についてはウイルス感染症の予防と治療 サイトメガロウイルス感染症 (第4版)TAKADA, Kiyonori. "サイトメガロウイルス核酸定量について.より

CMV血清学的検査: CMV IgG,IgM。移植後は液性免疫の低下があり、造血幹細胞移植における活動的なCMV感染の診断法として有用性が低い。
CMVアンチゲネミア:抗原検査、C7HRPとC10/11法がある。国内検査の主流。CMV infectionの感度・特異度>85%だが網膜症と腸炎時には陰性でも除外できない。肺炎は陰性ならほぼ除外できる。
CMV定量PCR検査:定量PCRは2020年に保険収載された。国外での検査としてはこちらが主流。
・組織検査:培養検査、組織病理検査

大事なのは
CMV検査陽性でCMV infectionとは言えてもCMV diseaseとは言えない
ということ。

CMV腸炎やCMV肺炎らしい状況でCMV infectionが証明された場合に、CMVdiseaseの疑いがあるものとして治療するか判断する。

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